105話 大敵と見て恐れず小敵と見て侮らず
「なんだ……、このかわいい生物は!?」
「ちょやー! ふっふっふ、わちゃー!」
シャドーボクシングのようなものをする鬼の赤子。それを見た冒険者の反応は十人十色だった。
「ひょっひょっひょ」
スウィートランボーは鬼の赤子を見つめた。まるで、品定めするかのように。
青ざめる鬼の赤子は村人の女の足にしがみついた。
「……?」
はてなを浮かべる村人の女の横にいるポイロは、スウィートランボーに宣戦布告をした。残念なことに、斧は持ち合わせていない。
「アンニ・トートンルーの身柄を引き渡してもらいます」
「ひょひょ。交渉が下手だな、キョウヤの女」
「キョッ、キョウヤ様の……ごくり」
「ちょっと!? 何、頬を赤らめてるんですか!?」
村人の女はポイロにそう伝える。
「はっ。私としたことが……。失礼しました。そうです、私はキョウヤ様の女です」
凛々しい顔でそう言うポイロ。村人の女は頷いた。
「うんうん。……って、ええー!? そうなの!?……彼も隅に置けないな」
「ひょひょ。なんじゃこいつら」
沈黙する交渉。これを動かしたのはハゲの冒険者だった。
「つまり、そのアンニって女は……」
「はい。スウィートランボーが抱えている女性です」
ポイロがそう伝え、冒険者たちにも流れた。
「だそうだ。てめえら、あの女の子の救助をするぞ!」
「ひょひょ。強引じゃなあ」
スウィートランボーの右から魔法陣が現れる。
「召喚魔法」
くいっと、ポイロはスウィートランボーへ向けた人差し指を動かした。
魔法陣が消滅する。それを見たスウィートランボーはこう呟いた。
「魔法が上書きされた……?」
怒りがひしひしと伝わる。スウィートランボーはポイロを睨んだ。
「魔人か、お前」
不快感が広がる。村人の女は吐き気を覚え膝を落とした。それを心配そうに見つめる鬼の赤子。鬼の赤子は村人の女の手を握った。
冒険者たちも同様に、膝をつく。
ポイロにもそれは効いていたが、自身の手を傷つけて耐えていた。
彼女は魔人ではない。なりそこないである。卓越した魔法のコントロールは、同じ魔人の成りそこないであるロニイ・ファーベントをも超える。
だが、彼女は魔法を使えない。あくまで、相手が使った魔法をいじることしかできない。これは、彼女の地元に関係している。
「……そうです、私は魔人です」
なりそこない。そんなものは知らない。交渉においては嘘をも利用する。ポイロはこう続けた。
「今すぐアンニちゃんを解放すれば、追わないことを約束する」
「ひょひょ、キョウヤもだが、何故お団子にそこまで執着する? そこまで価値のある女か?」
「関わってしまったんです」
「ひょひょ」
ふいに出たその言葉を聞いたスウィートランボーは、我慢できずにほくそ笑んでしまう。
「だから、ここへ赴いたのです」
「やはりお前はキョウヤの女だなあ。思想が影響されている」
「はい」
ポイロ。彼女にとってキョウヤとは、意中の相手である。
「私はキョウヤ様を……アイスています」
愛しています。その一言が言えないポイロは赤面した。
「そう、アイスを食べます。とんとんっと二つ乗せて、ハイお待ちどう……。ごっほん。失礼しました」
「要件をまとめてこい」
言葉に詰まるポイロを気にかけてか、村人の女は不快感に立ち向かう。
「ありがとう! 待っててくれるんだ」
村人の女はつらい顔を浮かべながらも、立ち上がる。
「あなた良いお爺さんだね」
「ひょひょ。誰じゃお前は?」
「私は……」
村人の女は名乗り、啖呵を切った。
「いい意気込みじゃ。気に入ったぞい」
「へへん。じゃあお婆ちゃんを返せこの野郎」
一方その頃、強者を集める二匹の魔獣は魔王軍幹部キョウヤと戦闘していた。
「気づいただん! おいどんがここにいても意味ないだん」
事実、クワンドの使う魔法では傷一つつかない。もっとも、キョウヤの使う魔法ですら致命傷にはならない。
これは、異常である。
「あのジジイ、どんな教育してんだ……!」
キョウヤはそう呟いた後、クワンドにこう伝える。
「クワンド君、いてくれ。君の攻撃でこいつらの意識が分散している。君は必要だ!」
目を輝かせるクワンド。
「わかっただん!」
そうは言っても、キョウヤは動かないこの状況に憤りを感じていた。
(一人でいい。あと一人、オレと同じくらい攻撃力を持つ奴がいれば……!)
吠えるメモリープラット。雷鳥が呼応し、雷が降り注ぐ。
「上位まほ。……は?」
両手で雷を掴むメモリープラットは、それをキョウヤへ向けて投げた。
「……っ! どういう原理だよ!」
キョウヤは手を前に向ける。
「『四次元ワクワクポケットさん』」
体一つ覆えるほどのゴムが現れた。キョウヤはそれで雷を防ぐ。
常識外れの一撃。刹那、大きなメモリープラットは吠えた。
「なんだ……?」
産声が上がる。これは、キョウヤにとって誤算であった。
「性別の見極め方とか、知るかよ……!」
不幸なことに、敵対していたメモリープラットはメスであった。
今までの攻防での耐性を持ったメモリープラットが生まれる。それに伴い、親であるメモリープラットは鬱状態に入る。自身と同じ記憶をもった子を生む影響か、それは人間を超える。まさに産後鬱。残念ながら、それを支えてくれる男はいない。
そんな敵を見ながら、キョウヤは思った。
(……たのむ! 上位魔法効いてくれ!)
ニヤリと笑うメモリープラット。
「な……!」
「気持ち悪いだん!」
メモリープラットはお見せできないような行為をし始める。
「同族が何で……?」
キョウヤは目にする。メモリープラットと戦う冒険者たちを。
(いつの間にここまで移動した?)
そんなことお構いなしに、メモリープラットは肥大化する。
キョウヤは冷や汗を流し、こう呟いた。
「妊娠しやがった」
不幸が重なる。メモリープラットと戦っていた冒険者たちは、戦いながら移動していた。双方、近づいていたのだ。
「……クワンド君! 大技で決めるぞ!」
焦るキョウヤはそう命令し、詠唱を始めた。
「上位魔法。リンゴの誘惑」
「ブリザーズメモリー!」
リンゴが現れる。メモリープラットはそれを食べた。それにより、メモリープラットの体調が良好になる。すなわち体力の全回復。
ニヤリと笑ったメモリープラットは、突然膝を落とす。
全身の力が抜けたのだ。
「誘惑に負けたな」
それと同時に、メモリープラットの体内で爆発のようなものが起きた。
「耐えるか。すごいな……!」
「まだだん!」
今まで使用してきた氷が息を吹き返し、メモリープラットを襲う。だが寸前のところで雷鳥が庇った。
「上位。……かはっ!」
キョウヤが使用している肉体は魔族であるため、体内の魔素を使用する。魔人であるためその回復は常人よりも早いが、上位魔法の連発によりそれは底をついた。
「ありえないだん」
自信を持っていたがゆえに、この魔法を使用してこなかったクワンド。これが通用しなかったら、嫌だ。その一心だった。
残念。雷鳥は雷雲から飛んできた雷をくらい、傷を治療した。
絶望がクワンドを飲み込む。キョウヤは『四次元ワクワクポケットさん』を使用しようとする。
刹那、闘気を感じた。
ニヤリと笑うメモリープラット。凛々しい顔で羽搏く雷鳥。
彼らは、予想だにしない攻撃を受けた。
メモリープラットはよろめき、雷鳥は地に落ちる。
ここに、三人の強者が現れた。
「にひひ! 手、いてえ! こいつかてえ」
「援護に参りました。このデカブツは私にお任せを」
絶望するクワンドの肩をがっしり掴む魔族。彼は言った。
「おいおい。諦めるな、ヒョウリー・クワンド。問題ない、拙者たちは勝つ」
「あなたは……?」
羽を動かしながら、彼は言った。
「おいおい、知らないのか? これでも地位は高い方なんだけどなあ。……カニマニ・アルル。魔族として、もうこれ以上、仲間が殺されるのを見過ごせはしない」
カニマニ・アルル、草で作られたズボンを履いている小柄な褐色少年が攻撃した雷鳥は怒ったように吠えた。
同様に、嘉村舞奈に殴られたメモリープラットも吠える。
キョウヤは微笑み、言った。
「ありがとう、助かる! クワンド君、まだ諦めるなよ!」
涙をぬぐうクワンド。彼はカニマニ・アルルの手を借りて立ち上がり、こう言った。
「諦めないだん!」
「にひひ」と笑う褐色少年。彼にアルルは言った。
「ニッコリさん。契約内容から外れますが、手伝ってくれますか?」
ニッコリ。それは彼のコードネームである。
ニッコリはこう返した。
「にひひ。キョウヤがいるから仕方がない」
魔王軍幹部キョウヤは、それを無視する。
「にひひっ。相変わらずだなあ」
「来ます! こっちに集中してください!」
嘉村舞奈の一言が伝播し、キョウヤ、ヒョウリー・クワンド、カニマニ・アルル、ニッコリ、は戦闘態勢に入る。
キョウヤはウキウキしながら、こう言った。
「これなら戦況を変えられる」
自身の拳を手の平に当てる。そんなキョウヤは遠くを見つめながら思った。
(ポイロ、そっちは任せた……!)
「ひょひょひょ」という笑い声と共に、別の場所でも戦いが激化する――。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます! あと来ていないのはエリオスと千菜と謎の男ですね! もしかしたらまだ増えるかもしれません! 応援よろしくお願いします!
今起きていること
・万葉木夕奈&ロニイ・ファーベントvsキラ・濱田
・紅木葉vsクイナ・イースター
・鍛丸匡一郎&バルトス・シリカ&カナリアル・ボンダvsナイリー・ハニュ
・ヒョウリー・クワンド&エリオス・バンダ&駒衣千菜&村人の女&鬼の赤子&キョウヤ&ポイロ&冒険者たち&嘉村舞奈&カニマニ・アルル&ニッコリvsその他大勢の魔族、魔獣&メモリープラットvsスウィートランボー&ブクブク(メモリープラット)&パタパタ(雷鳥)【目的はアンニ・トートンルーの奪還】
・ラリゴ先生vs名も無き魔族




