表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/176

36話 泣き面に蜂

「……もう、朝なの?」


 私は目を覚ます。クルルが横で寝ていたので、クルルの前髪を優しく触った。


(かわいい)


 ただ、そう思う。


「ああ」


 女とは思えないほどの、(うな)り声のような低い声を出し、私は立ち上がった。


 冗談抜きで(だる)い。


「すー。よし! 頑張れ私!」


 自分を鼓舞(こぶ)し、鏡の前へ向かう。そして日課の寝ぐせ直し。


「やっぱり(くせ)強いわ」


 ブラシで反対側に巻いても、すぐにはねてしまう。


 アリアはこれをどうやって直していたのだろうか……。思い出してみる。


(誰かに直してもらっているって言ってたような……。レテシーかな?)


 呼んでみようかと思ったが、昨日は自力で直せたし、もう少し頑張ってみようと思う。


「ふんぎー!」


 ドライヤーまがいの物と、水と、三百六十度まわるブラシと、ヘアアイロンのような物を駆使(くし)して寝ぐせのライフを削る。


 その数十分後、私は鏡に映る自分を見た。


「よし、完璧」


 鏡に映るアリアの顔。少々の粗はあっても、私の知っているアリアそのものだった。


 不思議と笑顔になる。


 私はクルルを起こした。


「クルル、朝だよ」


「うーん」


 ゴロゴロ転がるクルル。私も寝ころびたい、と思う。


 でもそれは時間の無駄だし、やらなきゃいけないこともあるし、今は寝ていられない。すべてが終わった後にぐっすり寝よう。


「クルル、起きて」


「うーん」


 またも転がるクルル。私は(あきら)め、仕度(したく)をした。


 昨日、ミリアさんから聞いたこと。


「明日、教会への訪問があるのは知っているかしら?」


 そんなこと知らなかった。先に教えておいてくれてもいいのに。


(教会。またの名を、孤児院。捨て子を拾って育てている、チャリティーな施設だ)


 そして私の役目は、そこに行って子どもたちの様子を見ること。どうやらこの国は、軽い貧富格差に(おちい)っているらしく、それを解消するべくして動いているのが現国王らしい。そのためにアリアは頑張っているのだそうだ。


 逃げた第一王女。しかも大樹と。そして部屋に引きこもる第二王女。まともなのは第三王女であるアリアだけなのだそうだ。


 アリアも大変だね。などと思いつつ、いまだにドレスを着れない私はレテシーを呼ぶ。


 するとレテシーは忍者のようにすぐに現れた。


「ドレスですか?」


「うん」


「おまかせを」


 レテシーは背中の方にあるチャックを上げる。


「ごめんね。わざわざ呼んじゃって」


「いえ、気にしなくても大丈夫ですよ。ドレスを一人で着るなんて無茶(むちゃ)ですから」


「そうなの?」


「……まあ、ほとんどの人はできないと思いますよ。近くに人がいるのに頼まない人はいないと思います」


「なるほど」


 少し心が軽くなった気がした。


 着替え終わった私はレテシーにお礼をする。


「ありがとう」


 そして迎えに来てくれたアリアのお母様、ミリアさんと教会へ向かった。


 その途中でこう()く。


「ついてきてくださったのは嬉しいですけど、本当によかったんですか?」


 ミリアさんは頷く。


「いいのよ。私、今日は暇だし。それに、あなたのこと気にいっちゃったし」


 どうやら私はミリア様のお眼鏡(めがね)(かな)ったらしい。


「ありがとうございます」


「いいのよ。それにしても……」


 ミリアさんは話し出す。私はそれを聞いていたが、途中から意識が遠のいていく。


「……っ」


 突然めまいに襲われた。


 私は頭に手を置く。それを見たのか、ミリアさんは私を気にかけるように言った。


「大丈夫?」


「はい……。大丈夫です」


 私は深呼吸をして、体を落ち着かせた。


(大丈夫。頑張れ。あと半日だ)


 半日すれば、迎えに行った執事さんと共にアリアは帰ってくる。


「……ふー」


「本当に大丈夫?」


 私は笑って答えた。


「はい、大丈夫です! 教会に急ぎましょう」


 そう言って歩き始める。


 ミリアさんは心配していたが、ハキハキ喋る私を見て、次第に元の調子を取り戻す。


「それでねー、アリアったら好きな殿方(とのがた)を追いかけて」


「あははー。それ知ってます」


 私が苦笑いを浮かべたと同時に、曲がり角の先に大きな教会が現れた。


「つきました」


「……これが、託児所(たくじしょ)


 私は教会の庭を見た。子どもたちが元気に走り回っている。


 私とミリアさんは教会に向かって歩く。そしてミリアさんが教会のドアを叩いたと同時に、鋭い頭痛に襲われた。


 ドンドンと、音が反響して頭に響く。


 キャッキャ、キャッキャと子ども達の声もする。


 そんな私の服を引っ張る子ども。その衝撃で私は気を取り戻した。


「……あ。あ! ど、どうしたのかな?」


「……?」


 不思議な顔をする子ども達。


 ひっぱたのはそっちだろうがい! と言いたくなる。


 子どもの一人がこんなことを言った。


「……ホントにアリアお姉さん?」


 怖がる子ども、私は言った。


「そうだよー」


 それが、最後の言葉だった。


「……ユーナさん!?」


 駆け寄るミリアさんが見える。


 ……あれ? なんで私、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


(ん……。んん? 右手、動かないや)


 私の意識は電源を消したかのように落ちる。


 私は暗闇の中で、ずっと立たされていた。


「夕奈さん、夕奈さん!」


「……!」


 暗闇の中にいたはずなのに、窓から差し込む暖かい光が私の視界を照らした。ふと、そちらを向く。夕焼けが見えた。


「夕奈さん」


 声がする方向を見る。そこには泣きじゃくるアリアがいた。


「目を覚ましていただき、ありがとうございまず。帰って来た時に、夕奈さんが倒れていると聞き、驚きまじだ。私のせいでこんなことになっているとは知らず、ほんと、ぐすっ、すみませんでした」


 アリアは頭を下げる。


「……美人が台無しだよ、アリア」


 私はアリアの頭に触れた。


「大丈夫。怒ってないから」


「ありがとうございます」


 そんなやり取りを遠くから見つめているクルルは、レテシーに言った。


「アリア様が二人いる」


 レテシーは(ひじ)をクルルに軽く当てた。


「しっ」


 そんな二人を見る私。ほほえましいなと思う。


(状況から察するに、私は倒れたのか)


 子ども達よ、トラウマを植え付けてすまぬ。


 その時ふと、気づいたことがあった。


「……ん? てことは、もう戻っていいってこと!?」


 アリアは頷く。


「はい。ありがどうございます」


「あはは、だからいいって」


 その瞬間、私の笑顔は消えた。


 ぽたぽたと垂れる鼻血。そしてめまい。


(これはヤバい)


 私は口角を上げた。


「アリア、田植えはどうだった?」


「……あはは、できませんでした」


 アリアはうっすらと笑った。


 その言葉を聞き、私は万葉木夕奈に()った。


 安堵(あんど)と共に。


「……っ!」


 体中に痛みが走る。


「うぐう……」


 激痛の最中、私は聞いた。


「警告。万葉木夕奈のデータが破損しています。『偽装(フェイク)』の長期使用には気を付けてください」


「んなの、先に言いなさいよ……!」


 私はうずくまって耐えた。


 十秒くらいだっただろうか? 激痛は止んだ。


 私は三人に顔を向ける。


 レテシーは「ユーナさん、初めまして」と言った。だが二人は、違う反応を示していた。


 クルルは首を横に傾げ、不思議がっている。そしてアリアは、青ざめていた。


「ゆ、ゆ、ユーナさん。それ」


 アリアは私の顔を指さした。


(何が言いたいのだろうか)


「……あ」


 私も気づいた。長らくアリアでいたから、違和感を感じなかったのだ。


 ()()()()()()()()()()()()


(長い黒髪。しかもさらさらって)


 小学生以来のロングだ。中学に上がったころに(わずら)わしくてやめた髪型。


 不思議と嫌な感じはしなかった。


「……って! なんでこうなってるの?」


 アリアになってた影響か!?


 私は苦笑いを浮かべた。


(やはり三日は無茶(むちゃ)だった)


 ……今度からは気を付けよう。うん。


 これじゃあ済まなくなる日が来るかもしれないから。


 私は右手で髪をたくしあげた。


 よかった、動く。どうやら五体満足(ごたいまんぞく)生還(せいかん)できたようだ。


 私はベッドから降りる。


「あ、夕奈さん、すぐに動くのは……」


「大丈夫、大丈夫」


 疲労感は確かにある。でも、煩わしさは消えた。やはり自分の体が一番。


 近寄るクルルとレテシー。


 クルルは言う。


「夕奈、どこか変なところはない?」


「五体満足、元気よ」


 レテシーは言う。


「案外かわいい顔なんですね、ユーナさんは」


「お世辞を言っても何も出ないよ」


 アリアは言う。


「よかったです」


「アリアのおかげでいい経験ができたよ」


 私は三人を見る。


 そして自分を見た。魔法使いのような黒の(とが)った長い帽子に、茶色をメインにしたローブ。白いスカートに黒のぶかぶかした服。腰につけるポーチに、歩きにくいブーツ。そして長く黒い髪の毛。残念ながら胸は小さかった。


 うん。万葉木夕奈だ。


 満足していると、急にドアが開きマジニート・トロイポンが現れた。


「アリアよ、僕は君を愛しているぞ!」


「ふえー!?」


 アリアは驚く。私は何が起こっているのかわからず困惑していたが、レテシーだけは(ひたい)に手を置いて「ごめんなさい」と言わんばかりの表情をしていた。


 マジニートさんは言う。


「運び込まれたと聞いたが、大丈夫か? 体は?」


 アリアのお腹あたりを触るマジニートさん。アリアは顔面蒼白になっていた。


「え? え? それは私じゃなくて」


 アリアは私を見る。面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ、と思い、私は謝りながら言う。


「アリア、体の調子は大丈夫!?」


「え? え?」


 困惑するアリア。マジごめん。


 でもまあ、こう見ると、マジニートさんヤバいな。女子の体をポンポン触るなんて。


 私はいたたまれなくなり、アリアからマジニートさんを引きはがした。


 マジニートさんは驚いていた。そんな彼に軽くチョップをかまして言った。


「それ、セクハラですよ。優しさでしょうけど、デリカシーのないことはしないように」


「……? わ、わかった」


 頭の上にハテナを出すマジニート。こいつマジで殴りてえ! でも我慢。


 私はアリアのお腹あたりをポンポンと触り言った。


「大丈夫?」


「……は、はい」


 アリアの顔は引きつっていた。


 私はアリアのお腹あたりを再度触る。


「あ、あの……夕奈さん?」


 ポンポン、ポンポン。


 私の声が心の中で木霊(こだま)する。


「それ、セクハラですよ」


 セクハラですよ。セクハラですよ……。


 私は自分の左手にチョップをかまし、アリアから離れ、マジニートさんの横に立った。


 それを遠くから見ていたクルルはレテシーに言った。


「コントかな?」


「しっ」

夕奈は久しぶりの自分の体でハイになっています笑。ここまで読んでいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ