120話 笑う門には福来たる
あけましておめでとうございます!
正直言って、ピンチ。
私の渾身の一撃だったのに、受け止められた。まだ折れなかった。
「……ロニイさん」
「……はい」
どうやらロニイさんも疲れているようだ。もう逃げることもできないだろう。
「……さすればどうすればいい?」
「……?」
ロニイさんは首を傾げる。
私はブツブツと独り言のようにこう連呼した。
「新しい何か、突破口。何かがあれば……」
ふと思い出す記憶。
(もう一人の私。……始鉱石)
また、死ぬような傷を負えばあそこに行ける?
……いや、リスキーだ。
それに、アーサーさんは心を通わせと言っていた。死にかけて、かまってとアピールするのは、私のしょうに合わない。
こっちを向かせてやる。
「ロニイさん、もうひと踏ん張りいけますか?」
「もちろんです」
私たちは同時にキラ君を見る。
キラ君は言った。
「……さっきからゴニョゴニョと、話し合わなきゃいけないくらいの仲なのかよ、お前らは」
「想像にお任せするわ」
私は剣を見る。エリオスとの戦いで刀は失くしてしまったが、鍛丸さんに貰った最高傑作の剣は健在だ。
しかも……、すごい、傷一つない。
(ありがとうございます)
私は剣をグッと力強く握った。
「待たせてごめん。始めよう」
「ああ」
雷のようなスピードでキラ君は移動する。私はすかさず魔法を使用した。
「慧眼『暁』」
キラ君は私の頭を左側から蹴ろうとしていた。私はしゃがんでそれを避ける。
「よくそんなに動けるなあ!」
私だって乙女である。膝より少し上のスカートでこんなに動き回っているが、下着は見えないように配慮している。なんなら統治力場で隠した時もある。
そんなことはどうでもいいのだ。今は勝つ。それだけでいい。
「『天眼』」
空からの視点が開示される。
空間を把握し、自分自身をも知るこの力。これに『慧眼』が加わることで、この力はさらなる力を発揮する。
次で決める。ぶち込んでやる。
「第二の技! 一撃、粉砕、吹き飛びなされ! 一撃、粉砕、吹き飛びなされ!」
雷の速度で動くキラ君を視認しろ。ここで終わってもいいから。終わったら寝ていいから。
一度だけ本気を出せ……万葉木夕奈!
「フェザーインパクト!」
私はフェザーインパクトを地面に当て、飛ぶ。
それを皮切りに、私を含めた三人は同時に動いた。
「統治力場!」
「エクスミクスオーバドラッグ」
巨大な神の手があるかのように、キラを上から押しつぶそうとする力が加わった。
キラは周囲にあらかじめ準備していた磁力場を順々に発動し、まるで空を飛んでいるかのように移動する。
電気と磁力。頭ほどの大きさのレンガが飛び、それが電磁気力に乗る。
「味わえよ、特別サービスだ」
それの名は、レールガン。レンガが時速八千を超え、夕奈に向けられる。
まるでそれを待っていたかのように、夕奈は口角を上げた。
フェザーインパクトで飛んだ力を操作するために統治力場を使用したのではない。キラ・濱田の火力を利用するために使ったのだ。
(最後のピースはあなた。あんた自身が、私の勝利のピースとなりえる)
「見えた」
エクスミクスオーバドラッグの効果で動くことを余儀なくされたキラ君。流石ロニイさんだ。完璧な位置に誘導できている。
ここで決めなきゃいつやる。
「キメ技!」
剣が呼応した。
「必殺! はっ! 第一の技! 一撃、粉砕、吹き飛びなされ! 一撃、粉砕、吹き飛びなされ!」
驚くキラ・濱田。レールガンの要領で飛ばしたレンガが夕奈を中心に回る。
「まじかよ」
近づく万葉木夕奈。絶望をつまみ、キラは前へ出た。
「来いよ!」
「……!」
まわるレンガがキラに向かう。当たれば即死。ゆえに磁力操作で威力を弱めるしかなかった。
だから穴ができた。空いた防御の隙。そこに、夕奈はぶち込んだ。
「エクスプロージョン!」
爆発が起きる。
ロニイは見た。
「……」
息絶える万葉木夕奈を。
「まだ、負けねえよ」
あの一瞬、夕奈の統治力場をキラの力が上回った。ほんの少しだけ、彼は無茶をして周囲のあらかじめ触っていた物を動かしたのだ。磁力で。
それが夕奈の統治力場を妨害してしまう。
最悪の結果。予感していたミス。
「……夕奈さん?」
ピシ、ピシ、と、夕奈から音が聞こえる。
何の音だ? そう思う男たち。彼らは、唖然とした。
爆発したように、夕奈の体が内部から粉砕された。力の暴走。知識もない初心者だからこそ、手に負えない力を扱いすぎたのだ。
「……は?」
「……」
エクスプロージョンの余波で煙が上がる。
「……負けた?」
白い空間。何もない。ただただ、暖かかった。
「……好き」
暖かい何か。知らない感触。
これは、なんだろう?
不思議と落ち着いた。
「あなたは誰?」
ふとそう聞かれた。
「私は……、私は……」
今までの記憶がよみがえる。生まれて、成長して、そして終わった。
私の人生は終わったのだ。
「ふざけたこと言ってんじゃねえよ」
肩を叩かれた。
「だれ?」
「名乗るほどでもねえ。てめえは、アーサーに認められてるいい女だよ」
「アーサーさん?」
「私は認められなかった。アイツに追いつきたくて、ずっと追いかけてたのに、最後まで守られっぱなしだった」
「あなたは……」
不思議とわかる。彼女は、私の前に始鉱石を持っていた人。
「しかも最後に嫌なもんを見せちまった。だからお前は生きろ。生きてアーサーに伝えろ。好きなことして生きろってな」
「あなたは……。ううん、違う」
「あなたは誰?」
声が聞こえた。アーサーさんの知り合いさんのものではない。この、暖かく包まれるような何か。その正体の声。
「だれ?」
「誰?」
「だレ?」
「だれなの?」
いろんな声が聞こえる。ああそうだ、私は……。
「私は万葉木夕奈。ただ、それだけ。あなたの名前は?」
アーサーさんの知り合いさんの声が聞こえた。
「エイザ。エイザ・ファードクラウン。認めるよ、あんたのこと。だからもう忘れるな。使命を忘れると、この石に飲まれるぞ」
「はい。覚えておきます」
何もない白い空間。でも、声は聞こえる。最後に、こう訊いた。
「それで、あなたの名前はなんなの?」
最初に聞こえた声。暖かい何か。知りたかった。その正体が。
「私は……」
ノイズが走ったように、その声が妨害される。白い空間に緑の葉っぱが舞い、瞬き一つの間に、そこは草原になっていた。
目の前に広がる、万の葉をつけた木。私は一歩前へ。
十人十色な私が私を見る。
「みんな、そこを通して。私が歩く」
ぞろぞろと、道ができる。白く明るかったそこは、赤い光に照らされる。
「夕日か……」
私の名前は万葉木夕奈。そんな私は、万の葉をつけた木に触れた。
「一つ忠告。自分を信じる気持ちは、大事だよ」
体を蠢く何か。
生命が身体中にあふれる。
「ばーか! まだ負けない? そ、れ、は、こっちのセリフよ!」
ハイになった夕奈が、万全の状態で復活した。彼女は剣を肩に掛け、近くのレンガの山に右足を乗せる。そして舌を出していた。
「夕奈さん……!?」
「はははっ、すごいな、お前!」
「でしょっ。……ごぺ!?」
レンガが私の頭に勢いよく当たる。
「おいおい、普通に当たるなんて珍しいな」
驚くキラ君。でも私が一番驚いていた。
認められたのか?
服の中に隠していたネックレスが姿を現す。それは浮くように動いた。
緑の宝石がついており、それは輝かしく発光する。
何に驚いたか、それは、頭から血が出ていないという事。
感じるんだ。あふれ出る生命の力が。
「あの時と、同じ……!」
ロニイさんのそのつぶやきを聞き、私は納得した。
これが、始鉱石の持つ本来の力。
圧倒的な生命力。
まだ、戦える。これなら、多少無茶しても死なない。
まだ不思議な力ゆえ、調べたいこともある。でも、好き勝手使えるような力じゃなさそうだから。
悔しいけど、ようやくキラ君に並べた気がする。
始鉱石とロニイさんがいれば、私は勝てる。
「あははっ、なんか、楽しくなってきた!」
「おいおい、テンション高すぎだろ」
私とキラ君とロニイさんは、戦闘準備に入った。
あと一、二話でこの戦いは決着する予定です!




