20話 井の中の蛙大海を知らず
「あの……」
村長は口を開いた。
「ここ数十年この村では犯罪は起きていませんし、もしもの時は私が責任を取りますよ」
執事さんは呆れたように言った。
「その無犯罪期間も最近止まったじゃないですか。それに、あなたは責任から逃げてきた男です。何を企んでいるのですかな?」
「い、いやー」
ゲルムは思う。
(王女の好感度を上げて、いつかは王都の重役に着きたいだなんて言えないしなあ)
私は困っている村長を他所に訊いた。
「そこまでして、なんでお姫様は田舎で暮らしたいんですか?」
「アリアでいいですよ」
私は頷く。アリアはこう続けた。
「わたし! 農業とか放牧に興味があるんです。でも、王都ではそんなことできなくて……。それに、スケジュールもパンパンだし……。今まで機会がなかったんです」
「なるほど」
「だから、夕奈さんだけが頼りなんです」
アリアは執事に頭を下げた。
「お願い、ジーダじい!」
執事さんは困っていた。
「ですが……」
「三日だけ!」
執事さんはさらに困る。
というか今気づいたのだけど、もしこれが通ったら私このおじいさんと二人で王都に向かうってことだよね!?
気まず過ぎる。
こうなったらクルルも巻き込もう。
私は執事さんとアリアが話している間にクルルを見た。
クルルもそれを察したのか、私に触れと言わんばかりのポーズをとる。
私はクルルに触れた。
「対象名『スライム』をリロード」
私はスライムになる。
「クルル、話は聞いてた?」
「うん。夕奈、行っちゃうんだね」
わたしは頷く。
「そこでなんだけど、クルルも来ない? 私一人じゃ不安で」
クルルは悩んだ末に言った。
「わかりました! 行きましょう!」
「息子たちは大丈夫なの?」
「はい! できた子ですから」
「よかった」
私は安堵した。
「夕奈さん」
私を呼ぶ声が聞こえた。私はクルルに「ちょっと行ってくる」と言って人に戻る。
「なんですか?」
アリアは驚いていたが、すぐに気を取り戻してこう言った。
「話し合いの結果、明日の昼まで夕奈さん及びこの村の人たちを私の使用人が監視し、怪しいやつがいなければ大丈夫、ということになりました」
私は首を傾げる。
「つまり?」
「今晩は夕奈さんの家に泊めさせていただきます!」
「え……」
私は考えるふりをした後、驚いた。
「ええええ!?」
横にいる二人はこれ見よがしに「いいじゃないですか!」「よかったね、夕奈!」などと言う。
この自分勝手野郎どもが!
私はしばらく考えた後、観念しこう言った。
「わかりました。でもこちらからも一つ条件を出させてください」
「……?」
私はクルルを持った。
「私の友達、クルルも同行させていただけませんか?」
「いえ、それは」
執事さんが何かを言おうとしたのに割り込むアリア。
アリアは言った。
「いいですよ!」
やった。と心の中で思う。
これでみんな満足だろう。執事さんを除いて。でもまあ、あの執事さん怖いしナイフ刺してきたし、可哀想だとは思わないね!
私は右手を出した。
「それじゃあ、よろしく。アリア」
「はいですわ!」
私たちは握手を交えた。
アリアは手袋をしていたがわかる。絶対すべすべな手を持っている。
そんなことを考えたあの頃。
私は木葉さんやマニュウさんと共に住む家にアリアを案内した。
道中、アリアは興奮していた。
「やっぱりすごいですね! 牛がいますよ、牛!」
「アハハ……ですね」
(この子、何歳なんだろう)
中学生くらいかな? と思い訊いてみると「十五ですわ」と返ってきた。
同級生なんかい!
でも、その方が話しかけやすいかも。
そんな感じで楽しくお喋りをしながら、私たちは歩いた。
まったく気配を感じなかったが、執事さんに尾行されていると考えるとなんだかムズムズした。
一方そのころ執事ことジーダ・オニュセントは、偶然会ったシュラに街を案内してもらっていた。
(ムズムズする……)
いもしない尾行に惑わされる万葉木夕奈。
彼女達はついに、ちょっと大きな家に足を踏み入れる。
「アリア、ここが私たちの家だよ」
アリアは目を輝かせる。馬鹿にされる気がしたから身構えておく。
「すごい、これが田舎のおうち。すっごく狭いですね! 本で見た通りです」
ほらね、バカにされた。
ピョンピョン飛び跳ねるアリアを見ながら、私は思う。
(でも、悪い子じゃなさそう)
新たなヒロインの登場です!




