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35話 光陰矢の如し

 一日が終わる。私は天井(てんじょう)を見つめながら考えていた。


 弟のこと、この世界のこと、そして私のこと。


 もし願いが一つ叶うとすると、私は何を望むのだろうか? 一つでは足りない、願いを二つにしてくれと呆れられるようなことを言うのか、それとも、答えられずにチャンスを逃すのか。


 現代人にとって、神とは何なのだろうか? 信仰対象? それとも、ピンチの時にだけ助けてくれる都合(つごう)のいいもの?


 私は凡人であるがゆえ、その答えは導き出せない。しかし、もし仮に、『神になりたい』と願うと、私はどうなるのだろうか。


 考えるまでもない。


 一世紀は寝て過ごすことだろう。


 そんな神を、信仰する人はいるのだろうか……。


「いないでしょ」


 自分で言ってて呆れたくなる。でも、こういう妄想は嫌いじゃない。


 そんなことを考えていると、お風呂上がりのクルルが現れた。


「お風呂気持ちよかった」


「やっぱ、田舎とは違うね」


 コクコクと頷くクルル。


 彼女は私の横に座る。


「夕奈は……アリア様は」


 私は首を横に振る。


「夕奈でいいよ、今は」


「はい。わかりました」


 クルルは頷き言う。


「夕奈はもうお風呂には入りましたか?」


「先に頂いた。暇だったから」


 クルルは苦笑いを浮かべた。


「ごめんなさい。二人だけで楽しんじゃって」


 私はかぶりを振った。


「そんな! 気にしないで」


 クルルに気を使わせてしまった。一日中他人でいたから疲れているのかもしれない。寝ているときだって、休まっている気はしなかったし。


(三日は無茶だったのかもしれない)


 私はクルルに言った。


「楽しかった? お城ツアーは」


「はい。とっても」


 私は微笑む。


「念願の会話だもんね」


「はい。とっても楽しかったです。……あ、知ってますか! レテシーって意外とうっかり屋さんなんですよ。ことを急ぎすぎというか、焦りすぎというか……そこも好きなんですけど、そのせいで意外と抜けてて」


「あはは。レテシーらしいね」


 頷くクルル。どうやら新しい友達を見つけたみたいだ。年も近いし、私もうれしいよ。


「それで、レテシーたら……」


 私はクルルの話を聞く。倦怠感(けんたいかん)と少しの頭痛に襲われながら。


(ああ……)


 神様になって、誰にも文句を言われずに、休みたいな。ずっと、ずっと。一世紀くらい。


 一方その頃、アリア・ホーガンは爆睡(ばくすい)していた。


 日々の肉体労働のせいか、手足にタコができている。髪も少々(いた)んでいる。


 しかし、彼女の顔は幸せにあふれていた。


「むにゃ、むにゃ。明日も頑張りましゅ……」


 そんな寝言を言うくらいには。


「ふう……」


 たとえ話をしよう。もし仮に、急に百億円が手に入ったら、君はどうする? 遊ぶか? 貯めるか? それとも増やすか? 人それぞれだろう。だが仮に、これが百円ならどうなるだろう? それはもう、使う一択だ。誰も増やそうとは考えないし、大切に保管しようなどとは思わない。


 つまり希少性なのだ。現実的にはあり得ないが、日常的に百億を稼ぐ人は、百億を見ても何とも思わない。


 それが希少性。勇者もまた、複数いるとダメなのだ。


 男はそんなことを考えながら、パソコンにかじりつく。


「勇者の存在。なぜこの世界の権力者は万葉木大樹を選んだのか……」


 男は暗い部屋で画面を見る。


 ぼさぼさの髪に丸メガネ、意外と整っている小顔の男。


 細身な彼はネクタイを下ろし、シャツを出した、ずぼらな状態でこう呟いた。


「なめんなよ。オレの探求心を」


 男はニヤリと笑って、カーソルを動かす。


『異世界日記 七日目』


 今日はアリアの両親と話した。有意義な時間だった。


ちょっと急展開でしたね。今回は今後登場するキャラと、夕奈の精神的、肉体的な疲れを書きました。


簡素な内容に見えますが、意外と重要なことも書いてあるので、この回は覚えておいてほしいです(先生並み感)。


とまあ、ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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