29話 毒を以て毒を制す
賑やかな声が聞こえる。
私は変装も兼ねて帽子を深くかぶった。ふと、人ごみの中レテシーを見る。
レテシーは遠い向こうを見ていた。
私は『天眼』を使用する。
マジニートさんとファニーちゃんはまだ何とかなりそうだ。マジニートさんは震えてうずくまっているが、ファニーちゃんは意外にも抵抗している。
声は聞こえないが、見た感じファニーちゃんが罵詈雑言を並べているのだろう。
(だが今にも喧嘩になりそうな雰囲気だ。相手は細身な男と低身長な男、後は大人しそうな女の子)
今回はレテシーもいるし、負けることはないだろう。
だから私は、信じて進めばいい。
「レテシー、こっち」
私はレテシーの手を引っ張った。
そして人通りの少ない道から、彼らのもとへ向かう。
一方その頃、人気のない路地裏でファニー・トロイポンは頼りにならない兄を守るために暴言を吐いていた。
「だから、あなたたちのような犯罪者にはついていきません!」
細身の男は困ったように言う。
「だから、それじゃあ困るんだよ!」
大人しめの女は言う。
「リーダー、もう誘拐しよう」
背丈の低い男は驚いたように言った。
「いや、なんで大声で言うんだよ」
大人しめの女はもじもじしながら言う。
「ごめん」
それを見たファニーは地団駄を踏む。
「ああもう! どうするか早く決めてよ! じゃないとこっちも逃げるか戦うか決めれないんだからね!?」
ファニーは上目遣いで細身の男を見る。そんなファニーの後ろで、マジニート・トロイポンはうずくまっていた。
「僕も、僕も戦……。怖い」
マジニートはそんな自分に落胆した。
ファニーは三人を見る。
細身の男はため息を吐き、言った。
「よし、誘拐するか」
ファニーは顔をしかめる。そして拳を握った。
「来るなら、容赦はしない!」
ファニーは拳をふるう。細身の男はそれを軽々と避けた。
だがその瞬間、石のようなものが細身の男の額に当たる。
「あひゅー」
「……え?」
細身の男は倒れた。ファニーは自分の拳を見る。そしてこう思った。
(私、こんなに強かったんだ……!)
大人しそうな女と背丈の低い男は青ざめる。
「リ、リーダ!?」
ファニーは二人を見た。
「ふふん! リーダーを連れて早く逃げなさい」
「く……!」
背丈の低い男はファニーを睨む。
そして舌を鳴らし、細身の男を抱えて立ち去ろうとする。
だがそんな彼を裏切るように、大人しそうな女は包丁を取り出し、ファニーを襲った。
「ぶっ殺してやるーっ!」
「来い!」
ファニーは拳を前に出した。その刹那、ファニーの後方から石が飛んだ。
「……!」
それを華麗に避ける大人しそうな女。遠くで見ていたメイドは下唇を噛んだ。
だが一人、まるでそれを知っていたかのように動いた女がいた。
女は獣のように両手を地面すれすれまで下げ、勢いをつけて大人しそうな女に向けて突っ込む。
その瞳は、獲物を狙うものだった。
「……は!」
ファニーの横を通ったあたりでソイツに気づく大人しそうな女。
気づいた頃にはもう、遅かった。
女の腹部にめり込む拳。
足を大きく開き、大きな音を立てて踏み込んでいた女こそ……。
「……っあ」
「それ、包丁でしょう?」
大人しそうな女はうずくまる。
そんな彼女を殴った女は、帽子を深くかぶり言った。
「さっさと立ち去りなよ」
大人しそうな女の頭を優しく触る、気を取り戻した細身の男。彼は言った。
「逃げんぞ」
頷く女。彼らは逃げるように消えた。
私は帽子を脱ぎながら、振り向いてトロイポン家の二人を見る。
ファニーちゃんは目を輝かせており、マジニートさんは立ち上がりながら頬を赤らめていた。
そんな二人の後ろからぴょこった顔を出すレテシー。私は「ありがとう」と言い、二人を見た。
ファニーちゃんは言う。
「強いんだね、アリア様! 私、驚きました!」
私に抱きつくファニーちゃん。
(おお、ぐいぐい来る子だなあ)
そんなことを思いながら、ファニーちゃんの言葉を聞いた。
「でもでもー、私も強いんですよ」
可愛らしい声だった。レテシーとは違う、屈託のない笑顔でもある。そんな彼女を見ながら、私は「すごいね」と言った。
そんなユーナさんとファニー様を見ながら、わたし、レテシーは口をあんぐり開けていた。
なぜって? それはね。
「かっこいい女性だ。……第三王女アリア、うん、僕の妻にふさわしい」
マジニート様は頬を赤らめながらこう続ける。
「好きだ……地平線の先まで、君への愛でいっぱいさ」
私は口をあんぐり開けながら、アリア様の姿をしたユーナさんとマジニートさんを交互に見た。
(え?……え!?)
すれ違い恋愛の始まりです!(始まらない)




