121話 たとえ火の中水の中
今起きていること
・万葉木夕奈&ロニイ・ファーベントvsキラ・濱田
・鍛丸匡一郎&バルトス・シリカ&カナリアル・ボンダvsナイリー・ハニュ
・ラリゴ先生vs名も無き魔族
高揚する気分。まるで自分が自分ではなくなったように、私はウキウキな気分で剣を握った。
ロニイさんの表情はつらそう。まるで徹夜明けの徹夜をしたかのように、どんより辛そうに食いしばっている。
私のせいだ。全力を出してもらい、魔素もほぼ使い切ってもらった。なのに勝てなかった。
魔族は、長期戦には向かないのかもしれない。いいや、ロニイさんが向いていないだけか。
後悔と謝罪の気持ちが混在する。私はただ一言、こう伝えた。
「ほんとにごめん! もうちょっとよろしく!」
話している暇はなかった。キラ君は私の変化を見て、甘さを捨てたように、私たちが話している間に攻撃してきた。
私はそれを受け止める。
「う……!」
剣でキラ君の攻撃を受け止めた時、初めて軽さを覚えた。
キラ君の攻撃が弱くなった? いや違う、これは……!
(私が強くなっているんだ)
「行ける……」
緑がかった薄いエネルギーが夕奈の体を覆っていた。
「いける!」
嬉しかったんだ。でもそれ以上に、このドーピングの副作用に怯える。
ただ強くなれるなんて、そんな甘い話、あるわけない。
……ふふん! でもいいや、強いんだから、勝てる。それでいい。
私がそう思ったと同時に、ロニイさんがこう言った。
「信じています!」
了承だろうか、ロニイさんはキラ君を妨害するような魔法を使用した。
剣を振り、受け止めたキラ君を飛ばす。
この時、あちらの空にとても大きな魔法陣が展開されていたが、気にしている余裕はなかったので私は一瞥してキラ君との戦闘に戻った。
「慧眼……『暁』」
呼吸に重なるように、ただ静かにそう言った。
攻撃の軌道が見える。
私は次の攻撃を考えた。『偽装』? 『天眼』? 『統治力場』? それとも剣技か。
うん、そうしよう。
「わかった、そうしようか」
私は剣を握る。そしてキラ君が次の攻撃のために現れるであろう場所に向けて剣を振った。
それは功を奏し、剣はキラ君に当たった。
彼は足技が好きらしく、またも私の剣とキラ君の足がぶつかり合う。前ならば受け流すか逃げるかの二択だったが、今は始鉱石の力も相まってほぼ同等の力で押し返せた。
「パワースタイルに変更か?」
キラ君がそう問う。正直、私的には万葉木夕奈はパワープレイが好きな部類な人間だと思っている。それが一番楽だし。
でも、今までは筋力がそれを許さなかった。
しかしそれは解決した。単純な筋肉ではないかもしれないが、パワーは上がってる。
だから私は自信満々にこう返した。
「怖くなったんでしょー?」
「……口調も変わったのか?」
わけわからんと言わんばかりの表情でキラ君はそう言った。しかし私は気づいている。
彼は弱っている。過剰な磁力を操ったからか、今は磁力の力は使用していない。しかも、スピードも落ちている。
もしロニイさんが万全なら簡単に捕獲できていただろう。たぶん。
「すー」
私の強い呼吸音が鳴る。
どう考えても攻め時。さっきは負けたかもしれない。でも、生きた。コンテニューできた。
もう一度、リベンジのチャンスを得た。
ここで決める。ここで勝つ!
ダッと勢いよく地面を蹴り、私はキラ君に近づく。案の定、雷に似たスピードで彼は逃げる。
しかしそれはもう見ている。今までは情報がなく、私に覚悟がなかったが、それは過去の話だ。
「統治力場」
キラ君の体が勢いよく止まる。
成功してよかった。
刹那、呼応してロニイさんがキラ君を捕まえた。
私は剣を強く握る。
「必殺! はっ! 第一の技! 一撃、粉砕、吹き飛びなされ! 一撃、粉砕、吹き飛びなされ!」
(マズイ……!)
そう思い、冷や汗をかくキラ・濱田。しかし万葉木夕奈は止まらなかった。
「天眼」
空からの視点が夕奈の目に映る。
(隠し玉は多分もうない。勝てる……!)
夕奈はそう思う。そしてロニイと同時にこう思った。
(勝った)
(勝った)
剣が、キラに向かう。キラは磁力を使い夕奈の頭に瓦礫を当てるが、彼女は止まらなかった。
「エクスプロージョン!」
剣がそう言った。まるで死を宣告するように。
「ありがとう、運命」
キラがそう呟いた。まるで、安堵するように。
夕奈は驚いたように、目を見開いた。
「うそ……!?」
雷雲が勢い良く晴れる。『気象観測』、キラ・濱田の能力のスイッチが入った。
「ぴぎゃあ!」
「……!」
夕奈の体が浮いたように離れる。
(これは、公転?)
私はそう思いつつ、しまったと舌を鳴らしそうになった。
ふと上を見て見ると、天気が変わっていた。雷雲から晴れへ。夕日が眩しく映る。
ロニイさんを見ると、もう動けなさそうだった。
「かかって来いよ! ユーナ・イグドラシル!」
「ああもう、嫌いな方が出てきちゃった」
ふわりと浮き、夕奈はキラに近づく。
マズいと思ったが、身動きは取れなかった。
ロニイさんの存在の大きさ。彼がいたから、キラ君の隙ができていたんだ。
悔しい。私一人じゃ勝てない。
負け……。
生命の力が、一瞬分散したように夕奈から消えた。それと同時に、慧眼の効果が切れる。
「まだだ」
剣が歌う。そして私は『フェザーインパクト』を地面にたたきつけた。
引き寄せるような公転の力を反転し、夕奈は空へ飛ぶ。
「……」
負け? 違うでしょ。
イナズマが走った気がした。
キラはそんな夕奈を見て、ふと思い出していた。
「なあ大樹、大樹はさ、夢とかあるのか?」
「夢……。うーん、結婚かな」
「なんだお前、乙女かよ」
「不服なの?」
「いいや、なんというか……お前らしいな」
もう一つの記憶。まるで走馬灯のように、キラの頭を過ぎる。
「あれが、万葉木大樹……?」
「大樹ー、飯食べようぜ!」
「だだだ大樹くーん!? バトろうぜえ!」
「安心しろ、オレがお前の指名手配を撤廃してやる」
キラの目に映る万葉木夕奈。彼女は公転に乗った力を動かしたのか、クルクル回りながら空を飛んでいた。
最後にふわりと止まった彼女の背後には、大きな夕日が映っていた。
(まぶしい)
そう思うキラに向けて、夕奈は技を放つ。
「奥義」
それは鍛丸が設定したものではない。夕奈は、こう思っていた。ただシンプルに、こう。
負けない。負けたくない。
深層心理からの呼び声に呼応する。
「慧眼『暁』。天眼……! 統治力場」
私は、ふとこう呟いていた。
「夕斬万月魔天勞」
バンッッと勢いよく夕奈は空中からキラに向けて回りながら落下した。それはまるでチェーンソーのように、鋭い歯が高速回転しながら迫る。『統治力場』を使用し、その速さはさらに上がる。
勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つんだっ!
なんで?
「……」
考える間でもない。
それが、それが、この状況を止めるなかで一番……。
「簡単だから」
始鉱石が爆発するかのように今まで以上に光る。
夕奈の瞳が、日常から乖離したものに変わる。
そして、黒い稲妻を緑のエネルギーが覆った。
空中から攻撃を繰り出す夕奈に対抗するキラ。太陽のような灼熱と磁力を操り、近くの金属がキラと夕奈の間に散布される。
しかしそれらすべてを粉砕し、夕奈の射程距離に入った。
「……ちくしょう。オレは、勇者軍の隊長だぞおおおおおおおお!」
哀れなほどの叫び。
夕奈は、だから嫌いなのよ、と思う。
走馬灯。それは死の宣告。そんな記憶のビデオを、彼は見ていた。
「僕には夢を聞くくせに、自分は喋らないのかい?」
「ん? 大樹はおれの夢を聞きたいのか?」
「そりゃあ、僕の大事な初期メンだしね。キラは」
「そうか、それじゃあ教えてやる。おれの夢は……」
(オレの夢は……。あ、ああ、そうだ。俺の夢は……、おれの夢は……。ただ、大樹たちと一緒に……もう一度町で遊びたかったんだ)
その轟音は無情にも響く。夕奈は地上に落下した。
剣が地面に当たり、大爆発を起こす。地面は蒸発したように消え、その衝撃で飛んだキラを追いかけるようにとがった岩が伸びる。
それと同時に、葉っぱが舞った。
まさに大樹。
大きな木が、城下町に現れた。
「死なせないわよ」
緑のオーラが消える。
「それに勇者軍の隊長だって? すごいじゃない」
煙が舞う場所で、ぶんぶんと剣を振り回す音が聞こえた。そして剣を地面に突き刺す音が一つ。
「でもごめん。それを言うなら、私も濱森高校一年二組の女なの」
凛々しい顔つきで、彼女は言った。
「私の勝ち。……って、聞いてないか」
気絶するキラ・濱田。それを見た後、夕奈はロニイに言う。
「ロニイさん、ありがとう。体力はだいじょ……」
ふらっと立ち眩みを起こす。私は、嘔吐感を覚えていた。
ああ、最悪。眠い。
ロニイさんに、迷惑かけっぱなしだ。落ちたくないのに、視界が次第に減っていく。
「ロ……ニ……」
「夕奈さん」
倒れる夕奈を受け止めるロニイ・ファーベント。彼は運命の糸を操り、体を動かしていた。彼の血統の魔法。それが効果を発揮したのだ。と同時に、大きな木が煙のように消える。
優しい顔つきで眠る夕奈を見たロニイは、微笑んだ。
「夕日が綺麗ですね」
そう呟き、ロニイは、歩く。その方向は城へ。
この場所に最後まで残っていたのはキラ・濱田だった。
蝙蝠と一緒に女の子が現れる。
「負けたんや」
「……」
答えないキラにイラついた白い髪の少女は、黒い服を豪快に動かし靴を脱いで踵をキラの腹に落とした。
「……」
しかし反応は無し。少女は青ざめた。
「え、しんじゃったん?」
「いや……」
キラは、微笑んで言った。
「堪能してた」
少女は呆れたように言う。
「バグっちゃったん?」
小さな戦いが今終わる。
しかしこれは大きな始まりとなる。万葉木夕奈は勝利した。そして、始鉱石の片鱗を味わった。
「夕奈さん、もうすぐです」
城へ向かうロニイ。そんなロニイにおんぶされている夕奈は、ただ眠っていた。微笑んで。
「ここはどこ?」
そこは白い空間だった。なにもない、空間。
「ここはどこ?」
万の葉をつけた木がある草原だった。
「ここはどこ?」
ここは黒い空間だった。なにもない、暗い場所。
「ここはどこ?」
そこは、見知った場所だった。綺麗に装飾された天井。ああ、知ってる。ここは……。
「お城」
私は、目覚めた。これは重要なことだから忘れないようにしようと思う。
(私は……、生きてちゃいけない人間だ)
「……?」
夕奈はまたも、白い空間にいた。たぶんここは始鉱石に関係している場所。
ああ。よかった。
私はただ、安心してこう言った。
「やっと、眠れる」
夕奈の今日は終わる。長い、長い、一日は、夕日と共に幕を閉じた。
『異世界日記 三十七日目』
正直、あの日は密度が高かった。眠っちゃったから後日書くことになったけど、何から書けばいいのかわからない。
確か鍛丸さんから剣を受け取って、エリオスと戦った後、ロニイさんと話して、キラ君と戦った。……あ!?
大樹の居場所聞くの忘れてた! さいっあくなんですけど!
あああああああああああ。最高のタイミングだったのに……111111。
でもまあ、大樹は友人関係に困ってはなさそう?(ワンチャン、キラ君が勝手に付きまとってる可能性がある)だし、まあいっか。
大樹が無事だと知れただけで嬉しい。
それにしても、始鉱石。まだまだ知らないことばかりだし、数日経った今でも光ることはなかった。あの時はなぜ光ってくれたのか。知りたいと思った。
あと、魔法の練度がまだまだだから練習しようと思った。
ついに、ついに決着がつきました!!!!!! 山場を乗り越えた。あと数話でこの章も終わります! ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
ちなみに、夕斬万月魔天勞は夕奈がとっさにつけた名前なので、後日ちゃんとした名前を付けるかもしれません。
追記 2月25日
ゆうざんまんげつまてんろう→ムーンアポカリプス に変更しました




