13話 命あっての物種
「……と、いうことなんです」
おなかが出た優しそうなおじさんに、シュラさんは言った。
私は今、暖かい馬車にいる。横には木葉さんとクルル。前にはマニュウさんとシュラさんとゲルムさんがいた。
木葉さんの拘束を解いた後、狙ったように来たゲルムさん。
彼は馬車と運転手である御者と一緒に私たちの前に立った。
「こんにちは。それで、依頼のほうは……」
どうやらシュラさんとマニュウさんの依頼者らしく、私を見て困惑していた。シュラさんはそんな私のことを説明する。
そして現在に至る。メイルさんはスライムのことで現地に留まった。
「つまり、コノハさんは依頼されてこの森を焼いたのですね」
「はい」
「なら許します」
聞いた話だと、ゲルムさんは近くの村の村長らしく、この森の所有者でもあった。だからこそ、この発言には安堵できた。
「よかったね、木葉さん」
「ええ」
木葉さんも、心なしか落ち着いていた。
ゲルムさんは「ごほん」と咳を鳴らし、こう続ける。
「ですが、一つ条件を出します」
「条件?」
木葉さんは首を傾げる。ゲルムさんは相槌を打つ。
「はい。たった一つです。それは――この森を焼けと依頼した者の名前を教えていただきたい」
「それは……」
木葉さんは顔を背けた。私は木葉さんに耳打ちした。
「ダメな理由でもあるんですか?」
「そりゃあ、依頼主の名前を言うのは規約違反よ」
「なるほど」
私たちがコソコソ話しているのを嫌がったのか、ゲルムさんは咳を鳴らした。
「とにかく、それができないのならば村へは迎えられません」
「く……!」
木葉さんは苦悶の表情を浮かべる。
「くそ! 壊れちまってる」
突然声を上げるシュラさん。その手にはうそ発見器が握られていた。
シュラさんは私たちのほうを見る。
「まあ、バレねえんじゃねえの。バレたとしても、逃げればいい」
「でも、恨まれたら私死にます」
「そんなにヤバい相手なのか?」
木葉さんは頷く。
ゲルムさんと御者さん以外は同時に驚いた。
(あんなに強い木葉さんを殺せる相手ってこと?)
ゴクリと、唾をのむ。
私はゲルムさんに言った。
「あの、ゲルムさん」
「はい?」
「木葉さんは強いです、その木葉さんを殺せる相手となると……」
危険だ。そう続けようとしたが、ゲルムさんは首を横に振った。
「大丈夫です。それは薄々承知していました。だから、あくまでも知っておきたいだけです。住民を守るために」
「こちらからは手を出さないと」
「はい」
私は木葉さんを見た。
木葉さんは葛藤の末に、言った。
「ま……」
「ま?」
この場にいる全員が身を乗り出す。
木葉さんは震える声を出した。
「魔王軍幹部、スウィートランボーです」
がたっと、荷台が揺れる。御者さんも動揺していた。シュラさんも、マニュウさんも、ゲルムさんも。この場で平静を保てていたのは、私とクルルだけだった。
クルルは私の膝の上に乗る。
「ま、マジか」
「聞かなきゃよかった」
「なぜ魔王軍が……」
各々の感想を漏らす。
だが私は、対照的に木葉さんの手を握った。
「大丈夫です。木葉さんは私が守ります」
それを見たシュラさんは真っ先に笑った。蒼白だった顔は次第に笑みを浮かべる。
「ぶっ、はは! おまえが、守るのか?」
「んな! 何かおかしいんですか?」
「ふふ、ユーナちゃん、それは無謀よ」
「あっははー」
大人三人は笑いだす。木葉さんも、つられて笑っていた。
「もう、夕奈ちゃんは命知らずだね」
「木葉さんまで……」
(私ってそんなに頼りないの!?)
なんか悔しい。
そんなことを思っていると、ゲルムさんが口を開いた。
「はっははー。とりあえず、コノハさんの罪は問いません。ですが、罰として森の修復を手伝ってもらいます」
一瞬不服そうな表情を浮かべたが、すぐに微笑んだ。
「はい、ありがとうございます!」
「いえいえ」
そんな会話をしていると、あっという間に村に着いた。
私たちは荷台から降りる。
田んぼがあったり川があったり、つまりド田舎だった。
私はクルルを抱いて先に進む。だが、私一人だけ御者さんに止められた。
「なんですか?」
クルルを抱く力が強くなる。御者さんは言った。
「魔王軍は恐ろしい。オレの家族を食ったやつらだ。……だから、挑むなんて思うな。自分の命は大切にしろ」
御者さんはそう言うと、私の前にあった手をどける。
「止めて悪いな。オレが言いたかったのはそれだけだ。じゃあな」
「はい」
私は魔女風の帽子を脱ぎ、クルルを頭の上に乗せ、こう続けた。
「極力、魔王軍に近づくのは控えておきます」
「……いや、だから」
御者さんは口を閉じる。そして私の目をまじまじと見た。
(なんだ? こいつ。本気で言ってるのか?……ッだとしたらおもしれえ)
御者は口角を上げ、万葉木夕奈に言った。
「そうか、なら気をつけろよ」
「はい」
女はお辞儀をすると、仲間のもとへ戻って行った。
「さて」
オレは人気のない場所に移動した。そして部下を呼ぶ。現れたのは、スーツに身を包んだ褐色の女だった。
「キョウヤ様、どうかしましたか?」
「スイーツ野郎がこそこそ何かしてやがる」
「スウィートランボー様ですか?」
「ああ」
オレは村人の恰好から、魔王軍の恰好へ魔道具を使い戻る。
「休暇は終わりだ。仕事に戻るぞ」
「はい」
一台の馬車が消える。
魔王軍幹部キョウヤ。彼は今日も、休まない。
ガタンっと、木製のバケツを落とす村人。
「今のは見なかったことにしよう」
そう呟きながらこの場を離れた。




