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33話 女賢しうて牛売り損なう

 結局、地理のこと最後まで聞けなかった。と肩を落とす。


 私は城の一室で、小さなテーブルを挟んで、妙にニコニコしているアリアのお父様に見つめられていた。


「……お父様、何か用ですの? おほほー」


「ああ、ちょっと疑問に思ってな」


 微笑むアリアのお父様。その笑顔が怖いよ……。


「……」


 じろじろと私を覗き込むように見るアリアのお父様。


 彼は困ったように言った。


「……やっぱりおかしい」


「……何かおかしなことでも?」


(バレてないよな……?)


 アリアのお父様は歯を出して笑い、こう言った。


「やはり、やはり!」


「……っ!?」


 急に立ち上がり高笑(たかわら)いをかます男。正直怖い。


 私は平静(へいせい)(よそお)って言った。


「……何か面白いことでも?」


 アリアのお父様は笑いを止める。


「ああ。……お前誰だ?」


「……」


 私はアリアのお父様を(にら)む。


「私は、お父様の子どもですよ」


「そうか、嘘をつくのか」


「いえ、嘘はついていません」


「そうか。ならば許そう」


「……?」


 アリアのお父様は右手から炎の剣を生み出す。


「真実を言えばな。あーはっはー!」


 背筋が凍る。幽霊を認識したかのような不気味さとともに。


(あ……やばい)


 私は『偽装(フェイク)』を解こうとする。


 その刹那、それを止めるかのように執事さんが現れた。


 アリアのお父様の手は止まる。


「……じいさん?」


「はい、ジーダ・オニュセントでございます。アーサー様、剣を収めてください。この方は敵ではありません」


 私は警戒しつつも頷いた。


 アリアのお父様は不服そうに剣を消した。


「じいさんには敵わねえからな」


「ありがとうございます」


 アリアのお父様は私を一瞥(いちべつ)し、ジーダさんに()いた。


「それで、こいつの名前は?」


 ジーダさんは私を見る。私は言った。


「ユーナ、ユーナ・イグドラ……」


 冷たい瞳が私を射抜く。


「夕奈、万葉木夕奈です」


 私は恐る恐る彼を見た。アリアのお父様は笑っていた。


「そうか、お前も大変だな。それで、アリアとの関係は……」


 ジーダさんは言う。


「ご友人でございます」


「なるほどな! それは、それは、いいことだ」


 私は安堵(あんど)したのか、気の抜けた息を吐いた。


 アリアのお父様は言う。


「強そうだとは思っていたが、まさか勇者の血縁だったとは。納得だ。どうだ、じいさん、指導してやれよ」


「はっはは。ご冗談を」


 アリアのお父様はすねたように言った。


「ちえ」


 そして私を見る。彼は言った。


「悪かったな」


 私は怖くなって、聞かなくてもいいことを()いた。


「信じてくれるんですか?」


「ああ」


 アリアのお父様は笑う。気持ちの悪いくらい私を見透かして。


「お前は嘘をついてないからな」


 私はそんなことを言う彼を見る。アリアのお父様は微笑(ほほえ)んでいた。


 彼は私の肩の手を置き、こう言った。


「ありがとな、アリアのわがままに付き合ってくれて」


 私は、どうしてそこまでわかってるんだ? と思いながらも、その優しそうな笑顔にそんな疑問はかき消された。


(もしかしたら、いい人なのかもしれない)


「はい」


 そう言うと、アリアのお父様はこう返してきて、笑った。


「でもまあ、次からは事前に教えといてくれよな。じゃないと間違えて倒しちまうかもしれねえからな。あーはっはー!」


 私は顔を引きつらせながら言った。


「はい」


 アリアのお父様はジーダさんにこう言って部屋を出た。


「オレは仕事に戻る。あとは任せたぞ、じいさん」


 ふと、何かを思い出したかのように足を止めるアリアのお父様。


「そうだ。何か聞いておかなきゃいけないことはあるか?」


 私は微笑んでいった。


示談(じだん)はどうなりましたか?」


「気にすんな」


 アリアのお父様は笑う。


「あーはっは! じゃあな、アリアの友達」


 そう言って部屋を出ていくアリアのお父様。私は少々生意気(なまいき)()いた。


「執事さん、なんでアリアのお父様はあんなに笑うんですか?」


「……彼は、優しすぎたのです」


 執事さんは神妙(しんみょう)面持(おもも)ちを浮かべる。私も静かに執事さんを見た。


「笑わないと、人と戦えないんですよ。昔は静かな子だったのですが、今は笑いが癖になっているのでしょうね」


(……楽しんでるってこと?)


 いや、違うか。


 私は執事さんに言った。


「優しさは弱さなんですか?」


「はい。優しさは自分を傷つけますから」


 その言葉を聞き、私はいてもたってもいられなくなった。


 私は頷き、この部屋を出る。


「教えていただき、ありがとうございます!」


 探す、彼を。今はただ、それだけを思う。


 私は高笑いを聞いた。


 それに向かって走る。すると、タキシードを着た男と話しているアーサー=アーツ・ホーガンさんを見つけた。


「はあ、はあ……。あの!」


 私は彼の前に立つ。


「なんだ?」


 タキシードを着た執事さんは察してくれたのか、この場を離れる。私は息を整えて言った。


「優しさは、弱さじゃありません。強さです」


「……ああ、じいさんに()いたのか」


「はい」


「だったら知ってるだろ。それのせいで失うものもある。優しさは弱さだ」


 アリアのお父様は私を見た。私は言う。


「確かに、その甘さで痛い目を見ることはあります。ですが、何かを得ることだってあるんです。私は強みだと思いますよ」


「そうか」


 アリアのお父様は静かに笑い、私の肩を触ってこの場を去ろうとした。


「いいな、オレもそう思うぞ。――だがな、容赦しないことも大切だぞ」


 静かに、私に染みた。


「はい。肝に銘じておきます」


「おう」


 私とアーサーさんはすれ違うように分かれた。


(伝わってたらいいな。身を滅ぼしても、優しさを失ったら意味がないって)


「あーはっはー!」という高笑いを聞きながら、私は歩いた。


 後ろを振り返らずに。


サブタイトルは差別を意味しているわけではありません。万葉木夕奈を皮肉ったものです

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