117話 天は自ら助くる者を助く
今起きていること
・万葉木夕奈&ロニイ・ファーベントvsキラ・濱田
・鍛丸匡一郎&バルトス・シリカ&カナリアル・ボンダvsナイリー・ハニュ
・ヒョウリー・クワンド&エリオス・バンダ&駒衣千菜&キョウヤ&冒険者たち&嘉村舞奈&カニマニ・アルル&ニッコリ&その他大勢の魔族、魔獣&メモリープラットvsブクブク(メモリープラット)&パタパタ(雷鳥)&スウィートランボーが使役している魔獣たち
・ラリゴ先生vs名も無き魔族
「ありえねえ」
ただ肉を殴る音が鳴り響く。
つい一か月前、普通に働くのが嫌で冒険者になった女、リリベイ・ナンテコッタ。そんな彼女が見つめる女こそ、この国を支えるあのアーサー=アーツ・ホーガンの直属メイドであり、メイドを総括している、嘉村舞奈である。
リリベイはそんな嘉村を見ながら一言。
「もう冒険者辞めよう」
巨体を持ったメモリープラットを殴り続ける女。メモリープラットはもう、防御を諦めていた。
「あーあ、なんてこった」
リリベイは踵を返す。
ただただ、殴る音だけが響く。
嘉村舞奈はこう思った。
(一分じゃ足りなかったか。あともう一分、殴れば……)
ただただ、鈍い音が鳴っていた。
キョウヤは今、ハウワーから逃げている最中。つまり、キョウヤが勝つより少し前の話になる。
嘉村舞奈が殴っているのと同時刻。ニッコリ、カニマニ・アルル、ヒョウリー・クワンド、エリオス・バンダ、そして冒険者たちと大勢の魔族達は雷鳥と戦っていた。
その戦いは硬直が続く。五分、十分、二十分と、ただ時は過ぎる。
冒険者や魔族の者たちは、カニマニ・アルルを筆頭にした強者たちが創り出した隙を狙い、雷鳥へ攻撃を繰り返す。
それは上手くいくのだ。しかし数分すると、雷が降る。
それが雷鳥に当たり、パタパタと呼ばれる雷鳥の傷、体力、集中力、全てが回復する。
すなわち、ふりだしに戻る。アナログゲームでしか見ないようなマスが、延々と続いている状況。
一から六までふりだしに戻るマス。さいころの数字は六まで。
そんな無理ゲーを強いられる。言ってみれば、火力不足なのだ。
この場に嘉村舞奈がいれば、もしくは魔神でもいれば……。それ同等の火力があれば……。
しかしそれは存在しない。
雷鳥、パタパタは紛れもない珍獣。スウィートランボーの主力の一匹である。
そう簡単にはやられない。
「……んにゃろー。精神も強いとか、隙がなさすぎるだろ」
ニッコリは二十分以上、ここ、雷鳥に張り付いている。
そして精神を犯す能力を使用し続けているのだ。あのアーサ=アーツ・ホーガンにも効いた技。だが、雷鳥には効かなかった。
まさに無敵の存在。
雷鳥パタパタ。その正式な学名は、雷を従えた鳥と書いて、雷従神鳥と読む。珍獣なんてものじゃない。しかしそれは古い言葉。ここ数百年は姿を現さなかった存在。
似た生物に雷鳥と呼ばれている、雷の中を飛ぶ鳥がいるが、このものは違う。
残念ながら、この場にいる者たちはそれに気づかない。もっとも、考古学や生物学に興味でもない限り、知りえないのも無理はないのだが。
「……また、回復したのか」
「アルルさん! どうすればいいだっ!?」
指示を仰ごうとしたクワンドに雷が降った。
「クワンド!?」
うろめく魔獣たちを仕留めていたエリオスは心配そうにそう言った。
そんなエリオスは、一瞬よろめく。
(傷が……。動け、オレの体!)
「アルルさん! オレも援護を!」
「いや、エリオス・バンダ! 君はその魔獣たちを止めていてくれ!」
足手まといという意味ではない。彼たちが魔獣を止めていないとさらに状況が悪くなるのだ。
無限のように湧く魔獣たち。駒衣千菜もエリオスと同じように動くが、現状は変わらず。
幻獣と同義な雷従神鳥は、愚民を見つめる王のように、周囲を見回した。
勝てない。そんな気持ちが、大なり小なり全員に広がった。
「……」
これが、スウィートランボーの影響力。強さ。
そんな彼が、今まさに負けた。
「……!?」
カニマニ・アルル。彼は直感で理解した。今が好機だと。
魔法陣が消え、魔獣が無限に等しく湧いてくることがなくなった。と、同時に、天秤が現れる。
「賭けよう。僕たちの体力とあなたの一瞬の隙を」
「ぎゃっはー!」
町の方からぶっ飛んでくる一人の男。その名も、ギマリ・ガンガン。そんな彼とは違い、一歩離れた場所で魔法を使用したコジカ。
十分ほど前の話。
「ギマリさん、実は僕、もう回復してるんですよね。クルルちゃんにやられてから結構経つし」
「……」
ギマリは、城に来ていた。数分前に聞いた話。
目の下にクマがある男が、ギマリに援護を頼みに来ていた。
「よし、じゃあ暴れに行くか」
「え」
そして現在に至る。
「俺様登場だぜ!」
ギマリはパタパタの首めがけて剣を振るった。しかしその刃は通らない。
(かてえ……!)
魔族や冒険者たちが魔獣を狩っている近くで、コジカはこう思った。
(ギマリさんにもう、迷惑かけたくないんだ)
幸か不幸か、主を失ったパタパタは一瞬の隙を作った。
「僕の勝ちだ」
コジカはそう呟く。
「きたー!」
ニッコリの能力が発動し、その隙がさらに大きく、長くなる。
ギマリ、アルルは同時にパタパタにかかろうとした。
「ヒョウリー・クワンド! 友達と一緒に魔獣を倒せ!」
「わ、分かっただん!」
刹那、コジカはこの世界を覆った。
「僕は、いやオレが、お前を倒す! エルムンダリア!」
パタパタ、ニッコリ、アルル、ギマリ、コジカ、駒衣千菜の五人と一匹だけになる。本来なら雷が降り壊されるはずだった世界だが、ニッコリの力によりそれは防がれた。
「ギマリ・ガンガン! コジカ! そして麗しき乙女よ! 決めるぞ!」
「オレが」
「俺様が」
ギマリとコジカは同時にこう言う。
「こいつを倒す!」
一人は戦いを終わらせるため、もう一人はただ単純に勝つために。
一方、駒衣千菜は何が起こったのか、状況を理解するのに精一杯だった。しかし彼女はその理解をあきらめる。ただ信用した男が言ったように。
「駒衣千菜、君はただ町を守ってくれ。オレたち二人が動きやすいようにな。頼むぞ」
ただただ、仲間を、家族を守るために……。彼女は目の前の敵を倒すことを優先した。
四人の戦士が同時に叫ぶ。
「バルクスオフォーチュン、ホーンダック、ダリアフォース!」
「ぎゃはは!」
「燐陽鉤鷹」
「一のDを展開」
駒衣千菜は意外とマメで、番号によって種類を分けている。例えば十六はショベルカーや戦車、単純な車など、乗り物が詰められている。十五には、機関銃が保管されている。あまり戦闘には使われないが、五に入っているのは食糧だ。
などなど、彼女は種類によって分けている。
そして一には、魔道具が入っている。
遠くにいる敵でも殺せる魔道具が出現した。槍のようなものを飛ばす魔道具であり、その魔法は火と風である。
それと同時に、活性化した無数の黒い手がパタパタを掴もうと伸びた。
ダリアフォースを纏ったコジカは跳ぶ。カニマニ・アルルは日を蓄えた鷹となる。ギマリ・ガンガンは全身を古びた鎧で覆い、右手と左手を朝星棒に変える。別名モーニングスター。
三人は同時にパタパタへと近づいた。魔道具から槍が発射される。
バルクスオホーチュンの効果で出た黒い手がパタパタを掴み、ニッコリが精神を掴む。動くが鈍くなったパタパタの胴体を槍が貫通した。
「外した……!?」
心臓から少しズレてしまい、柄にもなく汗を流す千菜。こればかりは流石雷従神鳥だとしか言いようがない。
しかしそれでも大ダメージ。よろめくパタパタ。頭も弱まっており、雷を降らすという考えに至らなかった。
そこに、ギマリ、アルル、コジカが襲撃に来る。
絶望だった。
「……」
かつて神と崇められた鳥の意地か、残り少ないマヨネーズを出そうとするがごとし力を見せた。
パタパタの奥の手。
「……!」
コジカ、ギマリ、アルルは同時に攻撃を中断した。ギマリ、コジカは地に降り、アルルはニッコリを回収した。
何かが起きる。そうさっした瞬間、パタパタは雷を纏った。帯電する鳥。
ニッコリは「あぶねー」と冷や汗をかく。
この状況に誰もが焦っていた。そう思われていた。が……一人だけ、その着地が逃げではなく、次の行動へと繋げたものがいた。
「てめえら引いてろっ!」
再度、跳ぶギマリ。彼は朝星棒をパタパタに当てた。金属ゆえか、電気が走る。しかしギマリには当たらなかった。
なぜか。それは彼が鎧をゴム製にしていたからだ。
「きかねえよ。ゴム製なんでなア!」
防御力は落ちるが耐電気を彼は優先した。それを見たコジカはギマリに続く。
「終わらすんだ。ここで! もう、誰も傷つかないように」
コジカは天秤を出す。
「僕の魂とお前の疲労を賭ける」
コジカの魔法は、同等の価値の物を賭ける。そしてその勝者は、運で決まる。
だが多少は、その運が占める割合を減らすこともできるのだ。クルルに使ったように、能動的に動く。
「ギマリさん、受け取ってください! エング!」
炎を纏った翼が現れる。それはギマリを燃やした。
コジカにだけはそれが、神様と同等に見えていた。まさに火雷大神。
雷だけの神鳥は、火と雷を持つ大神様に似ているかもしれない男には勝てない。
ギマリの武器に引火し、その火はパタパタへ届いた。
しかしまだ、足りない。
そこに、声が響いた。
「エルムンダリア!」
「カチカチドン!」
ヒョウリー・クワンド、エリオス・バンダがこの地に現れる。しかし無詠唱魔法を使う余裕すらない二人。
それを見たコジカは、内心嬉しい思いを噛みしめながら、厭味ったらしく微笑した。
「こっちに来て大丈夫?」
「いっけえええええええ!」
エリオスの足にダリアフォースの力が付与される。空中に現れ落下する彼らは、魔法を使用した。
鈍い音を鳴らしながら、エリオスの踵がパタパタの脳天にぶち込まれる。
「……!」
雷を纏っている影響で、エリオスは感電した。彼の意識が消える。
クワンドは落下しながら無数の氷のつぶてを落とし、その一発がパタパタの片目を穿いた。
「あぎゃ!」
鳴くパタパタ。エルムンダリアで作った世界が壊れかかっていることに、この場にいる全員が気づいた。
「コジカ君とそこの乙女! 落下する二人を頼む!」
「ええ!?」
「わかりました」
羽ばたくカニマニ・アルル。彼は空中に舞い、魔法を使用した。
「獅子乱舞」
人型のライオンに変わる。この間に着地していたギマリ・ガンガンは全身を鎧化し、クルルに見せたあの技を使った。身体中に武器を生成する技。
そして跳んだ。
上と下。二方向からの攻撃が、パタパタを襲った。
先に当たったのはアルルの一撃。そして次にギマリ。
敵を砕く一撃がもろに入り、雷従神鳥パタパタは気を失った。それは雷をじかに浴びたギマリ、アルルも同じであった。
駒衣千菜の力で出したクッションでクワンドとエリオスを落下の衝撃から守ったばかりだったので、もうストックはない。
コジカは焦る。
「ギマリさんが!……お姉さん!」
「すみません、クッションは一つです」
「そんな!」
同じように落下するパタパタ。ギマリとアルルが落下しているのを見つめることしかできない二人。そんな二人を、現実は絶望へと落とした。
セカイが崩壊する。
幸か不幸か。現実に戻ってしまった。
と、同時に雷が降る。それがパタパタに当たった。
翼を動かすパタパタ。
羽が降り、この戦いは終わりを迎えた。
「カニマニ・アルル。それにリオ、ヒョウ、よくやった!」
エリオスとクワンドのことをそう呼ぶ男は、落下するアルルとギマリを空中で抱きかかえた。
まだ弱いが、意識が戻ったギマリは言う。
「俺様には無しかよ」
「出来て当然だ」
その男こそ、サーガ・ラントゥトーン。彼は言った。
「今だ、やれ!」
コンマだった。そのわずかな隙を突き、奴はパタパタの首を切り落とした。勢いよく、天候が変わる。落ちてゆく日が見えた。
「あーっはっは!」
そう高らかに笑う男は、アーサ=アーツ・ホーガン。戦いが終わった戦場に舞う葉っぱ。
それを見たアーサーは、驚いたようにあれを見ていた。
城下町に突如として現れた、大樹を。
そんなアーサーに一言、千菜がこう言った。
「あなたがアーサ=アーツ・ホーガン。……なんでもっと早く来てくれなかったんですか」
「それはコイツに行ってくれ」
親指でサーガを指すアーサー。そんな彼はこう続けた。
「それに、今まで詳しい事情を知らなかったんだ。アイツに感謝だな」
そう言ってその人物を探すアーサーだったが、その人物は見つからなかった。
場面は移り、彼はある人物に会っていた。
「ポイロちゃんならあっちの方」
「ありがとう。そっちはどうだった?」
「ヤバかった。でも国王を呼んだ」
「なるほど。やるな」
「だろ。にしし」
その者たちの名は、ニッコリとキョウヤである。ニッコリの力は精神に入り込む力。一度入った者に印を残しておくことで、メッセージを送れるのだ。しかしこれは二十四時間しかもたない。
これを使い、彼はアーサーを呼んだ。
キョウヤは微笑む。
「魔法陣が消えてた」
「そうだな」
「……」
キョウヤは空を見る。そこにも、葉っぱはある。緑に包まれた天を見て、そっとこう、呟いた。
「ポイロに会いに行くか」
「おう」
キョウヤはにっこりに訊く。
「お前はどうするんだ?」
「オレか? オレはまだ傭兵かな」
「そうか。頑張れよ」
「お互いな。にひひっ」
そう言って別れる二人だった。
一方その頃。大きいメモリープラット、ブクブクは死んでいた。そこに嘉村舞奈はいない。彼女は、レテシー・アルノミカとの約束を守るために城に戻っていたのだった。
収束する戦い。
残す大きな戦いは、城下町に絞られた。
今起きていること
・万葉木夕奈&ロニイ・ファーベントvsキラ・濱田
・鍛丸匡一郎&バルトス・シリカ&カナリアル・ボンダvsナイリー・ハニュ
・ラリゴ先生vs名も無き魔族
ここまで読んでいただきありがとうございます。投稿が遅れた理由は大きく二つ。一つはパタパタ君の倒し方が思いつかなかったこと。というか、どんな展開にするか最後の最後まで悩んでたんですよね~。もしかしたらキョウヤの仲間になってたかもしれません。そしてもう一つは……ポケモンやってました。
すみませんっ!
しっかり完結させる気はあるし、書きたいことがいっぱいあるので安心してください!(でも時間と体力がない泣)
いつも応援ありがとうございます! やっとこの章も終わりが見えてきましたね!




