119話 泥鰌の地団駄
メリークリスマス。
同時刻、クイナ・イースターが敗北した。
「キラ・濱田君ってさ、意外とわかりやすい性格してるよね」
「……突然何を?」
『統治力場』で攻撃を避けつつ、夕奈は言った。
「有象無象と同じで普通って言ってんのよ」
「……!」
夕奈に近づくキラ。それを見た夕奈は確信した。
(直線移動。今までもそうだった)
私の『偽装』はコピーできる上限がある。初期値が低すぎて実質課金必須なクラウドのように。
そして、彼もまた直角にしか動けない。それと一つの天気につき一つの能力しか使用できない。
つまり何が言いたいのかというと、彼は私と同じように能力を複数所持しているということだ。
「……!」
私は剣でキラの蹴りを受け止める。そしてこう言った。
「後ろから攻撃すれば?」
「ごちゃごちゃと……!」
万葉木夕奈は高校一年生女子の平均身長よりもわずかに低い。鍛丸は男子であり、背の高い部類であるがため、そこを読み間違えた。
夕奈にとってこの剣は実質、大剣。両手で持ち、遠心力で相手を打つ。
そうして戦ってきたからか、今まさに腕に疲労がたまっていた。
「……」
腕がぴくぴくしている……。明日は筋肉痛かな。
さすれば休める。それを免罪符にして。
そんな怠惰な考えを頭の片隅に過らせながら、私は見た。
「……」
現在判明している弱点は二つ。天気によって左右されるという点と、直角にしか移動できないという点だ。
……しかしこれでは足りない。
ロニイさんを一瞥する。先ほどから魔法でサポートしてもらってはいるが、決定打は与えられていない。
それに、魔族の魔素は有限だったはずだ。師匠がそんなことを言っていた気がする。
なら猶更ちんたらしている場合ではない。
今までの攻防を見て、私の攻撃は当たれば通用する。すなわち当てれば何とかなる。
たった二つの弱点しか見つけられなかったので少々心配だが、背に腹は代えられない。
今一番危惧するべきなのは、私かロニイさん、そのどちらかが力尽きることだ。
「ロニイさん!」
「ウィンドパニッシュ」
ロニイさんがキラを風か何かで私たちから遠ざけてくれた。それを見た私は感謝を伝えこう言った。
「ありがとう。——今から突っ込むから、援護よろしく!」
「ここで終わらしますか?」
「いや、突破口を開く!」
「了解です」
私とロニイさんは同時に詠唱した。
「慧眼……『東雲』」
「バルクスオホーチュン、ウヨキッゼ!」
叫び声が広がる。私には何もなかったが、キラは目を細めた。その隙をつき、黒い手がキラの四肢を掴む。
私の『慧眼』の効果により、魔力が視認できた。確認の結果、やはりキラは魔法を使う様子はない。つまり、魔法は使えない。
黒い手に掴まれている現状。さあ、私の攻撃をどう避ける?
「必殺! はっ!」
もう二度はない状況。あの黒い手も、流石に二度は効かないだろう。雷の速度だ。避けられる。
絶対に失敗しない。
見るんだ……。
「第二の技! 一撃、粉砕、吹き飛びなされ! 一撃、粉砕、吹き飛びなされ!」
剣が歌う。そして血管のようなものが浮き上がり、ドクンと震えた。それが私の手と繋がる。毎度ながら、気持ち悪いな。
そう思いながらも、嫌いになれずその剣に頼る私。
全力で走りながら、両手で力いっぱい剣を握った。
「フェザーインパクト!」
そう剣が言ったと同時に、私は思う。
(さあ、使えよ。使ってみろよ!)
「全力、だしなよ!」
私の声と同時に、衝撃が体に走った。無意識からか、力が見える。
「慧……。ぶふっ」
鼻血が勢いよく出る。なぜか、私の魔法のギアは上がっていた。
力が可視化され、気づいた。私の体と後ろの家の間に、磁力が発生していると。
「統治力場!」
磁力を強引に打ち消し、私の浮いた体は無事、地に降りた。
(引き出せた……! キラが隠していたもう一つの力は、磁力!)
「夕奈さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫! びっくりしただけ」
本当にびっくりした。急にギアが上がったから。……もしかして、あれが無詠唱魔法ってやつ?
もしそうなら、最悪だ。いつ動くかわからないチェンソーが常に首にくっついている状態と同義。
暴発しないように、注意しとかないと。
(でも……。助かった。結果的に戦える時間を削ることになるが、磁力に慣れるまで『曙』で行こう)
目の前のキラは黒い腕を数本剥がしていた。これでもう一つ分かったことがある。
彼は放電ができない。
いい副産物が舞い降りたかな。
「ロニイさん」
「はい」
私は一瞬だけ考えを巡らせて、こう伝えた。
「次で決めよう」
「わかりました」
決定する。あと二本くらいの黒い手。取るのに苦戦していることや、私を一撃で殺せなかったことを考えると、攻撃力はあまりないようだ。
これならいける。
私は前に出た。当然、走りながら。
「ヘビーホープ。ロックロープ」
重力のように、上からの力がキラに加わる。同時に、空中に現れた三本の縄がキラの体に巻き付いた。
大サービスだ。出し惜しみ無し。ロニイさんは私を信じて、魔素を一気に使ってくれた。
ならそれに報うのが、怠け者なりの誠意でしょうが。
やること全部やってぐうたらする。それが一番、気持ちいいのよ。
「慧眼……」
無意識のうちにそう呟いていた。
何をしているのだろう? そう思う。
『暁』『東雲』『曙』と、それが私の作った魔法だ。その次はない。
なのに、ふと、思いがよぎった。
もう一つ上へ行きたい。
たった一つの思いと、ひらめきが、私を次なるステージへ進めてくれた。
「慧眼……『朝ぼらけ』」
攻撃の軌道、魔力、力と進化してきたこの魔法。分岐のようにできることが増えていたが、私はここで趣向を変えた。
攻撃の軌道。それを正当に強化する。
この魔法は、攻撃の軌道だけではない。これから何が起ころうとしているのか。何ができるのか。すなわち未来を見る魔法。
二秒ほど先の未来で起こりうるであろう可能性を無数に見た。
夕奈の脳はそれをすべて受け入れるほど優秀ではない。ゆえに、それ以外の情報を遮断した。
目の前のキラ・濱田を倒す。それだけを見る。
ロニイの声も、キラの声も、夕奈には聞こえない。
夕奈は、無我の領域へたどり着いた。
だからこそ気づかなかったのだ。天空から雷が降ってきていることに。
それがキラに当たり、キラは放電を始めた。
「できねえとは、言ってない……!」
ニヤリと笑うキラ。その雷は、夕奈を襲った。
……はずだった。
しかしなぜか、それらは夕奈を避ける。
キラはあの攻撃を曲げる魔法か? と思うが、詠唱をしていないことを思い出しそれを否定した。
否である。
夕奈は『統治力場』を使用していた。……無詠唱で。
慧眼『朝ぼらけ』の効果により、力魔法の使用に補助が入る。『朝ぼらけ』を使用しているときに限り、夕奈は無詠唱魔法の境地にたどり着ける。
「やめ……!」
音が、響いた。
歌が流れることもなく、ただ、鈍い音だけが。
「ぐはっ……!」
キラの顔面に、夕奈の剣が直撃した。鼻血を豪快に飛ばしながら、キラは後ろへ飛ぶ。
同時に、夕奈の『朝ぼらけ』が終わった。
「ぶはっ! はあ、はあ、はあ……」
彼女は気づいた。自分の体が息をしていなかったことを。
「はあ、はあ。無茶するんじゃなかった……」
よだれを垂らし、苦しそうな顔をする夕奈は、後悔した。
彼女には力魔法の師がいない。ゆえに、必須事項である安全性を無視していた。
それに気づいた彼女は、絶望する。
もし、寝ている間に無詠唱でこの魔法が発動したら?
「……」
私は、ごくりと唾を呑んだ。そしてだらしないヨダレをハンカチで拭く。
(大丈夫)
発動はしない。
根拠はない。だが、自信はある。
(だって私はぷう太郎だから。めんどくさがりな私が、無意識のうちに魔法を使うわけがない)
だから安心して。今は戦いに集中だ。
「夕奈さん」
「うん。いいのが入った」
ぐわんっ、と私の体が揺れた。『朝ぼらけ』を切ると、同時にこれまで重ね掛けしてきた魔法も消える。
『暁』も、『東雲』も、『曙』も。だから気づけなかった。
「ふぐう!」
夕奈は横に移動し、民家に直撃する。
「……」
私はキラ君を見る。彼はこう言った。
「いてえ……が、ルリア・ホーガンほどじゃねえ」
「ホーガン……?」
どうやら、私が思う以上に状況は複雑らしい。
アリアが心配だ。クルルもたぶんここにきている。レテシー、師匠、エリオス、フィンナ、木葉さん……! みんな、みんな、心配だ。
(だから、戦争は嫌いなんだ)
あ、鍛丸さんも心配だけど、彼はたぶん大丈夫だろう。ヒーローだし。
だから、早く終わらせる。疲労もたまってるし、くすぶっている場合じゃない。
「キラ君……」
「なんだよ、攻撃ネジ曲げ女さん」
私は微笑して、こう言った。
「……うっさいのよ。立ち上がったこと、後悔しないでよね」
「それはこっちのセリフだよ」
新技登場です!!! ここまで読んでいただきありがとうございます。




