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18話 我が身を抓って人の痛さを知れ

「ごほん。ではまず、こうなった過程を教えてください」


 村長はお姫様に正直に話した。


「私の横にいる女性が燃やしました」


 木葉さんは話を引き継ぐ。


「はい。私が燃やしました」


「どうしてそんなことを?」


「それは……ま、魔王軍の奴らに脅されたからです」


 いつの間にか依頼から脅しに代わっていた。


 お姫様は驚く。


「魔王軍……!?」


 木葉さんは頷く。お姫様は呟いた。


「捜索中の魔王軍と接触したってこと……?」


「捜索中?」


 私がそう()くと、お姫様は恥ずかしそうに言った。


「聞こえてましたか……。実は、魔王軍は五年前にぱたりと姿を消したのです。召喚者である万葉木さんは知らないと思いますが、それまで魔王軍は好き勝手していたんですよ」


「なるほど。でも、もう解決しているんじゃないですか?」


「そうですが、不気味なのです。突然消えた魔王軍。世界中がその不気味さに震えています。……しかも三年前に現れた勇者の存在もそれを助長しています」


「勇者……」


(それに勇者が不気味? どういう事?)


「なんで、勇者が不気味なんですか?」


「……夕奈さんは、二年前のあれを知らないんですか?」


 私は頷く。


「残念ながら。私はつい最近来たばかりで」


「なるほど、なら説明させていただきます。二年前、ある噂が民衆の間で流行りました。それは、『魔王を倒しに行った勇者が返ってこないのは、勇者が魔王になっているからではないのか?』というものでした。古代から続く魔王との戦いに終止符を打てないのは、魔王のもとに向かった勇者が返ってこないのと関係しているのでは? と、考えたものがいたのです。普通に考えれば勇者が魔王に負けているだけでしょうが、気が弱くなっているときの悪い噂は流行りやすいものです。それで、二年前に隣国で大きな暴動が起きました。『勇者、万葉木大樹を処分しろ』というものが……。あれ?」


(万葉木大樹……? は? 冗談でしょ?)


 私は汗を垂らす。


「同じ苗字」


 お姫様は呟いた。「まさか!?」と言わんばかりの顔をする村長。木葉さんも動揺していた。


 ただ一人、執事さんだけは冷静にこう言う。


「召喚者は確認されている全員が同じ時にこの世界に来た。なのにあなたはつい最近来たと言った。嘘か誠かはこの際どうでもいい。――答えなさい。あなたの名を」


 ゴクリと、唾をのんだ。


(しゃんとしろ。飲み込め、わたし。状況を理解して動くんだ)


 ミスれば、私の安全は消える。


「わ、私は万葉木夕奈。勇者の姉です」


 刹那、突風とともに()()()()()()()()()()()()


「……」


 何も、言えなかった。


 執事さんは淡々と言う。


「首元で止める気でしたが。まさか反応できるとは」


「……」


 恐怖。奴が私を襲っていた。


 執事はナイフから手を放す。


「それは抜かずに治療してもらいなさい」


「……は、はい」


 私がそう答えると、お姫様は怒って言った。


「治療してもらいなさいじゃないでしょ! ごめんなさい。万葉木さん」


 頭を深く下げるお姫様。


 私は「いいですよ」と苦笑いを浮かべながら言った。


 すると執事さんも頭を下げた。


「すみませんでした。万葉木夕奈様はただ勇者の家族というだけですのに……精一杯の謝罪を」


 そう言って何かの液体が入った瓶を渡してきた。


「スライムから作られた薬です」


 私はそれを塗った。少しずつだが、傷はふさがっていった。


「あの、勇者ってそんなに悪いやつなんですか?」


 私の問いに、答えにくそうな顔をするお姫様。すると執事が言ってくれた。


「……勇者は我が国の敵っ! 私の息子を殺した男ですぞ!!」


「……っ!」


 バーサーカー。まさに狂戦士。そんな雰囲気を感じた。


「ご、ごめんなさい」


 木葉さんが口を開いた。


「戦争があったの、地球人とこの世界の人たちとで。私は参加しなかったけど、その戦争で先陣を切ったのは、夕奈の弟さんだったのよ」


 なにも、言えなかった。恐怖というより、非現実な戦争を想像できなかったのかもしれない。


(でも、それでも)


 弟がそこにいたという事実が私の不安を煽った。


 執事さんは言う。


「その戦争では、血すら残らなかったようです。今では勇者は行方不明。その戦争に参加した数百もの地球人を連れて」


 またも、沈黙がこの場を支配する。


 耐えかねたお姫様は焦ったようにこう言った。


「で、でも! それによる差別はなくなったんですよ! それどころか、その戦争に参加しなかった地球人は崇められるくらい……。すみません、そういう事じゃないですよね」


「いいですよ、別に」


(過程はどうあれ、大樹は私たち地球人を救ったんだ。仲間は守る。大樹らしいじゃないか)


 私は涙をこらえ、言う。


「すみません。私のせいで、話がずれましたね」


「……で、ですね。脱線しました」


 私は席を立つ。


「頭を冷やしてきます」


「はい……」


 私はお姫様の悲しそうな顔を尻目に、外へ向かった。


 日が鬱陶しいくらい眩しかった。地面はもう乾いている。


(……大樹、無事かな?)


 そんなことを考えながら草むらの上に座った。


 ぽよん!


 空虚な気分だった。脳がそれを理解してくれない。私は目まぐるしい情報と妄想の中にいた。


 ぽよよん!


「……ん?」


 青い、柔らかいものが私のおなかに当たった。


「クルル……」


 友が来てくれたことで、心が少し穏やかになる。


 するとクルルは紙を取り出し、頑張ってこんな字を書いた。汚くてへたくそだったけど、私の心に残るものだった。


『元気出して』


 私は笑った。まさかクルルが日本語を書くなんて。


「すごい。勉強したんだ」


『うん!』


 私はペンを借りる。


『ありがとう』


 クルルも笑った。


(そうだよね。このままじゃだめだよね)


 私は立ち上がる。クルルを連れて。


 このままじゃ、危ないやつで終わる。それじゃあダメだ。


 ふっふふー。やってやるわよ。大番狂わせの好感度アップを見せてやる。


 私の手の傷は、完全にふさがった。


ここまで読んでいただき、ありがとうぴよ!

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