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21話 朱に交われば赤くなる

 アリアは元気に野原を()ける。綺麗なドレスから、村長の上京した娘さんが昔着ていた、羊飼いのような服装に着替えた彼女は見違えるように変わっていた。


 綺麗な肌、髪はそのままだが、雰囲気が王族ではなくなった。


(いいな。馴染(なじ)んでる)


 私も魔女のような恰好辞めようかな? 魔法も使えないんだし、そっちの方がいい気がする。


 いつの間にかいつもの服に着替えていた私は、そんなことを考えながら『天眼』を使用する。


 執事さんの姿は見えなかった。


(本当に尾行してるの?)


 呆れたような、疲れたような、不思議なため息が私から出た。


 一方そのころ執事は、シュラとゲルム雑談していた。


「わーははっ! そりゃ、おもしれえ」


 シュラは笑う。ゲルムは焦ったように言った。


「ちょっ、王族直属の執事さんの前ですよ。もう少し言動を……」


 執事ことジーダ・オニュセントは笑って言う。


「いえいえ、私は本性を隠さない人のほうが好きですから」


「そうですか?」


「はい」


 頷くジーダ。シュラは言う。


「そりゃあ、よかった。じゃあ、ジーダさんも酒どうだ?」


 ジーダはかぶりを振る。


「あいにく老いぼれなもので、医者から止められているのです」


 同時に笑うジーダとシュラ。ゲルムだけが唖然としていた。


 シュラは悪役のような悪い笑みを浮かべる。


「まさか、あんたのような大物が酒ごときで死ぬかよ」


 ジーダは微笑む。


「それもそうです。ですが、気を付けるに越したことはないのですよ」


 またも、ゲルム以外は笑った。


「あーはは! やっぱスゲーな。面白いし、強い。あんた最高だよ」


 ジーダは微笑む。


「ありがとうございます」


 一方その頃、スライムの女王は子どもたちに説明していた。


「ということで、夕奈と王都へ行くことになりました」


 不思議と、反論は出なかった。


 顔に傷のあるスライム、ガンドは言う。


「いいじゃねえか。楽しんで来いよ、女王様」


 クルルは涙を浮かべる。


「ありがとーっ!」


 ギュッと抱きしめるクルル。ガンドは照れていた。


 そんなクルル達の近くで悲鳴を上げる女が一人。


「もう森見たくない!」


 そう言う紅木葉。そんな彼女を呆れるように見るメイル。


「あなたがやったんですよ……。言い訳を言う前に、手を動かしてください」


「……くっ」


(私だけじゃないのに)


 と思いながらも、観念してこう言った。


「はーい」


 紅木葉はしぶしぶ苗を植える。謝罪の気持ちとともに。


「はあー」


 そんなみんなとはかけ離れたように、何もしない万葉木夕奈。


 彼女はただ、見つめるだけ。傍観者のように。


 ボーと遠くを見つめる夕奈は、羊と戯れるアリアを尻目に、『天眼』でマニュウを監視する。


 マニュウは、ある家に入る。


(ここからは見えないか……。私の力も、万能じゃないってことね)


 拡大縮小はできても視点を変えることはできない。少々動かせるといっても、建物の中まで見るのは無理だ。


 あくまで、天から見る力なのだから。


 私は陽気に当てられながら熟考する。


(しかし、マニュウさんの怪しい行動。途中で姿を消したマニュウさん。私がドレスに着替えた後のマニュウさんからは、何か不思議な雰囲気を感じた)


 なにか見逃していたのか?


 まるで、マニュウさんがマニュウさんでないような……。でも、どこかで感じた雰囲気だった。


 ちょっとだけ怖かったのは確かだ。


(……考えすぎなのかなあ)


 万葉木夕奈はそんなことを考える。


 杞憂に過ぎない。それだとどれだけよかったものか。


 一軒家に住む女に向かって、マニュウは言った。


「オレの正体を知っているのか?」


 スーツに身を包んだ褐色の女がマニュウの横に着く。


「あ、あなたたちは……」


 村人は涙目になる。


 そんな彼女に追い打ちをかけるように、マニュウは言った。


「知っているのか?」


 村人は声を殺して首を横に振る。


 スーツ姿の女はマニュウに言った。


「キョウヤ様、これは……」


「ああ、黒だ」


 マニュウの姿をした、魔王軍幹部キョウヤは言う。淡々と。


「削除しろ」


「はい」


 スーツ姿の女は右手を村人の頭に乗せる。


「いやっ!」


 抵抗する村人。キョウヤは嫌な顔をしながらこう言った。


「ブループラネット」


 水の球体が村人に当たる。


 頭を打った村人は大人しくなった。


 再びスーツ姿の女は村人の頭に手を乗せる。


「では、さようならです」


 ガクッと、村人は力が抜けたように倒れた。


 マニュウとスーツ姿の女は家を出る。


 不幸なことに、万葉木夕奈はこの光景を見ていなかった。


(目が痛い)


 などと思いながら。


 キョウヤは言う。


「ほんと、すまなかった。オレのミスで」


「いえいえ、別にいいですよ」


「ありがとう」


 と言うキョウヤ。そんな彼を見て頬を赤らめながらスーツ姿の女は言う。


「それはそうと、キョウヤ様はパスタとかに興味ありますか……?」


 キョウヤは言う。


「わかった。今度行こう。それじゃあ、オレは戻る」


 スーツ姿の女は目を輝かせながら言った。


「はい!」


 その一言を最後に、彼女は姿を消した。


 マニュウもまた、意識を取り戻した。


「……あれ? わたし、今まで何を」


 遠くの物置で、キョウヤは目を覚ます。


「やっぱり、自分の体が一番だな」


 体を起こしながら、そう言った。


「……?」


 そしてもう一人、目を覚ます者がいた。


 村人である。


 彼女は言う。


「なにか忘れてる気がするけど、まあいっか! よし、水汲みにいこうっと」


 能天気な彼女は、村はずれの物置近くの井戸へ向かう。


「あははー」


 と笑いながら。


 そんなみんなの一日。太陽は西へ。


 次第に暗くなる中で、万葉木夕奈は言った。


「アリア、もう暗いから帰ろう」


 一瞬きょとんとするアリア。その数秒後に彼女は言った。


「はいですわ!」


 万葉木夕奈は思う。


(三時間くらいボーとしてた気がする。とんでもない時間の使い方をした気がするけど、まあ、一日くらいこんな日があってもいいだろう)


 私はアリアに言う。


「アリア、家まで勝負よ!」


 私はフライング上等の走りを見せた。


 そんな私を見たアリアは笑って言った。


「はいですわ!」


 走れ夕奈。久しぶりに体を動かした気がする。


(ああ、楽しいな)


 今日の嫌なことを全部忘れる勢いで走った。走った。


 後ろを見ると誰もいない。私の圧勝だった。


「あちゃー」


 私は後ろへ戻る。


「アリア」


 アリアを見つけた。彼女は笑っていた。


 私はそんな彼女の横で走る。


 そして一つ分かったことがある。


(ブーツは走りにくい)


 でも、それでも、私は走る。


(負けたくないし、置いて行かれたくもない)


 でもまあ、一番の理由は――私が彼女を気に入ったってことかな。


 彼女の純粋さに、惚れたのだ。


(アリアなら、大丈夫。ここに一人でいても)


 そんなこと思いながら、私は走る。雑談を交えながら。

今回は日常回でした。次回はちゃんと物語が動きます!

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