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14話 万葉木夕奈は覇道を歩む。

 私はクルルと木葉さんを連れて村を歩いた。この三人はもう仲間である。クルルも納得している。


 現に、木葉さんの豊満な胸にダイブしているくらいだ。


 ふかふかの枕みたいで羨ましい。そんなことを考えてしまう。


「いいところね」


「ですね」


 木葉さんは顔を曇らせた。


「夕奈ちゃんが言っていた、スライムを傷つけて後悔してますかって質問、今なら後悔してるって答えるわ。スライムなんて家畜と同じって思ってたから」


 私は頷いた。


「よかったです。スライムのいいところを知ってもらえて」


 その時わたしはある種の疑問を抱いた。


(そういえば、なんでマニュウさんたちはスライムを保護しようとしてたんだろう……?)


 それほどクルル達に商業価値が? って、何考えてるの、バカみたい! クルルは友達なのに。


 自分の考えに引いていると、マニュウさんの声が聞こえた。


「あ! ユーナちゃん!」


「げ!」


 木葉さんの顔が一瞬ひきつる。


 私は言った。


「マニュウさん、何してるんですか?」


「ソフトクリーム買ってるところ。ユーナちゃんもいる?」


「え、あ、はい。なら、いただきます」


 マニュウさんは目を細めて言う。


「あなたは?」


 木葉さんは言う。


「いいんですか?」


「……まあ、いいわよ」


「なら貰います」


 少しぎくしゃくしている気がする。


 マニュウさんは裏に牛の牧場がある木造のお店からソフトクリームを買った。当たり前だが、知らないお金を出していた。


 私たちはソフトクリームを持ち、一斉にそれを舐めた。


「おいしい!」


(でも何だろう、味が薄い?)


 そんなことを思っていると、木葉さんがこう言った。


「砂糖が少ないのかな?」


「わかるんですか?」


「うん」


 紅木葉はひそかに思う。


(誰でもわかると思うけど、料理に詳しくない夕奈ちゃん可愛いからどうでもいいや)


「流石料理人ですね」


 私がそう言うと、マニュウさんは気になるようで、訊いた。


「あなた料理人なの?」


「ま、まあ。はい」


「すごいじゃん! わたしも料理好きなの!」


「そうなの!?」


 きゃっきゃうふふ。と、私のわからない料理トークを始める二人。年が近いこともあってか、意気投合していた。


 私は蚊帳の外に出された。


「クルル、私たち出されちゃったね」


 私はペロッとソフトクリームを舐めた。クルルがこっちを見ていたので、私はソフトクリームをクルルに差し出す。


 クルルはそれを吸収するように食べた。少し余ったので残りは私が食べる。


(そうだ、ついでにあれ訊いておこう)


 そう思い、私はマニュウさんに()いた。


「マニュウさん」


「……なに?」


 会話を止める二人、悪いことしたなあ。と思いつつも私は言った。


「なんでスライムを保護しようとしてたんですか?」


 マニュウさんは一瞬きょとんとしたが、すぐにこう返してきた。


「スライムとこの村は共存関係にあるの。私たちがスライムを守り、スライムから分泌される液体を採取させてもらう。それから作る薬は売れるのよ」


 私はクルルに直してもらった腕を見る。


「なるほど」


 たしかに売れそうだ。


「ほかに質問はある?」


「いえ、ないです」


 私はかぶりを振った。


 それからしばらく歩いた後、私は二人から離れた。


 なに話してるのかわからないし、いいかげんクルルと話したかったし、いろいろな思惑があり、私は草原に座った。


(これは、田舎の特権だな)


 そんなことを思いながら、寝そべる。


 私はクルルに触った。


「対象名『スライム』をリロード」


 空を見上げながら、丸まった体に変わる。


「クルル」


「はい」


「どう? この街は」


 クルルは私の横に来る。そして悲しそうな顔で言った。


「いいところだと思います。でも、夕奈と話しながら歩けたらもっと楽しいだろうな、って、嫌でも考えちゃうんです。それが、悲しくて」


「クルル……。じゃあ、今から歩こう」


 クルルはかぶりを振る。


「そういう事じゃないんです」


「そっか」


「はい」


 私はクルルに触れた。


「少しずつ、前に進もう。いつか会話できるその日まで」


 メイルさんはスライムと話そうとしていた。その逆も可能なはずだ。


「はい。夕奈と一緒なら、頑張れる気がします。……って、なんか恥ずかしいですね。私今まで友達いなくて――」


 私はクルルを抱いた。はたから見れば吸収しているように見えるのかもしれない。でも、これは私たちなりのスキンシップなんだ。


「いいよ、べつに。私は、クルルのことが大好きだから」


「夕奈……」


 クルルは、私を見た。


「あー!」


「……!」


 わたしとクルルは驚きのあまり手を離した。


 私は後ろを見たと同時に人に戻る。


「メイルさん! 脅かさないでください!」


 大声を出したメイルさんに私は怒鳴る。


「ご、ごめんよ。あまりにも可愛かったから」


「そうだとしてもです! それで、なんか用ですか?」


「ああ」


 メイルさんは思い出したかのように後ろを指差した。そこには、大量のスライムがいた。


「みんな無事だよ」


 私は目を輝かせた。


「ありがとうございます!」


「いいんだよ。それじゃあ、僕は行くね」


「はい!」


 メイルさんはそう言ってどこかへ行ってしまった。その背中はからはとんでもない疲労感を感じた。


 私はクルルにこのことを伝えたい一心で変身する。


「対象名『スライム』をリロード」


「クルル!」


「夕奈……」


 どうやらクルルも同胞に気づいていたようで、声を震わせていた。


「やったね!」


「はい!」


 感極まって泣きそうになるが我慢。


「みんな!」


 クルルの呼びかけで、スライムたちは一斉にこちらに来る。


 そこで、不思議なことを聞いた。


「万葉木夕奈だ」


「ほんとだ!」


「ユーナだ! ユーナ!」


 スライムたちは私の名前を呼びながら私にタックルをかましてきた。


「うげ!」


 クルルはそんな私を見て笑っていた。


「ごめんなさい、夕奈。これがスライムの挨拶なの」


「な、なるほどね。というか、なんでこの子たちは私の名前を?」


 クルルは舌を少し出したようにこう言った。


「ごめんなさい。私が教えちゃいました」


「そういうことか」


 私は柄にもなく、やれやれ、などと思ってみる。


「キング!」


 その声を聴くまでは、私は英雄にでもなったように感じていた。


「きんぐ?」


 私が首を傾げると、クルルは体を赤らめながらこう言った。


「こら! 夕奈はキングじゃないの! それに、夕奈は女の子でしょう?」


 すると一番小さいスライムはこう言った。


「王様に性別は関係ないよ! 万葉木夕奈!」


「ん!? なに?」


 突然こちらに話題を振るから少し驚いてしまった。


「王様になってよ」


 その一言は私の心に突き刺さる。私は困ったようにクルルに助けを求めた。


「ク、クルル……」


「夕奈、ごめんなさい。この子達ったら、王が不在だからって誰彼構わず」


「王が不在なの?」


「はい」


(それは大変な事態だ。でもごめん、友達だからといっても無理なもんは無理だ。もとより私はやる気のない抜け殻人間なのだ。無用な努力は避けたい)


「ごめん、クルル」


「謝らなくていいですよ。こっちが悪いんですし」


 私は下を向いた。クルルの仲間の悲しそうな顔は見たくない。


「王になってよ」


 その声は無情にも散る。だがその時、花びらを集めるがごとく声が聞こえた。


「俺たちの王になるメリットはあるぜ」


 その声の主は、人一倍傷ついたスライムだった。


「メリット?」


「夕奈、耳を貸さなくてもいいですよ。こら、ガンド!」


 小さなスライムを押さえながらそう言うクルル。お母さんは大変だな、と思う。


 でも、私は聞くよ。少し考えた結果、デメリットが少なければ王になろうと思った。肩書はあった方がいいし、何より慕われるのは気分がいい。


「メリットって?」


 クルルは驚いていた。


 ガンドは言う。


「夕奈の姉貴がピンチの時は助けに行く」


「デメリットは?」


「ほぼなしだ。名前だけほしい」


 ガンドは耳打ちした。


「俺たちの精神的な支柱に王がいた方が何かと都合がいいんだ。俺たちを救った英雄のあんたなら、なおさらだ」


「なるほどね」


(つまり、私は何もしなくていいけど、責任は来るという事か)


 それくらいなら……。


「夕奈、別にいいんですよ」


「クルル」


「なんですか?」


「なってもいいの?」


 クルルは目を見開く。


「それは、うれしいです」


 私は笑った。ガンドに言う。


「なってやるわよ」


「そうか」


 ガンドはニヤリと笑う。


「道は開けたぜ、そこを通れよ王様」


「ええ」


 私はスライムたちの前に出る。ガンドと他の大量のスライムは前に、クルルは横に来た。


 正直、緊張する。だが、やらなきゃ終わらないのは真実だ。私は深呼吸を挟み言った。


 静寂が、この場を支配する。


「私の名前は万葉木夕奈。あなたたちの王よ!」


 歓声が沸いた。


「うおおおお!」


 ガンドの一声をきっかけに、みんな吠える。


(なんだか、現実感がない。簡単に王になったからだろうか。ワンクリック詐欺にあっている気分だ)


 でも、なんだかうれしい。


 私はこの日、王になったのだ。


 その思いとスライムたちの視線を一身に浴びながら、私は前に進む。

この日この時、運命は彼女に魅入る。

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