24話 会うは別れの始め
「わたし、今日から夕奈さんのこと……ストーキングします」
アリアの顔が私に近づく。
「じろじろ、じろじろ。起きて起きて」
私はうなされる。
「起きて、起きて、起きてください」
コケコッコーと、鳥の鳴き声が聞こえる。
「夕奈さん、起きてください」
私はその声とともに目を覚ました。寝巻姿のアリアがいた。
体を起こす。私の体は汗でびっしょりだった。
怖い夢でも見たのだろうか。もう覚えてない。
「アリア、おはよう」
「おはようございます」
私はアリアを見て言う。
「あはは、寝ぐせすごいことになってるよ」
アリアは照れたように言った。
「実は、自分で直したことなくて……」
「なるほど。なら私がやってあげる」
そんな風に始まる一日。
私とアリアが支度を終え、外に出るころには、執事さんはもう準備できていた。
「いい夢は見れましたかな?」
私は乾いた笑いを浮かべる。アリアはニコニコだった。
執事さんは言う。
「問題はありませんでした。では、行きましょう。ユーナ・イグドラシル様」
偽名で呼ぶ執事さん。私はそれを疑問に思い訊く。
「……今、私のことなんて呼びました?」
執事さんは笑う。
「まわりまわって私も耳にも届いております。賢明な判断だと思いますよ」
「そういう事ですか」
「はい。おかげで私も、勇者の幻影を感じなくなりました」
「おお! それはありがたいです」
私は社交辞令を言う。弟がバカにされた気もするし、私が否定された気もする。つまりムカつく。
(でも、この人は息子を殺されている。ここは私が我慢しなければ)
「クルルはいますか?」
執事さんは馬車を向いた。
「中におられます」
私は頷いた。アリアはお辞儀をしながら言う。
「ジーダじい、夕奈、ありがとうございます」
「気にしないでよ、私も楽しみなんだし」
「ふふふ、ありがとうございます」
アリアはそう言って私の手を取る。
「友達のしるしです」
私の手に渡されたのは、緑の宝石がついたペンダントだった。
「こんなの受け取れないよ!」
アリアは首を横に振る。
「いえ、受け取ってください。それは、私が持っていても仕方のないものですから」
アリアは思う。
(約束通り、渡しました)
「……でも」
(こんな高価なもの……、受け取るわけには)
私がそんなことを考えていると、遠くから声が聞こえた。
「受け取っとけよ、友情の印なんだろう?」
現れたのは、相変わらず野蛮そうな恰好をしたシュラさんだった。
「シュラさん……」
アリアとシュラさんは私を見つめる。
気迫に負けた私はネックレスを身に着けた。
「似合いますか?」
そう言うと、アリアは顔を近づけてこう言った。
「はい!」
シュラさんは遠くで「いいじゃねえか」と言った。
そして狙ったように家から出てくるマニュウさん。
マニュウさんは私を抱きしめて言った。
「夕奈ちゃん、王都へ行っても元気でね」
「わかりました。できるだけ早く帰ってきます」
私もマニュウさんを抱きしめた。
マニュウさんはしばらく私を抱きしめた後に、私の顔を見て言う。
その目は、真っ赤に晴れてても雄雄しいものだった。
「じゃあね」
「はい、さようならです」
つい、もらい泣きしそうになる。
私はこの場にいない木葉さんのことを考えながらも、後から来たメイルさんやゲルムさん、スライムたちに挨拶した。
「では、行きましょうか」
執事さんは言う。スライムたちと話していたクルルに目で伝え、私は馬車に乗った。
クルルも私の後を追う。
「じゃあな」
「ばいばい」
「おげんきで」
様々な声が私を送迎する。
ならば、それにこたえるのが日本女子だろう。
私は手を振る。クルルと一緒に。
「みんな、元気でね!」
風が、気持ちいい。
私は小さくなる彼ら彼女らを見つめながら、ボソッと、囁いた。
「ばいばい、木葉さん」
私は振り向いて、馬車に座る。不思議な気分だった。寂しいような、ワクワクしているような……。
「あー!?」
ビクッと、何かに気づいた私は立ち上がった。
馬車を引いている馬は驚いたように止まる。
「ユーナ様、どうかしましたか!?」
焦る顔で私を見る執事さん、私は申し訳なさそうに言った。
「……アリアをコピーするの忘れてました」
馬車を降りながら、私はこう続ける。
「すぐに戻ってきます! クルルも待ってて」
執事さんは呆れたような顔になる。クルルは頷いた。
それを見た私は、走って踵を返す。
(ああもう、なにやってるの、わたし!? さよならした後だから恥ずかしいんだけど)
しかも遠い。走って戻るのは疲れそうだ。
そんなことを考えながら足を動かしていると、声が聞こえた。
「夕奈―!」
「……?」
私は足を止める。
その刹那、暖かい風が私の頬に触れた。
次第に、それの正体が私の脳裏に浮かび上がる。
期待を胸に秘め、私は熱が来る方向に向けて走った。
「夕奈―!」
私を呼ぶ声。彼女は、私を見つけるや否や、抱きついてきた。
「ん! 木葉さん!?」
「うん。そうだよ」
普段の木葉さんからは想像もできないような声色だった。私の肩が濡れる。
「大丈夫ですか?」
木葉さんはかぶりを振る。
「ううん。大丈夫じゃない」
「そんな」
木葉さんの体は震えていた。
「木葉さん……」
私は、木葉さんの肩に手を置いた。木葉さんは震えた声で言う。それはまるで、「行かないで」と言うかのように、重い何かが私の肩に乗る。
「こんなに早くいなくなるなんて、思わなかった。本当なら、私も夕奈と一緒に行きたい。でも、森での仕事があるから」
私は相槌を打つ。
「だから、いけない。でも、それでも仲間よね?」
私は相槌を打った。
「あたりまえです。木葉さんがどれだけ遠くにいようとも、私たちは仲間の絆で繋がっていますから」
木葉さんは頷いた。
「よかった、安心した」
「はい」
木葉さんは言う。
「それじゃあ、ばいばい」
「はい、お元気で」
私はぼやける視界で、空を飛んで立ち去ろうとする木葉さんを見た。
「あ……!」
「……?」
気まずいながらも、言う。そのかいもあってか、私は木葉さんの操った熱で楽に戻ることができた。
アリアたちは笑ってくれた。私はアリアに触る。
「対象名『人』をリロード」
その後は走って馬車に戻る。
私の力に制限時間があるのかはわからない。でも、三日は頑張って持たせようと思う。
そんなことを考えながら馬車に乗る。
クルルと一緒にいろいろな道を見つめながら、九時間ほどたった頃に執事さんは言った。
「ユーナ様、着きましたぞ」
私は頷き、アリアになる。ユーナとは、三日間お別れだ。
鎧を着た兵士は言う。
「ちょっと待て、魔物がいるぞ」
ビクッと震えるクルル。私は何か反論はないかと模索する。
だが、何も思いつかなかった。
そんな時、悔しんでいる私を助けるかのように、執事さんは言った。
「私はホーガン家に従える人間です。そして、彼女は第三王女アリア・ホーガン様ですぞ」
私の顔を見る兵士たち。次第に顔が青くなる。
「す、すみませんでした!」
「いいですよ。あなたたちはお仕事を全うしたのですから。その調子で、頑張ってください」
「はい!」
執事さんの鶴の一声でなんとか検問を抜けられた。やはり都会はセキュリティーが厳しいらしい。
私はそんなことを考えながら景色を見た。異世界に来て初の都会、私はワクワクしていた。
ファンファーレが聞こえたような気がする。中世ヨーロッパのような建物がたくさんあり、人々は活気にあふれていた。パーティのように賑わう町。一度歩いてみたいものだ。
と思い訊いてみたが、用事があるらしく断念。
(そういえば食事会があった。めんどくさい……)
私たちは真っ先にお城へ向かう。
中に入り、馬車を止め、降りてから聞いた。
「アリアお嬢」
一瞬誰のことかわからなかったが、すぐに私のことだと分かった。
私はできるだけアリアに似せて言う。
「どうしましたの?」
執事さんはクルルを持って言った。
「私はクルル様をこの街になじめるようにしておきます。アリア様は晩からの食事会の準備をしておいてください」
私は頷く。
執事さんは一人のメイドさんを呼んだ。
「はい」
(おおー、本物始めて見た)
私のもとに来たのは、私よりも一回り小さい、綺麗な金髪が目立つ少女だった。
執事さんは言う。
「アリアお嬢をお部屋へ」
「わかりました」
私は言われるがままメイドさんについていく。クルルはどこかへ連れていかれた。
(クルルに何をする気?)
そんなことを思う裏で、私は知らない場所に来た恐怖に飲まれそうになっていた。
自分のことで手一杯。
私は汗を流した。
(わたし、生きて戻れるのかな?)
などと思いつつ。
ふと外を見る。窓から見える民衆は、小さかった。
メイドは言った。
「おかえりなさいませ、アリア様。部屋はきれいに掃除しておきました」
メイドは扉を五本指で指す。
「ありがとうですわ」
私はそう言って扉を開ける。そこには、何もなかった。
(……空き部屋?)
どういう事? そう思った。だがすぐに、ハメられたと勘ずくことができた。
(やられた!……なんとかごまかさないと)
「どうかしましたか? アリア様」
「……なぜこのようなことを?」
「なぜも何も、私には何のことやら。……もし何かあれば、私の名前を呼んでお申し付けください」
「……」
何も言えなかった。ここに来てまだ数分。
(あははー)
どこでミスった? 何か気づかれる仕草をしたか?
……どっちにしろ、ピンチには変わりない。
(さて、どうするか)
私はゴクリと、唾を呑んだ。
ついに王都に着きました! ここから盛り上がりますよ~!




