12話 後は野となれ山となれ
「わかりました」
わたしは過去を思い出しながら、熟考した。
「私は、数時間前にここに来ました。そこでククルと……スライムと会って助けを求められました。そしてあなたと会ったんです」
「数時間前!?」
そこに驚くのか。と私は一人で驚愕していた。
「はい、だから私は死に物狂いで生きるすべを探しています。この取引も、そのためです」
私は顔を下した。そのとき、雫が落ちた。
「……え?」
「グスっ、ほんとにこの世界に来たばかりなの?」
「は、はい。紅木葉さんが言っていた番号のことも知りません」
「そうなんだ、それなのに私、あなたに振られたと思って……ごめんよ!」
「え? え?」
どういう事? なんで急に泣き出したの!?
「あ、あの」
「協力するわ!」
「……え?」
(何が起こった?)
私は困惑の中、目を回しながら訊いた。
「本当ですか?」
「ええ!」
(や、やったー)
何が起こったかわからない、が終わり良ければすべて良しだ。
「わたし、あなたみたいな妹が欲しかったのよねえ」
「そ、そうなんですね」
でも、簡単には信用できない。もしかしたら、適当に答えてスライムから出ようという魂胆かもしれない。
「あの、まだ信用しきれてないんですけど」
私がそう言うと、紅木葉さんは諦めたようにこう言った。
「……しょうがないか。実は私、金欠冒険者なのよね。だから誰からも声を掛けられなくて……。でも、仲間に憧れていたのはホント。だからもろもろお世話になるかもしれないけど、わたしは夕奈ちゃんの力になるわ」
(すごい、違和感。なんか投げやりっぽい)
ホントに信用しても大丈夫なの? わからない。
(こうなったら)
「シュラさん、マニュウさん」
三人寄れば文殊の知恵だ。多数決で決めよう。
私は二人の近くの移動した。
「どうした? ユーナ」
私は言う。
「あの……」
かくかくしかじか、と、プライベートな部分は隠して伝えた。
「なるほど」
「なるほどね」
二人は簡単に理解した。
「つまり、あいつが本音を言っているかどうかを確かめたいわけだ」
シュラさんは小声で「高いやつだがまあいか。今日のために買ったやつだしな」と呟いた。
私が首を傾げると、マニュウさんがこう付け加えた。
「いわゆる、うそ発見器よ」
(うそ発見器……?)
絵空事では? と思い訊いた。
「そんなのあるんですか?」
「ええ。安いやつだからうまくいくかわからないけど。そこはまあ、ユーナちゃんの勘に任せるわ」
「な、なるほど」
(つまり、うまく作動するかわからないってことか)
私たちがそんなことを話していると、シュラさんが「これでも頑張って買ったんだぞ」とこぼした。
「ごめん、ごめん」
とマニュウさんは言う。
すかさずシュラさんは言った。
「はいはい。おい、ユーナ、できたぞ」
組み立て終わったおんぼろの機械。いわゆるジャンク品と呼ばれるものだった。
「これがうそ発見器ですか?」
「ああ。正式名称は違うが、まあそんなもんだ」
シュラさんはうそ発見器を持ち、こう説明した。
「ここにあるボタンを押せば起動する。その後針が右に動いたら本音。左に動けば嘘だ」
「わかりました」
私はうそ発見器を受け取る。
「精密なやつだからな、それを使ってる間は対象者以外音を出しちゃあいけねえ」
マニュウさんはヤジを飛ばす。
「安いやつだからね、しょうがない」
「ま、まあ、そういうことだ。だからユーナ一人で頑張ってくれ」
「はい」
(何から何までやってもらってるな……)
申し訳ない。これが終われば、ゆっくりお茶でもしながら話をしよう。もちろん、私の奢りで。
「シュラさん、マニュウさん、それとメイルさん、ありがとうございます」
シュラさんとマニュウさんは相槌を打つ。メイルさんには聞こえてなかったようで、反応はなかった。
私は紅木葉の前に立つ。
「わたしはまだ、あなたを信用できていません」
「ええ」
「だから、いくつか質問します」
紅木葉さんは頷いた。
だから私は言った。
正直、何の質問をしようか悩んだ。
悩んだ末に、一つの疑問に回帰した。
「紅木葉さん、あなたは、スライムに危害を加えたことを後悔していますか?」
私は、スイッチを入れる。
針が、左に動いた。
「ええ」
答えは嘘。
スイッチを切る。
「では、なぜスライムを攻撃したのですか?」
スイッチを入れる。
「依頼だからよ。なんか陰湿な質問ばかりね……」
針は動いていなかった。
(はい、いいえ、で答えなければならないのか)
……なんか恥ずかしい。お茶を濁そう。
スイッチを切ってまた入れた。
「紅木葉さん、経験人数は何人ですか?」
とっさに出たのがこれだった。でも何人と付き合ってきたのか気にならないこともない。
するとなぜか紅木葉さんは頬を赤らめた。
「……何人って、わたし女子高、女子大と来たからゼロよ!」
「あ、じゃあ私と同じですね」
「あなたまだ未成年でしょ!?」
「……?」
(恋愛に未成年もくそもあるのだろうか?)
それよりも、また針は動かなかった。私はスイッチ切り咳を鳴らした。
「ごほん」
後は野となれ山となれ。この人は強い、でも対処はできる。だから、少し肩の力を抜こう。
「単刀直入に聞きます」
私はスイッチを入れた。
「もしあなたが仲間になったとして、あなたは私を裏切りますか?」
針は、右に動いた。
「いいえ。裏切らないわ」
私は安堵した。
「裏切りは大嫌いなの、だから、あなたが裏切ったら私も容赦しない」
「わかってます。お互い様ですよ」
私はクルルに合図を送る。そのとたんビックスライムははじけ飛び、数百ものスライムに分裂した。
私は紅木葉さんに手を差し出した。
「これから、よろしくお願いします」
「ええ。これからは木葉さんって呼んでね」
「わかりました、木葉さん」
私は笑顔でそう言った。
そのあと声が聞こえた。私を呼ぶ声だ。
これで解決したのかはわからない。でも、ここからゆっくりできるのは確かだと感じた。
私は微笑んで、改めて思った。
(……疲れた)
一方そのころ、紅木葉は考えていた。
(本当に、あの子を信じてもいいのだろうか。)
裏切りと共に生きてきた私にとって、人を信じるという行為は自殺と同じだ。裏切られる危険を作るなんて馬鹿かもしれない。
でも、戦いが終わった後の彼女からは親友と同じ雰囲気を感じた。絶対に裏切らない、わたしの手から零れ落ちない。そんな安心感を。
だから素直に過去を話せた。
不思議な気持ち。
私は将来この決断を後悔するだろうか?……いやしない。そのために動こう。
(いい加減、一人は飽きたしね)
「くう」とマシュマロ型のマシュちゃんが鳴いた。
「ごめんね、君がいた」
私はそう言いながら夕奈ちゃんについて行く。
(妹ができたみたい)
などと思いながら。




