30話 果報は寝て待て
ああ愛しきアリアよ、僕のかわいいアリアよ、君は一体いつ僕の方を向いてくれるんだい?
そんなことを考えるマジニート。ファニーと話す万葉木夕奈は悪寒を感じた。
(……なんか、視線を感じる)
「……」
私が後ろを向こうとすると、腕をがっしり掴んで私を離そうともしないファニーちゃんに止められる。
一方その頃、バカはバナナのことを考えていた。
(もぐもぐ)
その横にいる女は道を歩く女を見ていた。
(もしかして彼女、アリア様?)
そんなことを考える女の目線の先にひっそりといる男はこんなことを考える。
(うーん、これは使える。新しい変身アイテムにしよう。ガジャックさん喜ぶぞー)
満面の笑みで何かの部品を触る男の前で、ジャンク品を扱う店主は空を見つめていた。
(今日は満月か)
月を見つめる店主と同じように、城の近くで月を見つめる兵士。
「独りぼっちは、さみしいな」
そんな兵士を見つめる踊り子の女。
(頑張るのよ、わたし。今日こそ話しかけるの)
そんな彼女を楽しそうに見つめる女。女は横にいる男に言った。
「ねえねえ。あそこにいるの、私の妹なの。で、今見てるのが好きな人」
男は屋台を出す女を見つめながら、興味なさそうに言った。
「ふーん」
「ちょっと、聞いてるの!?」
男は頷く。そんな彼の目線の先にいる女は、焼きそばのようなものを作りながら目の前の女を見て思う。
(……もしかしてこの人、アリア様?)
そして商品を受け取る万葉木夕奈。彼女は疲労を感じながらも楽しんでいた。
私とファニーちゃんとレテシーとマジニートさんは共に水辺の近くに座る。
水面に月が顔を出し、まるで神様にでもなったような、不思議な気分に襲われた。
私は焼きそばのようなものを食べる。
(硬い……)
麺の感触ではなかった。どちらかと言えば、硬い肉のような感触に近い。
でも、おいしい。香辛料がいい味を出している。
ふと隣を見ると、ファニーちゃんは熱くもないのにふーふーと息を吹きかけながら涙目で食べていた。
確かに、辛いと思う。でも不思議と辛さはあまり感じない。ファニーちゃんが敏感すぎるのか、アリアの舌が鈍感なのかの二択だろう。
そんなことを考えながら完食した。
脳裏によぎるのはクルルの存在。
(早く会いたいな)
切実にそう思う。
そんなことを考える私を、月の明かりが照らす。『偽装』が解ける気配はない。それは心配しなくても大丈夫なようだ。
月は人々を照らす。次第にその人数は少なくなり、私もそれを城の中から見ていた。ご立派なシャンデリアに照らされながら。
別に高級が嫌いってわけじゃない、いい感じがしないってだけ。
私はそんなことを考えながら部屋に入り、ベッドに寝そべる。
突然レテシーが部屋に入ってきたので訊く。
「何か用ですか?」
「いえ、アリア様の様子を確認しに来ただけです」
レテシーは扉を閉める。
そして呆れたように言った。
「アリア様は頭に手を置いて寝そべりませんよ」
「はいはい」
私はベッドに座る。
そしてレテシーを見つめて頷いた。
「大丈夫、心配しなくても隠し通すよ」
「それならいいんです」
レテシーは一礼を挟み、こう言って部屋を出た。
「おやすみなさいませ、ユーナ様……いえ、アリア様」
一瞬、微笑んだ気もしたが、曖昧なので流した。
私はもう一度寝ころび、ベッドの横に几帳面に置かれたものに触れる。
これは魔法陣を生み出し、一度触るだけでロウソクの灯を消せる優れもの。
私は暗い部屋であることを思い出し、もう一度魔法陣に触れる。ロウソクに火が灯った。
「昨日の文は馬車で書いたし……」
私の力、『偽装』は所有物すら巻き込んで変身する。おかげで今はスマートフォンを使えない。
「しょうがない」
私は近くの紙を取り、机でメモを取った。鉛筆で。
『異世界日記 六日目』
今日は大変な一日だった。午前中は馬車でお尻を痛め、午後にはレテシーの指導で体中を痛めた。彼女は意外なことにスパルタだったのだ! まあ、そんな感じで忙しい一日だった。
それからは食事会やお祭りで色々食べた。トロイポン家の人達はみんな癖があって、話してて楽しかった。ちょっとトラブルもあったけど、なんやかんやで仲良くなれたと思う。ファニーちゃんが懐いてくれて少しうれしかった。そういえば、話し合いはどうなったのだろう……。明日アリアのお父様に訊いてみよう。
そして気がかりなのは、クルルのこと。
無事だといいけど……。まあ、無事じゃないわけないんだけど笑。
私は筆を置き、天井を見た。
「……ふう。寝よう」
ベッドに入り、消灯して寝た。
その地下深くで、ブクブクと音が鳴る。
青い液体は二つの足で立ち、大きな目で執事を見つめる。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
青い液体は次第に、彼女の体へと纏まってゆく。
彼女はニカっと笑った。
「夕奈、今行くよ」
そこには、少女がいた。
可憐で、美しく、優しい、女王が。




