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15話 最後に笑う者が最もよく笑う

 疲れた。それ以外の感想は浮かばない。


 私はやけに大きなお風呂に入りながらそんなことを考えた。今、村の端にあるちょっと大きな家にいる。村長が気を回してくれた。


 どんなシステムでお湯を出しているのだろうと思い村長に()くと、魔法だと返ってきた。


 つまり私は魔法のお風呂に入っている。科学が万能なように、魔術も万能なのだろう。


「ふいー」


 まあ、そんなこと関係ないけどね。


 今はゆっくり休みたい。


(と、思っているのに)


「夕奈ちゃーん、仲間になった記念にどう? お酒」


「そうよ! ユーナちゃんも飲みなよ」


 大浴場だからか、私とマニュウさんと木葉さんとクルルは一緒にお風呂に入っていた。


「ああもう! 酔っ払いうざい!」


 私はめんどくさいと思いながら浴槽から体を出した。


 だが足をつかまれる。


「ユーナちゃん、からだ細いね。ちゃんと食べてる?」


「食べてますよ。セクハラで訴えますよ?」


 キョトンとするマニュウさん。これだから酔っ払いは。


 そんなことを考えていると、木葉さんがこんなことを言い出した。


「夕奈さ、番号のこと知りたがってたよね」


 そう言うや否や、浴槽から上半身を出す木葉さん。そしておへそのあたりを指さした。


 そこには、#34と書かれてあった。


「夕奈ちゃんの体のどこかにも番号があるはず……」


 物色するように私を見る木葉さんは、急ににやにや笑いだした。酔っ払い同士のシンパシーだろうか? すぐに何かを理解したマニュウさんも口角を上げた。


「夕奈―」


「ユーナちゃーん」


「え、え-と」


 にやにやしながらこちらに接近してくる女二人。


 私は貞操の危機を感じた。


「ひゃ!」


 数分後、私はタオル片手に涙目になっていた。心配したクルルは私の近くに来たので抱く。


「二人ともひどいです」


 私は、酔っぱらってたでは済まさないからな。と復讐心を漏らす。


「しっかし、見つからないね」


 マニュウさんは首を傾げた。木葉さんはにやにやしながら私のお尻を見た。


「あとはそこだけなんだけど……」


「いや、ここはさすがに!?」


 私は宙に浮いていた。そのせいでクルルを落としてしまう。


 ほんのり温かい。


(木葉さんの熱魔法か!)


 ちくしょう、触らないと抵抗できない。


 意外なところで弱点を発見してしまった。先手必勝というわけか。


「あ!?」


 私のお尻を触る二人。


 マジで死ぬ。恥ずかしすぎて死ぬ!


「うおりゃー!」


 クルルは私の意志を感じたのか跳んでくれた。そのおかげで手が触れた。


「対象名『スライム』をリロード」


 ポンっとスライムになる私。


 その後すぐに人間に戻り、文句を言った。


「マジでホントに恥ずかしかったです! 次やったら縁切りますからね!」


「ごめんごめん」という二人。反省の色が感じられない。


 と思っていても、やはり番号は気になる。


「それで、何番だったんですか?」


 木葉さんはノリノリで言った。


「ゼロよ!」


「……は?」


 バタン、と体を倒す木葉さん。酔いと熱のせいでのぼせてしまったらしい。


『ゼロ』というのを再確認したかったが、倒れてしまったのだからしょうがない。


 私は木葉さんを連れていくマニュウさんを見ながら、ペタリとほのかに暖かいタイルの床に座った。


「……ゼロかあ」


 ほんのり頬が赤くなる。私ものぼせたのかもしれない。


「クルルは平気そうだね」


 頷くクルル。そういえば、スライムは熱に強いんだった。


 私は恥ずかしさを感じつつも、鏡に映る体を見る。いつもと同じ体、でもどこか、違和感を感じた。


「ま、いっか」


 私は鏡に映るお尻を見る。そこには、#0と書かれてあった。


(ほんとに、ゼロなんだ)


 一瞬意識が薄れる。これ以上はヤバいと思った私は、クルルを連れて外に出た。


 体を拭き、はだけた格好で寝そべる二人を尻目に部屋に戻る。


 私はクルルを太ももの上に乗せ、六角形の箱を取った。


(確かここを押せば)


 私は教えられたようにスイッチを入れる。すると微弱な熱風が吹いた。この世界のドライヤーだ。


 髪は私の命だ。見せる人はなどいないが、自分が可愛くなるのにはある種の満足感がある。


 だから今日も、きれいに乾かす。


 乾いた後は美容に良いと聞いた、マニュウさんと木葉さんに貰った液体を顔に塗る。


 それが乾いたころに、私はクルルと一緒に布団に入った。


 クルルが何を伝えたいのか、身振り手振りでわかるようになってきた。


 クルルが寝たのを確認すると、私は枕を抱いてスマホをつつく。先ほど確認した結果、私のポーチには、スマートフォン、知らない言語で書かれたなにかのメモ、棒状のパサパサした食べ物、平成の歩き方と書いた紙の切れ端、CCDカメラ付きメガネ、ソーラーパネル付き充電器、御守り、綺麗な石が入っていた。


 ほぼゴミ。でも、捨てる気にはならなかった。


「やっぱり、メモくらいしかできないか」


 インターネットの繋がっていないスマホで出来ることなど、メモくらいだ。でも、それでもいい。日記が書ければ、それでいいのだから。


「……ん?」


 知らないメモがあった。日記と書かれているが、ロックがかかっている。私が作ったものではない。ならばなぜ、私のスマホに?


 私は怖くなってそれを削除した。


「まあいいや」


 今日は疲れた。あまり考えたくない。


 私は日記を書いて、寝た。


 まるで沼に入るように、深い眠りに(いざな)われながら。


『異世界日記 一日目』


 昼まで寝ていた私を叩き起こしてまで遊園地に連れて行った弟。でもその弟は突然消え、私も追うようにして異世界に辿り着いた。パパ、ママ、ごめん。でもすぐ帰るよ。

 そして出会った友人クルル。彼女の頼みで仲間を助けに行くことに。道中シュラさんとマニュウさんとメイルさんに出会う。三人と協力して森を燃やしていた紅木葉さんを止める。

 無事、木葉さんの手を止められ、村長の許しを得て仲直りした。

 でも夜には悪戯(いたずら)された。恥ずかしかったけど、距離が縮まった気がした。


 ……おっと、これを忘れてはいけない。


 『私は今日、クルル達スライムの王になった』。


 充実した一日だったけど、もう二度と体験したくない程疲れた気がする。


 追記


 クルルともっとお話しする方法を考えなければ……。


ついに一章完結しました!

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