115話 先んずれば人を制す
キョウヤ、嘉村舞奈、ヒョウリー・クワンド、エリオス・バンダ、駒衣千菜、カニマニ・アルル、ニッコリ、そして多くの魔族と、ついさっき現れた数十名の冒険者たち。こんなに多くの戦士が集まったにもかかわらず、まだ決着はついていなかった。
これは、まだポイロたちがスウィートランボーに勝てていない頃のお話。
キョウヤの心配は杞憂に終わったはいいものの、パタパタ、と呼ばれる雷鳥はまだ動ける状態であり、ブクブクと呼ばれているメモリープラットは娘と一緒に吠えていた。
(敵が一人増えた。マズイな、このままほっておくとコイツどんどん子供産みやがるぞ)
メモリープラットは寿命が少ないゆえに、ハイペースで子づくりをする。このモンスターの特筆すべき特徴は、記憶を遺伝させるというところ。
とどのつまり、これは同等の力を持つ分身と言っても過言ではないのだ。
産後鬱から回復したメモリープラットの目は、血走っていた。
現在、ニッコリ、カニマニ・アルル、ヒョウリ―・クワンドと、援軍に来たエリオス・バンダが雷鳥と戦っている。
一方、嘉村舞奈、駒衣千菜、キョウヤ、多くの冒険者及び魔族達は突如として現れた雷雲を覆い隠すほどの無数の魔法陣から出てきた魔獣たちとメモリープラットを同時に相手していた。
スウィートランボーの息がかかっていない魔物こそ味方してくれているが、手が足りない状況は依然として続いていた。
そこに、さらなる不幸が重なる。
「……!」
体の限界。現在キョウヤは元魔神の死体を操っている。しかし能力の副作用。回復すべき到達点が来てしまった。
死んだ者は生き返れない。無理に回復しようとすると拒否反応が出てしまい『ハイタッチジャック』の効果が強制的に消えてしまうのだ。すなわちキョウヤは元の体に戻る。
それに加え、魔素の激しい消耗により、終わりは近づいていた。
決定打を与えられるであろう嘉村舞奈も、多対一は苦手らしく目当てのメモリープラットにたどり着けない状況。
何もかもが、追い打ち状態。
冒険者や魔族達、魔物たちも頑張ってはくれているが、どうにも力不足。それもそうだ、なんせあのスウィートランボーが育てた魔獣たちなのだから。
「十六のAを展開」
刹那、戦場に戦車が現れる。
駒衣千菜。彼女が最も得意とするのは多対多であり、この状況において最も活躍できる人物であった。
「頭のいい人はいますか?」
数人手を上げる。駒衣はその人たちにマニュアルを渡した。
「この兵器の扱い方です。本来の戦車とは違い、簡単に操縦できるように作ってもらっています」
その言葉の真意。それは乗れという事。
死を前にした魔族と人間は、手を取り合った。
それを見たキョウヤは安堵する。
(千菜か……、よかった、あいつが来てくれて)
キョウヤは、作戦を立てていた。
(千菜のおかげで戦力は増えた。でもそれでも追いつかない。こうしているうちにもあのデブは子を増やす。どうにかして嘉村舞奈を前線に上げる。今一番望むのは元栓であるスウィートランボーを止めること。だがポイロが必ず勝つとは限らない。雷鳥の方は何とかなっている。千菜と一緒に来てくれた魔族の男の子が召喚された魔獣を足止めしているようだ。おかげであいつとカニマニ・アルルとクワンド君が雷鳥戦に集中できている。あの様子だと、勝てなくても負けることはなさそうだ。なら、今一番優先するべきことはあのデブを倒すこと。そのためにはあそこでグダっている嘉村舞奈の力が必要だ。ザコは千菜と冒険者、魔族、魔物の皆に任せておけばいい。オレと嘉村舞奈で一番でかいメモリープラットを倒す)
「嘉村舞奈!」
「……!」
キョウヤは一番大きいメモリープラットを指さす。嘉村舞奈は頷いた。
彼は、最後の魔法を放つ。
「上位魔法、コクウの鏡」
キョウヤの意識が消えた。次に目を覚ましたのは物置の中。自分に覆いかぶさるようにある魔神の死体に触れ、『四次元ワクワクポケットさん』でそれを収納した。
最後に放った魔法。それは転移系の魔法。
キョウヤが転移したのは四つ。
一つは死体。もう一つは嘉村舞奈の体。そしてもう一つは、一番大きなメモリープラットである。
最初からこれを使うわけにはいかなかった。四つの物をばらばらの場所へ飛ばすのは、魔神の体を借りているだけのキョウヤでは無理だった。
だから、当然ブレる。
思った通りに行かないかもしれないのだ。しかしやるしかなかった。
キョウヤは知らないが、これは運よく成功していた。
嘉村舞奈、ブクブクは距離こそそこまでは離れてはいないが、スウィートランボーの息がかかっている魔獣がほとんどいない場所に飛んでいた。そこには、魔物専門の医師であるダッド・パークがいた。彼と治療中の冒険者たちは驚く。
そんな彼らに逃げろと伝える嘉村舞奈。
そんな彼女は、続けてこう言った。
「随分とまあ、手こずらせてくれましたね」
グルルとよだれを垂らすメモリープラット。そんな二人の狂気を感じたのか、その周辺にいた魔獣、魔物たちは逃げて行く。それは人であっても同じだった。
二人だけの空間。だけど微塵も羨ましくない。
嘉村舞奈はこう呟き、戦闘に入る。
「一分です」
地面が割れ、空気が破裂する。
それを逃げながら見ていたダッド・パーク。気づけば、メモリープラットの腹部に嘉村舞奈の拳がめり込んでいた。
しかし、四つ。キョウヤが移動させたのは四つである。
ならばもう一つは?
自分の体に戻ったキョウヤは、覚悟を決めた。
城下町に降り立つモンスター。避難が完了している、戦場に一番近い地区の家々が踏みつぶされた。
それが四つ目の正体。
「ブクブクジュニア、お前の相手はオレだ」
二人だけの空間。キョウヤは、人間の年齢にすると十七歳ほどであろうメモリープラットと対峙した。
しかし全く羨ましくない。
ブクブクジュニアは、そんなに子供じゃないわ! と言わんばかりの顔で吠えた。
「うごおおおおおお!」
「レディだからって、容赦はしねえぞ」
始る戦闘。
キョウヤはどや顔を見せ、一回転した。
「ブクブクジュニア! こいっ!」
「うごおおおおおお!」
残念ながら戦闘は始まらず。
「オレだけ見てろよ、他の男には近づけさせねえ!」
命を懸けた鬼ごっこが始まった。
人手が足らないゆえに、彼はとにかく敵の戦力が増えないことだけを目的に動く。すなわち子作りをさせない。そのための誘導。
キョウヤは、誰もいない地区でこう叫んだ。
「……絶対、捕まってたまるか!」




