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16話 渡る世間に鬼はない

ついに始まりました新章! 

 日差しの良い日。暖かい(よう)に当てられた洗濯物はさぞ気持ちの良いものだろう。


 そんな日には外で楽しく遊ぼう! 子供は風の子、活発な子! エブリデイで汗をかこう!


 とまあ、頭ではわかっているものの……。


 私はこの世界に来て三日、ほとんど布団の中にいる。


「むにゃむにゃ。今日も寝るぞい」


 食べ物は村長が感謝のしるしにくれた固形物がある。ぱさぱさして非常食のようなイメージを持つが、実際その通りで味は薄いが腹は持つ。


 当たり前だが、ずっと布団にいるわけではない。さすがにお風呂には入っている。


 昼間には村長の私物である本を読み、夜には夢の世界に(おもむ)く。


 うむ。充実した一日である。


「ふわあ……」


 でも少し寂しい。下に降りて誰かと話そうかな。


 怠惰な私でも、人肌恋しくなる時はある。


 私はパジャマを脱ぎ、魔女のような服に着替える。この世界に来た時に着ていたものだ。


 その後、鏡を見ながら顔のマッサージをし、笑顔の練習をする。


「よし!」


 私は魔女のような尖った帽子をかぶり、ポーチをつける。ポーチの中身は元に戻す。


 そしてドアノブをひねり下に降りた。


「……うーん」


 そこには誰もいなかったので、外に出てみる。


(眩しい)


 天を向きながら目を細める。


 下を見ると、土が少し濡れていた。この三日で雨が降ったのだろうか?


 そんなことを考えながら散歩がてらに外を眺めていると、牛や豚、羊など、たくさんの動物がいた。もう少し進むと、米が農作されていた。さらにもう少し進んだところでは、ジャガイモやニンジンなどの植物が育てられていた。


 その先に、住宅は並んでいる。


 かなり大きな村だ。


(なんか、いいな。自給自足って)


「あ、ユーナちゃん!」


「ん」


 私を呼ぶのはマニュウさん。その横にはシュラさんがいた。


「こんにちは」


「おう。てか、お前ずっと引きこもって何してたんだよ?」


「まあ、いろいろ」


 あははー、と私のひきつった笑顔を見たシュラさんは呆れたように言った。


「昼寝もそこそこにしとけよ」


「本読んでるし!」


 そうやって怒る私を簡単にあしらうシュラさん。


「へいへい。……それよりもさ、今マニュウと、ユーナは異世界からの来訪者だって話してたんだが、本当なのか?」


 私は一瞬唖然としたが、風呂場のことを思い出して呆れた。


(やっちまった、ばれないようにしようと思ってたのに。あの場にはマニュウさんもいたんだ、軽率すぎた。ああもう、何やってるのわたし!?)


 自分の行いに悔いていると、マニュウさんがこう助言してくれた。


「ユーナちゃん、そんなに悪いことでもないのよ。三年前のあの日、突如として現れた地球人と名乗る人間は、昔こそ差別はあったけど、今ではもう仲間だから。……まあ、悪人以外はね」


「……なるほど」


 そう呟くと、追い打ちをかけるようにシュラさんはこう言った。


「で、どうなんだよ」


 二人は私を見つめる。


 今更この二人を敵に回そうとは思わない。


 私は正直に答えた。


「そうですよ、私は地球人です」


「やっぱり!」


 と、マニュウさんは言う。


「なんでもっと早く言わねえんだよー!」


 と、シュラさんは私の頭を触りながら笑顔で言う。


 髪をいじるのはやめてほしい。でも、そんなことどうでもよくなるくらい愛情を感じた。


 そんな私を見たのか、シュラさんは自分の手を引き言った。


「何にやにやしてんだよ」


「い、いやー。なんかうれしいなって」


「はあ?」


 シュラさんの(まゆ)が上がる。そんなシュラさんとは違い、マニュウさんは抱きついてきた。


「んもう! ユーナちゃん可愛い。甘えん坊だね」


「ちょ! 恥ずかしいですって!」


 周囲の人の目線が刺さる。さすがに我慢できない。


 私は強引にマニュウさんを引きはがした。


「ええー。頭ポンポンはよくてハグはダメなの?」


 私は頬を膨らませて言う。


「マニュウさんには前科がありますから」


「前科?」


 本当にわかっていないのだろうか? マニュウさんは首を傾げた。


(ホント、お酒って都合がいいんだから)


 そんなことを考えながら、私はここに来るまでに見つけられなかった木葉さんのことを()いた。


「そういえば、木葉さんってどこにいるんですか?」


「コノハ? コノハはねえ、今森で作業してるわよ」


 木葉。いつの間にそんなに仲良くなったのだろう。それよりも、森で作業か……ああそうだ。復旧を手伝う約束だったんだ。


 私のことじゃないから忘れていた。


「じゃあ今、木葉さんは森に……」


 突然、村人が騒ぎ出す。


(……?)


「なんだ?」


 シュラさんとマニュウさんもわかっていない様子。私は村人たちが向く方向を見た。


 かすかに音が聞こえる。がたごと、がたごと。この音、知ってる。


「馬車の音」


 村人の声が次第に大きくなる。


「おいおい聞いたか?」


「ああ聞いたよ」


「ねえねえ、くるんだってさ」


「誰が?」


 私は盗み聞きをした。


「誰がって、王都のお姫様だよ」


 その声が聞こえたと同時に、馬が顔を出す。坂道を登って現れたのは、やけに豪華で大きな馬車だった。


 ドレスを着た女が馬車から降りる。


 そして、片足を軽く曲げ、スカートのすそを待って上げる、いわゆるカーテシーをした。


「私の名はアリア・ホーガン。マルゴニカ王国の第三王女です。今日は、森の件で!」


 おっとっと、と急にバランスを崩す彼女。土が下にあるこの街でハイヒールは危険なのかもしれない。見事に汚れてるし。


 それでも挨拶をやめない彼女。


「きょ、今日は森の、森の件で……きゃ!」


 ついにバランスを崩す。下はあちこち泥だし、あの高そうな服が汚れるのはまずい気がする。


 私は自分でも気づかぬうちに、顔から落ちる王女様の下にスライディングのようにして潜り込んだ。


 おかげで服が汚れてしまった。でも、掴める。王女様の服は汚れない。


「おっと」


 ふわりと、慣れた手つきで王女様を受け止める紳士なおじ様。服装からかんがみて、執事なのだろう。


(って……私はどうすれば)


 王女様は執事さんが助けてしまった。この私の行き場をなくした気持ちは、どこにもっていけばいいのだろう?


 私は周囲を見る。村人たちは私を(ゆび)さして何か言っていた。なんだか恥ずかしくなって立ち上がろうとした時、執事さんが手を差し出してくれた。


「大丈夫ですかな?」


「あ、はい」


 私は手を借りた。


 王女様はボソッと言う。


「ありがとうございます」


 私は頷いた。


 近くで見るとよくわかる。この人、美人だ。


 眺めるようにお姫様を見ていると、執事さんがこう言った。


「着替えはこちらに」


 その手には、とても高そうなドレスがあった。


「着替えは馬車の中で」


 こういう時は大人しく従うべきなのだろう。だが、私は日本人らしくこう言ってしまった。


「……いえ。お構いなく」


 踵を返す私に声をかける執事さん。


「そうはいきません。これはお礼の気持ちです」


 そう言って差し出す高そうなドレス。私は欲望に負けた。


「わかりました」


 そう言って私は馬車の中に入る。


 遠くの森の中で、スライムの女王クルルは何かを感じた。


(……いい天気、でも、なんだか嫌な予感。雨でも降るのかな?)


 クルルと万葉木夕奈は対極の考えを持った。


 万葉木夕奈は思う。


(この服、どうやって着ればいいのだろう)


「ムムム……」


 謎は深まるばかりである。


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