112話 勝てば官軍負ければ賊軍
「……さあ、さあ、さあ! 皆の衆! 私についてこい!」
風神のようなポーズをとるファニー。そんな彼女の横を四人は通る。
村人の女、ポイロ、アンニ、無苦。四人は肩を並べた。
スウィートランボーを囲むように狙う冒険者たち。健常な冒険者たちの約半数はインドールにより洗脳された仲間を救護していたが、残りの半分はスウィートランボーを狙っている。
この戦いの結末は、近い。
「勇者軍はちとマズいか……?」
そう呟くスウィートランボーを無視し、桐菜無苦、彼は戦う。
「行くぞ、付いてこい」
「りょ!」
地を揺らし、無垢は跳び立つ。これが彼の異能力。神からの『ギフト』。
超人的な跳躍力。
「ブッパマン」
スウィートランボーの服の中から猫のような魔獣が現れる。その魔獣は口を大きく開け、光線を放った。
無苦はそれに手を差し伸べる。
刹那、和解した両国のように、無垢の手に触れた光線は攻撃を中止した。ゆえに、攻撃は無効化された。
これが、彼の持つもう一つの力。あらゆるものの無効化。
跳躍力を上げる『シェイクホッパー』。無効化の力を持つ『特攻変異』。彼が神から授かった力である。
「わたしも!」
「おい!」
風を操り、スウィートランボーへ誰よりも早く近づく女の子がいた。彼女の名はファニー・トロイポン。
剣が、スウィートランボーを襲う。
しかしそれは防がれてしまい、ファニーは落下してしまった。
あまりにも無力。刃が折れた剣だけが、無情にもファニーの手に残った。
「力不足だな」
「もう一回だ」
攻撃を何度も無効化し、スウィートランボーに近づく無垢。彼はそう言って、スウィートランボーを蹴った。
「……ぐっ!」
跳躍力の強化は、純粋に蹴りの威力を上げる。同時に、突風が吹いた。
空気が風に変わり、ファニーの背を押す。
彼女は天空を舞い、刃が折れている剣でスウィートランボーを狙った。
「その程度」
スウィートランボーは空中に複数の魔法陣を展開する。
「にひひ」
しかし、彼女は笑う。
空中に浮いているスウィートランボー向けて、二つの風が吹いた。
人一人を浮かせられるほどの風。普通なら地上にいる人物全員が吹き飛んでいるだろう。しかしそれをカバーする二人。
一人はもちろんファニー。彼女は無意識のうちに風を丁寧に操っていた。しかしそれでは漏れが出る。そこをカバーする無垢。彼はあらゆるものを無効化する。
道となって繋がっている風だ。触れることで効果を発揮する彼の能力とは効果抜群だった。ただその場にいるだけで、風を無効化できる。
彼は、冒険者たちに当たる風を無効化していた。
閑話休題。風がスウィートランボー向けて吹く。それに乗っていたのは、ポイロとアンニだった。
「お団子!」
「うるせい!」
大きな拳がスウィートランボーを襲う。しかし魔法陣が現れ、その魔法陣の先の場所を大きな拳は攻撃した。
魔物は出てこないまま魔法陣は閉じる。ゲートと言っても過言ではないスウィートランボーの魔法陣の中に入った拳は、帰ってくることはなかった。
しかしそんなこと気にしている余裕はない。
「おまえら、今だ!」
明確な隙。四人の戦士の近接戦闘によりスウィートランボーの攻撃の手がほんの少し緩んだ。ポイロの復活により、魔法陣の数も明確に減っている。
そこに、複数の魔法が向けられた。
「ブループラネット」
「ファイアブラスト!」
「トルネードリゾット……!」
「……ロックラリアット」
その数はもはや数えられない。四方八方が七色に光る。
「あちょえー!?」
ファニーは驚き、自分含めた四人を緊急離脱させた。
スウィートランボーは冷や汗をかきつつ、魔法を使用する。
刹那、一人の女の怒りが爆発した。
場面は突風。目が痛くなるくらいの光の数々。しかし彼女は弓を引く。
鬼の赤子の無念を晴らすように。
今まさに我に返った冒険者。彼は先ほどまでインドールに支配されていた。だが仲間に助けられたのだ。そんな彼が最初に見たのは仲間の顔ではない。
妖艶な女。派手に装飾された弓道着のようなものに身を包む人間であった。
その正体は村人の女。彼女さえ、その変化には気づいていない。
気づく必要すらない。
心臓が尊しとなす。まさしく彼女は、鬼と成る。
心の共鳴現象。戦いの端っこでは、奇跡が起きていた。
「ここだ」
矢が射られる。スウィートランボーは魔物に右肩を治療させていた。そこに、矢が到達した。
「ぐはっ……!」
魔法の展開が遅れる。
村人の女の傷は回復していた。
ポイロの魔法陣上書きに始まり、ポイロの一撃によりアンニの奪還に繋がる。長々と続いた戦い。スウィートランボーは数人を一人で相手にしながらも、致命傷は貰わなかった。しかし意識外からの一撃。無力とみなしていたものが牙をむいた。彼女の一撃が二撃へと変わり、スウィートランボーの防御を崩す。
そこに現れた二人の戦士。そしてインドールの洗脳を解く方法を編み出された。
その努力が、ついに実を結ぶ。
数々の魔法が、スウィートランボーに直撃した。
「やったか?」
一人の冒険者がそう呟く。煙がスウィートランボーを隠していた。
姿が、見える。
現れたのは、ほくそ笑むスウィートランボーだった。
一瞬の脱力。この場にいた全員の足元に魔法陣が展開した。
その先にいるのは、大きく口を開けた魔物たち。落とし穴の要領で、全滅へ向かっていた。
「……!」
二人の人物が同時に飛び出す。まさにコンマ一の差。強者の時間。
ポイロ及びアンニは、同時にスウィートランボーを狙った。
それを見たファニーは、二人を浮かす。
(あ……)
状況を理解してからは速かった。ファニーの足首が別の場所に出る。
無苦はそれを何とか回避したが、ファニー、及び冒険者たち、村人の女の魔法陣を無効化するには、あまりにも距離がありすぎた。
跳んで何とかなる問題ではない。無垢の跳躍強化には、操作が難しくなるという弱点も背負っている。
つまり、無苦とポイロとアンニとスウィートランボー以外は死亡が確定したと言っても過言ではない。
そんなことお構いなしに、ポイロ、アンニの二人は攻撃に転じる。
尻尾が戦慄を奏でるように、スウィートランボーを狙った。
まさに瞬間の攻防。スウィートランボーはそれを防ぐべく魔法陣を出そうとする。だがどうせポイロが防ぐので、彼はもう一手打った。
生き物は、自分のサイズよりも、大きすぎる物を視認できない。
この大空を覆い隠すほどの巨大な魔法陣が展開された。
「……!」
負けない。奪われない。その感情が原動力となり、ポイロの体は動き続ける。
もうこれ以上、自分と同じ思いをする子を増やしたくないから。
『四次元ワクワクポケットさん』。それはキョウヤの異能力。シールを張ったものを自由に出し入れできる力だが、彼はこの力をすでに強化してある。
もう一つのシール。自分以外を指定し、取り出す権利を与える力。管理者シール。
服で隠れて見えないが、ポイロのおへそ辺りにそれは貼られていた。
そのシールが効力を発揮し、消えた。
「な……!」
斧が現れる。
この間にも、魔法陣は何度も開こうとしていた。スウィートランボーの右肩は相変わらず傷ついたまま、それを見たアンニはそこを狙おうとした。当然スウィートランボーはそれを阻止しようとする。
しかしそれはブラフであった。
アンニはスウィートランボーの左腕を二つの大きな手で掴み、折る。
もう二度とピンチに陥らない。ポイロの攻撃はついに、スウィートランボーに届き得た。
数々の戦士たちの力の集結。彼女の斧にそれが乗る。
「……」
ただ淡々と、ポイロはスウィートランボーの首から腰にかけての胴体に傷をつけた。
これまでにないほどの決定打。斜めに切られた体を見たスウィートランボーは、怒った。
「図に乗るなよ、ガキどもが」
不快感。それが跳ね上がる。
ポイロは、一瞬ながらスウィートランボーの声と表情に恐怖を覚えたのだ。
「ばーか」
だが彼女にはもう効かない。これが失敗すれば、もう死のうという、断固たる覚悟があったから。
もう、スウィートランボーごときには怖がらない。死というさらなる恐怖が、彼女の背中を押した。
アンニ・トートンルー。彼女は大きな腕に乗り、スウィートランボーの頭上に立った。そして尻尾を仮にも親であった者に刺しながら、落下した。
傷ついた体。そんな体を持つスウィートランボーでは、アンニの体重を支えられなかった。
アンニは尻尾を刺してから、スウィートランボー向けて膝から落ちた。それはスウィートランボーの頭に当たり、彼は落下した。
この状況になるまで、魔法陣を落とし穴のように使わなかったのには理由がある。それはひとえに、状況判断ができなくなるから。もしその先で暴れられたりしたらお手上げだ。
しかしやらざる終えなかった。
そうしないと、勝てないと感じたから。
「がはっ……!」
「やっと、地に落ちたな」
アンニは笑ってそう呟いた。
しかし現状は変わらず。ファニーや村人の女といった、魔法陣に落ちた者たちは戻らなかった。
「ひょひょ」
死に物狂いの必殺技が繰り出される。
「これは……」
それに一番、絶望したのはポイロであった。魔法に詳しいからこそわかる。新しく出て来た黒い魔法陣。大きな魔法陣は相変わらず存在しており、その二つの魔法陣が開こうとしていた。
「……ポイロ!」
止めてくれ、そう目で伝えるアンニだったが、今のポイロには無理だった。
無事だった無苦はどうにか止めようとするが、流石に届かない距離だった。なので狙いをスウィートランボーに絞る。
「……」
暇を持て余したインドールたちが無苦を襲った。
「まじかよ」
ポイロは思う。
(ここまでやって、まだ勝てないの……?)
怒りが、憎しみが、悲しみが、スーと引いて行くのを感じた。
敗北。ギリギリのところで、ポイロは……諦めなかった。
「キョウヤ様に、顔向けできません」
彼女は斧を投げる。それを危機一髪のところでスウィートランボーは避けた。
「……まだだ」
アンニは尻尾でその斧を止め、掴み、投げた。
「……!」
お互い疲労状態。スウィートランボーはそれを避けられなかった。
だから彼は、上着を捨てた。
その上着を目隠しのようにして避ける。この決断は、彼にとっても苦なものだった。その上着は、魔法を九十九パーセント遮断する効果を持つ魔道具であった。
アンニの尻尾に、斧が当たったことでヒビが入る。
「ひょひょ」
寸前のところでスウィートランボーが勝利した。
「お前さんはもう、娘ではない」
黒い魔法陣から、人型の何かが下りようとしていた。アンニの体に時限爆弾が仕掛けられる。
「この魔物は、初代魔王を支えた眷属の一人。狂乱の悪魔だ」
アンニの体が爆発する。この戦いは、スウィートランボーの勝利で幕を閉じる。
ああああああああああああああ! 夕奈(主人公)を書きたいよう! まさか十話以上主人公が登場しなくなるとは思わなかったです。恋しいなあああああああ。早く書きたいなあああああ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。




