26話 案ずるより産むが易し
執事さんが説明を始めた。
これでなんとかいったら私は泣く。対話できたのかと唖然とするぞ。
メイドレテシーはコクコクと頷く。
私はただ、それを見ていた。
次第に足が痛くなり、腰を下ろしたと同時に、レテシーは納得したように言う。
「……わがままですね。アリア様にしては珍しい」
「そうですな」
レテシーは分かったように微笑んだ。
「なるほど、ジーダ先生はそのために……」
執事さんは頷く。
「成長を望んで」
私は一人思考を巡らせていた。
(何を言っているんだろう? アリアを置いてきたことかな?)
「……」
(まあ、いいや。この流れだと何とかなりそうだし)
私はお腹を触りながらレテシーに言った。
「レテシー、ごめん」
レテシーはかぶりを振る。
「大丈夫ですよ、気にしてません」
「そう、それならよかった」
レテシーはこちらに手を向ける。私は手を取り、引っ張ってもらい立ち上がる。
「協力してくれるってこと?」
「はい」
「ありがとう」
私がそう言うと、レテシーは不貞腐れたようにこう言った。
「私は、ジーダ先生とアリア様のために協力したんです」
「はいはい、ありがとう」
フフフと私は笑う。レテシーは頬を膨らました。
そんな私たちを見て、執事さんはこんなことを言った。
「では、仲良く準備をしてくださいね」
私は頷く。「はい」とレテシー言った。
執事さんは「おっと、ユーナさんに用があったのでした」と言って足を止める。
「私に用ですか?」
「はい、クルル様の好きなものを教えてほしいのです」
「あー、クルルの好きなもの……」
(なんだろう? そういえば、そういう話したことなかったかも)
私はクルルの言っていたことを思い出す。
今でも覚えている。クルルは、私たちと話したがってた。
「……人間の言葉が書いてある本ですかね」
「なるほど」
私はふと思う。
「……そういえば、なんで私たちって話せるんですかね?」
私は二人を見る。
レテシーは呆れたように言った。
「神のご加護のおかげです。この世界で知覚できる言語は、自動的に翻訳されますから」
何を言っているのかわからない。翻訳? 神のご加護? まるでこの世界がゲームのように作られたって言ってるかのような話じゃないか。
(漫画とかの設定だとよくあるけど、現実にこれが起きていると考えると、なんだか気持ち悪い)
言語は文化の一種だ。それがないとなると、どうにも薄っぺらいものに聞こえてしまう。
(でもまあ、うだうだ言っても何も変わんないよね)
私は頭を下げた。
「教えてくれてありがとう」
「いえいえ、お気にならずに。それよりも、こんなことも知らないなんて、あなたどこ出身なん――」
レテシーの言葉を遮るように私は言った。
「とりあえず、ありがとね、レテシー」
「え、あ、はい。どうも」
執事さんは言う。
「では、クルル様の好きなものは書籍ということで」
私は頷く。
「はい。でも、それを何に使うんですか?」
私の意図を感じ取ったのか、執事さんは私をなだめるように言った。
「大丈夫です、クルル様に危害は加えませんよ。アリアお嬢の友であるあなたのご友人を傷つけてしまうと、私の昇進にかかわりますから」
ふぉふぉふぉーと笑う執事さん。私とレテシーは何が面白いのかわからず、呆然と見た。
執事さんは「ゴホン」と咳をし、部屋を出て行った。
(笑ってあげればよかった)
しかしどこが笑いどころだったのだろう? わからん。
私はレテシーに訊く。
「レテシー、協力者としてお願いするわ。アリアのこと、教えて」
幼少期から一緒にいたレテシーが仲間になるんだ、心強い。
もうミスはしない。そのために、準備をするんだ。
レテシーは言う。
「嫌です」
「……?」
「でも……」
レテシーは私の前でカーテシーをした。
「アリア様のためです。教えますよ、アリア様の癖、全てを」
私は笑う。
「ありがとう」
と言いながら。
やはり信用の違いだろうか、執事さんに言われただけでレテシーはすっかり意見を変えた。
ならば簡単だ。私もこれから仲良くなればいい。
アリアとしてではなく、万葉木夕奈として。
三日後くらいから。




