28話 雨垂れ石を穿つ
「ほー、これは。美味、美味、美味ですなあ」
とジさんは言葉をこぼす。
「はーはっは。だろう、だろう。なんといってもオレの……私の信頼する料理人が作ったものだからな!」
アリアのお父様は自信満々にそう言う。
マジニートさんも、シェロさんも、おいしそうに食べていたが、ファニーちゃんだけは早々に食べきってしまい、物足りなさそうに指をくわえていた。
(でも、その気持ちもわからなくはない)
私も最後の食材を口に運んだ。コリコリしている。
高級料理というのだろうか……。初めて食べたが、牛丼のほうが私の口にはあっている気がする。
そんなことを考えながら、アリアのお母様を見る。
美しい。ただそれだけを思わせる。
(参考にしよう)
と私が思っていると、アリアのお父様が口を開いた。
「みんな、おいしく食べてくれてありがとう。それじゃあ、税金について話し合おうか」
コック棒をかぶった人たちが、お皿を回収する。マジニートさんの皿には半分以上魚が残っていたが、虚しく回収された。
マジニートさんは唖然としていた。
私は笑いをこらえながらアリアのお父様を見る。
ジさんは言った。
「わかりました。ですが、この場に子どもたちを置いておくのは、いささか気が引けますな」
「ほう?」
アリアのお父様は興味深そうに訊く。
「それは子どもたちが一緒だと、何かばつが悪いという事か?」
アリアのお母様は「ゴホン」と咳を鳴らして、こう付け加えた。
「すみません。国王は正直な人でして」
アリアの両親は頭を下げる。
ジさんは「頭を上げてくだされ」と言い、旨を話した。
「私が言いたいのは、子どもたちに残酷な大人の世界を教えたくないのです。ですから」
(子どもの目の前でそれ言っていいんかい!)
と私は心の中で思いつつ、アリアのお父様を見た。
正直、私はジさんの案に賛成だ。当事者以外を交えた話し合いは、あまり意味をなさない。というか、当事者と専門的な知識を身につけた人、この場合税に関する知識だ。そんな知識を持った人と当事者のみで話し合うべきなのだ。
つまり何が言いたいのかというと。
(早く部屋に帰らせてほしい)
ということだ。
私は悩むアリアのお父様を見る。露出狂ギリギリの恰好をしたお父様のお腹は、バッキバキに割れていた。
(って、私はどこを見ているんだ)
そう思ったと同時に、アリアのお父様はこう言った。
「確かにそうだな。この場に子どもがいても大して意味はない」
ジさんは頭を下げた。
「感謝」
アリアのお父さんは言う。
「ならば、子どもたちにはここで退場してもらおう」
私は頷く。
後ろにいたレテシーは私の耳元でこう囁いた。
「お部屋に帰りますか? それとも……」
私は微笑み、頷く。
そしてファニーちゃんとマジニートさんとレテシーと一緒に廊下に立った。
私は言う。
「お二人とも、今日は建国を祝う祭りを開催していますの。暇つぶしにどうですか?」
「うーん」
悩むマジニートさん。ファニーちゃんは元気よく頷いた。
「了解! 行ってきます!」
走ってどこかへ行くファニーちゃん。私が「ボディーガードいらないの?」と訊くと、大きな声でいらないと言った。
マジニートさんは困ったように「妹も行ってしまったし、腹もすいてるし、僕も行くとするよ」そう言って妹を追いかけた。
「お気をつけてー!」
私はそう言い、レテシーを見て悪い笑みを浮かべた。
「これで休める」
「まったく、アリア様らしからぬ言動ですよ」
私は呆れるレテシーを連れて、部屋に戻った。
そしてふかふかのベッドにダイブする。
「はうー」
(気持ちいい、さすが高級ベッドだ)
私はそんなことを思いながらレテシーに言う。
「レテシーも一緒に寝る?」
するとレテシーは怒ったように「まずはドレスを脱いでください」と言った。
私は飛び上がり、「ごめん、ごめん」と謝る。
ドレスを雑に脱ごうとするとレテシーが怒り始めたので、仕方なしに脱がしてもらう。
ふと下を見ると、足元が見えなかった。
(……え!? こんなに大きいの?)
と思ったと同時に、認識からか重さを感じ始めた。
(これで戦うのは大変そう)
「アリア様、いえ」
レテシーはきょろきょろと周りを見た。
「ユーナ様、でしたよね」
私は頷く。
レテシーは綺麗な部屋着を差し出した。
「とりあえず、これ着てください」
私は言われるがまま服を着る。さらさらしてて、なんだか落ち着かなかった。
レテシーはベッドに座り、隣に来いとベッドを軽く叩いた。
私はレテシーの隣に座る。レテシーは言った。
「私は、あなたのことを何も知りません。素顔すら。だから、教えてください。いろいろと」
レテシーは微笑んだ。綺麗な金髪も相まって、それはもう可愛らしいものだった。
私は頷き説明する。
アリアとの関係、何故ここにいるのかまで。私は二時間ほどレテシーに話した。レテシーは頷いたり、質問をしてくれるからかなり話しやすかった。
ああそうだ、私がスライムの王だとも話した。
「……スライムの王の次は一国の王女とは。ユーナさんは権力に縁がありますね」
私は首を横に振る。
「権力はいらないよ。私はただ、安全にだらだらしたいだけだから」
「なるほど、ユーナさんの行動の行きつく先はそれですか」
私は相槌を打つ。
「レテシーはなにか目標とかあるの?」
レテシーは首を横に振る。
「いえ、ありません」
その顔は、ひどく暗いものだった。
なにか理由があるのかと思ったが、とてもじゃないが訊けるような雰囲気じゃない。
私は頷いた。
そんな時だった、異変を感じたのは。
レテシーは言う。
「そういえば、トロイポンの方々、帰ってきませんね」
「楽しんでいるのでしょうか?」と首を傾げるアリア。
私は『天眼』を使用した。
(ぞわぞわする。嫌な気分ね)
小学生時代を思い出す。
私は天から祭りの様子を見る。とてもじゃないが探せるような環境じゃない。
人は多いし、何より暗い。
(……確認しに行くべきか?)
胸騒ぎがする。
私は昔を思い出していた。
その日は、家に帰っても誰もいなかった。女と大樹は二人で出かけていたのだ。私は大樹のことが心配だったが、面倒くさがりの私は探そうともしなかった。
そして帰ってくる、傷を負った大樹。
もうあんな後悔はしたくない。
私は目が痛くなるほどに『天眼』にこう命令した。
(私が見たことある人達がいたら教えろ!)
救難信号をキャッチすることもできたんだ。これくらいできるでしょ? 天の声さん。
その刹那、お姉さんの声が聞こえた。
「把握。対象を絞ります」
フィルターをかけたように、私の視界から人は大きく消えた。
「ナイトモードへ移行します」
その声が聞こえると、暗い世界が瞬く間に明るくなった。火があるところは眩しいが、そこは我慢しよう。
「――見つけた」
私は見る。チンピラに絡まれている彼らを。
「まったく」
レテシーを見る。私は言った。
「私の力でトロイポンさん達を見た。ガラの悪そうな人たちに絡まれている」
「わかりました」
先ほど説明したからか、すんなり話が進む。
レテシーは手袋をつけ、私は適当に何か羽織り、二人で共に部屋を出た。
「さて、助けに行くわよ」
「はい」
パチンと、レテシーのゴム手袋が鳴った。




