108話 女心と秋の空
今起きていること
・万葉木夕奈&ロニイ・ファーベントvsキラ・濱田
・鍛丸匡一郎&バルトス・シリカ&カナリアル・ボンダvsナイリー・ハニュ
・ヒョウリー・クワンド&エリオス・バンダ&駒衣千菜&村人の女&鬼の赤子&キョウヤ&ポイロ&冒険者たち&嘉村舞奈&カニマニ・アルル&ニッコリvsその他大勢の魔族、魔獣&メモリープラットvsスウィートランボー&ブクブク(メモリープラット)&パタパタ(雷鳥)【目的はアンニ・トートンルーの奪還】
・ラリゴ先生vs名も無き魔族
「いってえ……」
「文句言わないでください」
冒険者の救護をしていた駒衣千菜は、本能の赴くままに動く魔物を銃で撃ちつつ、弱音を吐くエリオス・バンダに呆れていた。
先刻、エリオスは「やっぱりオレも」ということで戦場に赴いた。しかし傷が悪化し、動けないところに駒衣千菜が現れたのだ。
彼女は無表情で包帯を巻く。
「……」
「なんだ?」
駒衣は静かにうねった。
「うー」
彼女はこう思う。
(このままでは、クマ先生との約束を破ってしまいます)
冒険者たちを無視していくべきかとも考えるが、それはできなかった。
「ははーん。なるほどね」
「……」
そこに、ある人物が現れる。
駒衣、エリオスは同時に首を傾げ、困惑する。だが、冒険者たちは目を輝かせていた。
「……おばちゃん!」
「ユーナも戦ってるんだ。うちが動かずどうする」
バイトリーダーのおばちゃんは思う。
(私は、私の思う通りに動いてやる)
ニコリと笑うリーダーの後ろには、数々の医者がいた。
「あははー。僕の専門は魔物なんですがね」
シープロックという羊のような魔物の傷を治した医師がそう言う。リーダーはこう返した。
「魔物もいっぱい傷ついてるでしょ」
「ええー!? 僕一人でこの量診断するんですか?」
「できないの?」
「できます」
「ならいい」
そしてリーダーは医師たちに何かを言った。それに呼応し、医師たちは診断に入る。
戦場に慣れているわけではない。だが彼ら彼女らは、プロである。
どんな場所だろうと命を零さない。
「綺麗な応急処置だ。いったい誰が?」
一人の医師がそう言った。だが、誰も答えない。
「……もういないわよ」
それもそのはず、彼女はもういない。
リーダーは言った。
「なんか、用事があるんだって」
駒衣千菜は、エリオスを連れて大きなメモリープラットのもとへ向かう。
「いてえ……」
「痛いのなら休んでいてください。不愉快です」
「悪いな。でも声に出るんだ、いてえ」
「……ふざけていますか?」
エリオスはかぶりを振り、言った。
「いてえ」
ただ歩く音だけが、響く。
「ひょー、はっ!」
一方その頃、鬼の赤子は警戒心を振りまいていた。
「……君、動いちゃダメ」
村人の女は鬼の赤子を抱きしめる。冒険者の大半は不快感により自身を傷つけ始めている。
実質、ポイロとスウィートランボーとの一騎打ち状態となっていた。
「ひょひょ。やるかえ?」
「当然。こちらが有利なのですから」
ポイロも当然、不快感というものにより弱体化しているが、それはスウィートランボーも同じであった。
ポイロの特技、魔法の操作。それは相手が発動した魔法ですら、なかったことにできる。
ゆえに、彼は得意の召喚魔法を使えない。
「……そのように見えるか?」
「……!」
否である。召喚魔法は使える。だが防がれる。
しかし、間髪挟まず無数の召喚を繰り返したらどうなるだろうか。
「……お嬢さんについてこれるかな?」
根競べである。
「ひょひょ!」
「……っ!」
無数の魔法陣が現れ消えるの繰り返し。その間にも、当人たちは戦っていた。
ポイロは斧を持ち合わせていないが、身体能力の差でスウィートランボーを圧倒する。空中に浮くスウィートランボー向けて跳び、質量を持つ魔法陣を蹴って攻撃を繰り出す。
だがそれは長続きしなかった。
小さな鼠のような魔物が現れる。
「ひょひょ。もう終わりかえ?」
「……いえ!」
集中力の低下か、魔法陣から一つ、二つと魔物が現れる。
「少しでも、貢献したい!」
「女が頑張ってるのに、オレが頑張らねえのは違うよな!」
魔物に攻撃する村人の女とハゲの冒険者。鼠と言っても、この魔物の身長は村人の女の腰辺りまである。
ハゲの冒険者は無事に返り討ちにすることができたが、村人の女はピンチに陥っていた。
「まずい」
「あちょーう!」
「……」
鼠を何かの拳法で吹き飛ばす鬼の赤子。それを見た村人の女はこう呟いた。
「あんた何者……?」
瀕死の鼠は、今開いた魔法陣の中へ逃げて行った。
ポイロはズボンのベルトを外し、スウィートランボーの首を絞めようとした。だがベルトを掴まれ、失敗に終わる。
「何をしている? 下着が見えてしまうぞ?」
「太ってきてるんで、問題ありません!」
「ひょひょ……」
太っている。その一言がスウィートランボーの負の記憶を呼び覚ます。
あれはそう、太っている嫁に離婚を宣言され……。
「ごふっ!」
「やっと、いいのが入りました」
顔面を殴られたスウィートランボーはよろけ、落下しそうになる。だが彼は体勢を整え、それを回避する。
刹那、スウィートランボーは地に降りることとなる。
「……麻酔が弱かったか?」
アンニ・トートンルーの目覚め。彼女は目を覚ましたと同時に、状況を瞬時に理解し暴れた。
そして落下するアンニ。大きな手がその勢いを殺し、安全に落下した。
微笑むポイロ。
尻尾でロープを切断し自由になったアンニはこう言う。
「……痛みを感じにくい。痺れてるのか? なんか、気持ち悪いぞ」
腹を立てたスウィートランボーは、アンニ・トートンルーの捕獲のために一度地に降りた。
「お団子、帰るぞ」
「やだ。オレは誰にも殴られない、自由な生活が欲しかったんだよ」
「またオレと言う……。お前さんは女だろう?」
「だからその決めつけが嫌いなんだよ」
アンニはポイロを見て言った。
「ありがとう。あと、手伝ってくれ」
ポイロ、アンニが横に並ぶ。
「勿論」
心身を削り、立ち上がる村人の女。彼女も横に並んだ。
ここに、三人の女性が並ぶ。
火蓋を切ったのは、アンニだった。
「本人でもない偽物の体のあんたなんかには、もう負けない」
「魔王軍の名にかけて、あなたを止めます」
「魔王ぐ……魔王軍!? え、魔王軍!?……まあいいや。私のお婆ちゃんを返せ!」
啖呵を切る三人の横で、男どもは親指を立てていた。
「がんばれよ、お前ら」
「きゃきゃっ」
鬼の赤子は冒険者の頭を叩いて、ハゲの冒険者は肩を持って揺さぶる。そうやって仲間の不快感を取り除いていた。
もう、女性三人に不快感はない。鬼の赤子に効かなかったのは、恐怖心を持っていなかったから。それに気づいたハゲの冒険者は、仲間を救うために動く。
心をリンクさせろ。
村人の女の目の動きに連動して動く円が現れる。
それを見たスウィートランボーは、笑った。
「ひょひょっ。あのババア、仕掛けてあったな?」
空間が歪み、狭間から弓と矢が現れる。
「いつもお婆ちゃんが言ってたんだ。本当の力は己の中にあるって」
「ひょひょ」
村人の女は一度限りの魔法を、切符を切るように使用した。
「お婆ちゃん、力を借りるよ」
「よっしゃ!」
喜ぶアンニ。ポイロは手袋のしわを勢いよく直す。村人の女は弓を構えた。
「さあ、やったろうぜ!」
アンニ・トートンルーの一言が伝播し、二人も動く。この間も、魔法陣が現れ消え続けていた。
キョウヤ、ポイロ、村人の女の足止めは功を奏し、この盤面をなす。第一目標であるアンニ・トートンルーの奪還はひとまず、成功した。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます! スプラ3が楽しくて執筆が遅れました!すみません!




