3話 千里の道も一歩から
プランA。私が囮になってあそこにいる男二人と女一人の意識をこちらに向ける。その間にクルルには同胞のもとへ行ってもらう。危なくなったら火かスライムになって逃げる。
そしてプランBは、話が通じる相手だった場合の、折衷案作戦だ。
しかし、観察してみると一つ面白いことが分かった。彼らは火を消すために魔法かなにかで手から水を作り出している。これで、スライム村付近の燃えていない草の説明がついた。
(さて、いつまでも隠れているわけにはいかないし。早めにやって後から楽しよう)
「クルル、そっちは頼んだよ」
私は作戦通りに事を進めるために、人として奴らの前に出た。
「こんにちは」
「……? お前、誰だ?」
プランBに変更。話の通じる相手だ。
「わたし、道に迷っちゃって」
私の方を明確に向いたのは二人。口の悪いアニキタイプの大柄な男と、なんとも色っぽい女だ。
一人、ぽっちゃりしている男は周囲を警戒していた。
(ちょっと厄介かも)
この三人も、私と同じような力を待っている可能性がある。だから慎重に動かなくては。
「あのお」
「おい」
冷たい声とともに、私の喉にナイフの感触が走る。
(これが、ナイフ。あはは……私、歩けば死ぬんだ)
でも、不思議と怖くはなかった。
プランAだ。
私は火を念じた。
「な……!」
男はかすれた声とともに一歩下がる。その刹那、女の眼光が私を射抜いた。
「ブループラネット」
女は水の球体を生み出す。だが問題ない、それはさっき見た。
「燃えろ」
(摂氏百度。蒸発しろ)
私は力を振り絞る。だが当然彼女も諦めない。
じゅわーと音が鳴り続ける。我慢比べが始まった。
だがこれは必然的に私が不利になる。数的優位も、環境的な相性でも私は負けている。
死にたくないけどしょうがない。
私は右手を伸ばし木に火をつけた。
火は木を養分とし、スクスク育つ。
当然、女はそちらにも水をまわさなくちゃいけない。
一瞬の隙だった。私は変身を解く。
「あいつ、どこに行きやがった!」
水の蒸発のおかげで、ほんの少しの間気をそらせた。もともと私の背は低い、大きな火から突然少女になられたら、誰だってわからないさ。
限界まで視界を下げて、私は一番強そうな男に触った。お姉さん、いや天の声が聞こえたが、それどころじゃないので無視する。
「なんだ!?」
男がこちらを見るよりコンマ一秒早く、私はスライムになった。
「スライムの生き残り!?」
男は何が起こっているのかわからない様子で私を見た。私は、秘儀スライム転がりを使って女の後ろまで移動する。
女は燃え広がる火の消火と、突然消えた私を探すので焦っていた。
だからこそ、楽に騙せた。私は男になった。
「おい」
「シュラ、無事だったのね」
「ええ」
「ええ……?」
私は、女の魔法が出ているほうの手を持ち、首にナイフを向けた。
今気づいたが、予想以上に蒸発した煙が役に立っていた。この等身からだと、戦況の確認すらままならない。
「……シュラ、なんで?」
(すごい)
私は女のことなんて考えずに感動していた。
(筋肉や武器まで再現されるなんて……!)
今更かい! と思うが、今まで人外ばかりだったせいで実感がわかなかったのだ。
そんなことを考えている間に、気体は透明へと変わってゆく。
私は男二人を視野に入れたと同時に大声を出した。
「止まれ!」
「ちっ」と言わんばかりの顔をこちらに向けるシュラと呼ばれている男。
私は威嚇するように言った。
「武器を捨てて跪け、今すぐにだ」
「……くそったれ」
シュラは悔しそうにわたしを見た。この時私は、勝利を確信した。