111話 習うより慣れろ
今起きていること
・万葉木夕奈&ロニイ・ファーベントvsキラ・濱田
・鍛丸匡一郎&バルトス・シリカ&カナリアル・ボンダvsナイリー・ハニュ
・ヒョウリー・クワンド&エリオス・バンダ&駒衣千菜&村人の女&鬼の赤子&キョウヤ&ポイロ&冒険者たち&嘉村舞奈&カニマニ・アルル&ニッコリvsその他大勢の魔族、魔獣&メモリープラットvsスウィートランボー&ブクブク(メモリープラット)&パタパタ(雷鳥)【目的はアンニ・トートンルーの奪還】
・ラリゴ先生vs名も無き魔族
「スウィートランボー、あなたの血は何色なの?」
単純な疑問ではない。村人の女の怒りがそれを助長している。
「ババアの孫か。どうした? 怒ったか?」
「お前は……、楽しそうだな」
「ひょひょ」
村人の女の瞳の動きに合わせて動く黄色く発光する円が現れる。
「あんた……」
アンニはそう呟いた。ポイロは可笑しくなったのか、笑う。
「ポイロ……」
アンニは動けずにいた。ポイロを捕縛するために尻尾を巻き付けてある。動くためには、ポイロを引きずらなくちゃならない。
主戦力になるポイロを無駄に傷つけるのは、アンニでさえ気が引ける。
冒険者は黒い何か、名をインドールという。そいつらの相手をしていた。
鬼の赤子の意識は消え、実質村人の女一人である。
「聞こえるんだ。お前のドス黒く気持ちの悪い思考が!」
「戯言を抜かすか。そういうのはこれを避けれるようになってから言うべきじゃぞ」
「え……? あ、足が飛んでるー!? 違う、私が浮いてるんだ!」
「言ってる場合か!?……その程度とは失望したぞ」
「大丈夫。見返してみせる」
弓がどこからともなく現れる。望めば矢をも支給する。
村人の女は矢を引いた。だが、支障が出る。
「照準が、定まらない……?」
「何を言っとるんだ? そのためにお前を浮かした」
自在に浮遊する自身の体。それをコントロールするのは不可能であった。
「おりゃ!」
しかし彼女は矢を放つ。その向きは上を向いており、矢は力を失い落下した。
不幸なことに、矢は村人の女の方を向いて落下する。
数本の矢が、降り注いだ。
「ほれ見ろ」
「ババアめ」
村人の女は、無傷で地上に立っていた。
なぜか、矢は村人の女に当たらず、服の中にいた小さな魔獣を射っていた。
「お婆ちゃんは天才なの。私を殺すマネはしない」
「どういう理屈じゃい」
「言ってろ」
村人の女は矢を放つ。憎しみが乗ったその一撃。遠くでハゲの冒険者が鬼の赤子を抱きしめている。
「その程度。……!?」
スウィートランボーはその矢を避ける。そしてこう思った。
(ひやりとしたぞい。なんだあの矢は?)
「……まあいい。最善を尽くして、お前さんを潰そう」
幸か不幸か、スウィートランボーを殺し得る力を得た村人の女。だがそのせいで、彼を本気にさせた。
村人の女を囲むように、魔法陣が展開される。
ちらりとこちらを覗くのは、獰猛な魔獣だった。
まさにケルベロス。一秒も満たずにその魔法陣は開く。村人の女の感覚では、もう十秒は経っていた。
彼女が最初に思ったことは、『ああ死ぬのか』でもなく『怖い』でもなかった。ならば彼女は何を思ったか。
呆れるほどに凡人。
(……)
何も思わなかったのである。考える暇すらない。脳が思考を放棄した。
「お姉ちゃん……!」
刹那、彼女の脳は思考を取り戻した。
(ああ……、なんてかわいそうなのでしょう)
柄にもない言葉使いが、村人の女の脳を支配する。
ケルベロスを初めて見た彼女の感想は、「可哀想」だった。
心が繋がる。
「この力、またババアが何か……?」
矢に怒りが乗る。憎しみが乗る。
驚くべき速度。今までとは比べ物ならない速さの矢が、飛ぶ。
魔法陣は開き、村人の女を噛み殺そうとするケルベロスが現れる。当たり前だ、もう匂いを感じる距離にいる。
大きく口を開けたケルベロスを止めるべく、矢を放つ。……いいや違う。
何を思ったか彼女は、その矛先をスウィートランボーへ向けた。
普通なら、自身を守るためにケルベロスを射る。だが彼女は敵を間違えなかった。
その矢は、油断していたスウィートランボーの右肩を打ち抜く。
「……!?」
同時に、村人の女の脳天と右手に歯が当たる。一つの首が、彼女を食そうとした。
「いやあああああ」
女の子の叫び声が聞こえる。
そんなことお構いなしに時間は進む。村人の女を噛もうとしたケルベロスは、一瞬たじろいた。
「いで!」
「おい、精度悪すぎだろ!」
二人の人物が現れる。奇跡的に、その二人はケルベロスをクッションにして着地した。
触れていた歯が擦り傷を作る。村人の女は右手を負傷した。
その痛みで現実に戻される。村人の女は青ざめた。
「怖かったー!」
そんなことお構いなしに、二人の降って来た人物は立ち上がる。
「どうしよう、変なところに来ちゃった」
「……大変なことになってんな」
男は、歩く。
そしてポイロの頭を触った。
「……あれ? わたしは今まで何を?」
その光景を見たスウィートランボーは驚き、右肩を押さえながらこう訊く。
「誰だ?」
降って来た二人の内、女の方はこう答える。
「やっほー! 私はファニー・トロイポン。よろし」
「お前ではない」
「そっか……」
しゅんっと肩を落とすファニー。降って来た二人の内、男の方はこう答えた。
「無苦。桐菜無苦」
「そうかお前が……」
本来、勇者軍は四人一組で動く。今、城下町を襲撃している人物は四人。キラ・濱田、クイナ・イースター、ナイリー・ハニュ、ルリア・ホーガン。ルリア・ホーガンは二番隊隊長であるため除外。
ならば、三番隊のもう一人の隊員は?
それが彼である。
「なぜ勇者の仲間であるお前がここに?」
「それは……、こっちが訊きたい」
居眠りしてしまい、乗り遅れた男。このままでは怒られると思い城下町へ急ぐが、泥船に乗り合わせたのが運の尽き。
何をやってもうまくいかないこの男。
だが彼には、モットーがある。
「だけど、お前は倒す」
モットーとは、信条ともいうこの言葉の意味は、平たく言えば人生での守り事。ルールを作り、意識する。
彼には、それがある。
「人数が多い方の味方につく。で、よりたくさんの人に褒められる。それがオレのモットーだ」
呆れるほどの承認欲求。彼にとっては、正義も悪も、養分なのである。
ここにいた一同は、同時にこう言った。
「いや、なんだよそれ」
その裏側で、完璧に意識を取り戻すポイロがいた。それにより、アンニも戦線復帰する。
桐菜無苦。彼は敵か味方か。それは、この場にいる誰もわからない。いや、ひとりだけ、本人だけは、どうやら理解しているようだ。
無苦は、何か裏がありそうな笑みを浮かべる。
一方、ファニーは冒険者たちに纏わりつくインドールを剥がそうとしていた。




