106話 今昔の感
今起きていること
・万葉木夕奈&ロニイ・ファーベントvsキラ・濱田
・紅木葉vsクイナ・イースター
・鍛丸匡一郎&バルトス・シリカ&カナリアル・ボンダvsナイリー・ハニュ
・ヒョウリー・クワンド&エリオス・バンダ&駒衣千菜&村人の女&鬼の赤子&キョウヤ&ポイロ&冒険者たち&嘉村舞奈&カニマニ・アルル&ニッコリvsその他大勢の魔族、魔獣&メモリープラットvsスウィートランボー&ブクブク(メモリープラット)&パタパタ(雷鳥)【目的はアンニ・トートンルーの奪還】
・ラリゴ先生vs名も無き魔族
一方その頃、クイナ・イースターは辟易していた。
(あり得ない)
紅木葉は操られた冒険者たちを優しく叩く。恐怖から生み出した炎も吸収する。
まさに強敵。クイナの目にはそう映っていた。
(私の力は相手の恐怖のイメージを実体化させる力。それを何度もこの女に使っている。なのに、効かない)
「な……な、なんで?」
「はあ?」
木葉はクイナを睨むように見た。ズキッと『炎熱Σ柱波』が当たった部位が痛む。クイナはそこを摩りながらこう思った。
(この女には恐怖心がない? いるんだよ、ときどき、そんな奴が)
否である。クイナ・イースターの考えは間違っている。紅木葉、彼女には確かに恐怖心はある。そしてそれはクイナの能力によって効果を示している。
それが表面化していないだけで。
「よくわかんないけどさ、あなたは人を見下しすぎなの」
「う、うるさい……です!」
紅木葉が最も恐れる物。それは裏切り。今この場に仲間がいたとしたら、彼女は苦戦を強いられただろう。だが木葉は力を手に入れた。
ゆえに、クイナの力は実質効かない状態となる。
「炎告……愛奈落!」
広げた左手に、木槌に見立てた右手を落とす。
炎が螺旋を描き木葉の背中に付く。ジェットパックを付けたかのように、木葉は飛んだ。
そしてクイナめがけて空中から踵落としを向ける。もちろん、落下のスピードも炎を噴射することにより上がっている。
それを見たクイナは目を見開いた。
鼓動が呼応する。クイナは能力の矛先を自分に向けた。
刹那、クイナの恐怖が実体化する。
切り札とも呼べる技を出したこの二人。それぞれに思惑があった。
二週間前。万葉木夕奈が鍛丸匡一郎に剣という名のなまくらの製作依頼を出していた頃。スライムの森に接している村ではちょっとした事件が起きていた。
「おいマニュウ、オレのナイフがねえぞ」
「シュラ……それはまずいよ」
青ざめるマニュウとシュラ。彼らはナイフが奪われ、村人が殺害される可能性を危惧していた。だがそんなことはなく……。
「ちょっと木葉!」
「紅木葉! オレのナイフを無断で持ち出すな!」
「ひえー! ごめん、ごめん」
シュラは木葉の服を掴み怒鳴った。
「謝って済む問題じゃねえ。それになんだこの理由は」
「……理由?」
「ああ、ナイフを奪った理由だ」
木葉は草刈りをしていた自分を思い出す。
「あー」
「オレの愛刀カナキリ丸を貶したなこのやろう!」
泣きながらナイフを磨くシュラはそう言い捨てた。それを見た木葉は謝る。
「ごめん」
「……ま、気にすんな。血が流れてなくてよかった」
相変わらずそっぽを向いてナイフの手入れをするシュラ。それを見たマニュウは言った。
「シュラは毎日言ってるよ、木葉ちゃんのおかげで森の修復作業がうまくいってるって」
「うるせえよ、それにもともとはコイツのせいだろうが」
「あーん? それは本人の前で言っちゃいけないでしょう!」
「そうだな!」
「そうなんです」
がやがやと口論を続ける二人を見ながら、木葉は微笑んだ。
そんな木葉は二人の中に入る。
「すみませんでした。だからさ、二人とも落ち着いて」
「……」
「……」
そっぽを向く二人。マニュウとシュラは同時に振り返り謝った。
「すまん」
「ごめんなさい」
そして手を叩く木葉。
「よくできました」
それに腹を立てたシュラはこう言った。
「お前が元凶だろうが!……まあ、感謝してるけどよ」
「あら? シュラ、今なんて言った?」
ニヤニヤしながらそう言う木葉。そんな木葉にシュラは投げ捨てるように言った。
「お前の炎が修復に役立ってるって言ったんだよ!」
「ふふ。ありがとう」
「おう」
笑う木葉。ニヤニヤするマニュウ。恥ずかしそうに不機嫌になるシュラ。
そんな三人は、次の話題へ行った。
「そういや……」
草原の上で昼食を取りながら、こんな会話を始める。
「紅木葉は炎の操作力が上がったんだし、必殺技でも作ればいいんじゃねえのか? ってマニュウが言ってたぞ」
マニュウはパンを一齧りし、こう言った。
「懐かしい。そんなことも言ってたね」
「おう」
木葉へマニュウは口を開く。
「木葉、必殺技とかどう? わたしのビーストトーレントみたいな」
木葉はおにぎりを飲み込み言った。
「考えたわよ。『炎熱Σ柱波』とか」
「ちなみにそれは……」
「炎熱柱波の進化系」
「なるほど」
そこにシュラが割って入ってくる。
「他のはねえのか?」
「他かあ……」
木葉の脳裏に過る夕奈の戦い方。彼女はふと、微笑んだ。
「あるよ。今、思いついた」
「なんだそりゃ」
笑うシュラ。そんな経緯がある技を、木葉は打つ。直接的には森の修復には使えない技であるため、暇な時間に練習したこの技。それが今、炸裂する。
しかしそれを防がないほど、クイナは弱くない。
「お腹すいた……」
この世界に来たばかりの頃。クイナ・イースターはまず食糧問題に直面していた。
何もない砂漠の上に召喚されたクイナが持ち合わせているものは、能力と召喚された時に来ていた服だけだった。
自殺の直前に召喚されたことも相まって、クイナには生きるという欲望が欠如していた。だがここは異世界。イジメる嫌な奴もいなければ、テストも、門限も、ありとあらゆる嫌な要素がここにはない。
来たばかりの頃は「なんで砂漠ー!?」と元気よく言っていたが、今では言葉を発しようとも思わない。
死だけが、自分の隣にいた。
そんな状況で、クイナはすくわれたのだ。
「ん?」
血まみれで座っている女。彼女が食べていたのは、野生の何かだった。
「あ、うう……」
「お前、腹減ってんの?」
彼女、いや彼は笑う。彼の名前はナイリー・ハニュ。自身を男だと自称する者である。
クイナはうんうんと頷き、何かを受け取り食した。
「あ、ありがとう」
「ほれ、水」
クイナは渡されたものを口に運んだ。自然と涙を流す。
「美味いか?」
「うん、おいしい」
「ははっ。そうか、それはよかった」
何故、ハニュが血まみれなのかなど、クイナにとってはどうでもいい事だった。
それからクイナは、ハニュと共に行動することとなる。
それから一年近く経った頃、身を置いていた家の中で、ふとハニュがこんなことを訊いた。
「そういやクイナの能力、訊いてなかったな」
ハニュがそう言うと、クイナはハニュが能力のことを話したくないと言っていたことを思い出した。
だが、そんなこと関係ない。
クイナは話した。
「そっか、言ってなかったね。私の力は他人の恐怖を実体化させる力」
引かれるかもしれない。そう思うクイナ。
(嫌われたら出て行こう。もう充分、幸せになれ……)
「はははっ!」
「……!?」
突然笑うハニュに驚いたクイナはこう訊く。
「笑ってるの!?」
「ああ、だって、クイナの性格にぴったりだったから」
「なっ。私の性格が悪いと言いたいの!?」
「はははっ。わりい、わりい。まあ、オレはピッタリだと思うぜ」
「もう!」
ぷんぷん怒るクイナに、ハニュはこんなことを言う。
「それさ、自分には使えないのか?」
「……え?」
思いつきもしなかったその提案に、クイナは思考を停止させてしまう。それと同時に、近所のおばあさんが訪ねて来た。
「あ、ダリばあさん」
「こんにちわあ。あらあら、クイナちゃんもいるのねえ」
「え、あ、あはい! います……」
照れるクイナを見て、ハニュは笑った。
「ダリばあさん、すまねえ、クイナ人見知りなんだ」
「ふふふ。知ってる」
そして二人は笑う。クイナは不服そうにしていた。
それからしばらく経ち、ナイリー・ハニュが大樹に出会う。
そんな思い出の技を、クイナ・イースターは使用した。
「……!」
自身の恐怖が反映される。それに呼応し、巨大なぬいぐるみが現れた。
抗えない巨大な力。それがクイナの恐怖。ぬいぐるみを見たクイナは、舌打ちを鳴らした。
このぬいぐるみの容姿は、幼いころクイナをイジメていた女が持っていたぬいぐるみに似ている。
だが皮肉なことに、それが紅木葉の攻撃から身を守る手段となった。その間に、クイナは冒険者たちを操作する。
他の誰かから恐怖を取り出そうとするが、残念なことに民衆の避難は完了していた。
冒険者たちが木葉の攻撃を防ぐためにぬいぐるみの上に乗る。
これは木葉にとって最悪の展開である。集中力をそっちに回す余裕がなく、炎で優しく弾くこともできない。だから、仕方なく、木葉は攻撃を中断した。
クイナは頷く。
「なっ、なるほど。こうしたらいいのか……」
「あなた本当に性格悪すぎ。女子高にいた私が言うんだから間違いない」
クイナはそんな言葉お構いなしに冒険者たちを木葉のもとへ差し向ける。木葉はそれをいなす。その途中に、気づいてしまった。
(まって、この人たちがいる限り私勝てないじゃん)
木葉はごめんなさいと思いながら冒険者たちを攻撃しようとした。だが攻撃は大きなぬいぐるみに防がれる。
不幸が続く。今まで寝ていた傭兵が目覚めてしまったのだ。
彼は炎を怖く思っており、家が燃えたことにより気絶してしまっていた。
クイナはその男に能力を使おうとするが、いったん止まって考えた。
(この人は確か、炎を怖がっていた。こいつに炎では勝てない。なら……)
クイナは気絶から目覚めたばかりの傭兵の太ももの上に座った。面と向かうように。
そして男の腰に隠してあったナイフを取り出し脅す。
「殺す」
刹那、男の恐怖の対象が炎からナイフに変わる。一時的にだか、人は思い出よりも目の前の恐怖を大きく見がちだ。
空中に刃物が浮かぶ。それはクイナの思い通りに動き、木葉を刺殺そうとした。
すでに冒険者から離れているクイナ。そして頬を切られて悶絶する男の傭兵。
お互い逼迫状態。
ゆえにクイナは想定外のことに対処できず攻撃をくらった。
「ぎっひゃひゃ」
右手と左手を鏝へと変えたギマリ・ガンガンが現れる。鏝とは、セメントなどを平らに広げるアレである。ギマリがなぜ鏝にしているのかは謎のままだ。
そんなギマリに木葉は言った。
「クルルちゃんの友達! そいつとは私が決着をつける。だからこのぬいぐるみをお願い!」
ギマリは大切にしてきたコジカが操られていたということを頭の中に巡らせたが、そっと胸の中にしまった。
「そうだな。お前が決めろ! 俺様を失望させんなよ!」
「ありがとう! 流石はクルルちゃんの友達だね!」
クルルを倒したということに憤りを思えていたギマリだが、自分よりも長い付き合いの女が自分よりもキレてないわけがない、そう思うギマリもいた。
だからこそ出番を譲る。
ギマリと木葉が入れ替わる。その交差するところで、ギマリは言った。
「俺様の名はギマリ・ガンガン」
交差し終え、お互い足をつける。風の音で聞き取れなかった部分があり一瞬困惑する木葉だが、ギマリほにゃららということは聞き取れたので名乗ったことを理解する。
「ギマリ君。私は木葉。譲ってくれて、ありがとう」
「コノハ! クルルの仇、頼んだぜ!」
微笑む二人だったが、木葉の表情は見る見るうちに青ざめた。
「仇って、クルルちゃん死んじゃったの!?」
「そんなわけねえだろ! 戦いに集中しろ!」
クイナ・イースター。彼女はそんな風に話す二人を邪魔できずにいた。だがこちらを向いた木葉の顔を見て考えを変える。
「あなた……こ、怖い」
「そう? あなたが勝手に怖がってるだけでしょ」
意味が分からない、同じ理由だろ、その通りだよ、クイナはそう思い、思考を放棄した。
空中に刃物を並べる。カッターの刃のようなものが木葉を襲った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。予定では次回決着がつきます。




