104話 鵜の真似する烏
今起きていること
・万葉木夕奈&ロニイ・ファーベントvsキラ・濱田
・紅木葉vsクイナ・イースター
・鍛丸匡一郎&バルトス・シリカ&カナリアル・ボンダvsナイリー・ハニュ
・冒険者たちvsその他大勢の魔族、魔獣&メモリープラット
・ヒョウリー・クワンド&エリオス・バンダ&駒衣千菜&村人の女&キョウヤ&ポイロ&冒険者たちvsスウィートランボー&ブクブク(メモリープラット)&パタパタ(雷鳥)【目的はアンニ・トートンルーの奪還】
・ラリゴ先生vs名も無き魔族
姉とは何だろうか? ルリア・ホーガンはこう考えている。姉とは、妹たちの目標となるもの。
「クスクス。私の勝ち」
そんなものは建前に過ぎない。ルリア・ホーガンは自身の嗜虐性に気づいていないだけなのだ。
「ひぐっ。うぐっ。ごめんなさい、許してください」
アリア・ホーガンはぽろぽろ涙を流しながらそんな言葉をこぼした。ボロボロになったドレスは、もう目も当てられない。これでも姉の威厳はあるのか、ルリアはアリアに服を渡した。
「……空間魔法。私が作り上げた魔法だよ」
そう、ルリアはアリアに渡した服を何もない場所から取り出した。彼女はこの魔法を研究していたアーサ=アーツ・ホーガンからデータを奪い、この魔法を完成させたのである。
アリアは泣きながら服を脱ぎ、着替えた。
ルリアは光の壁でそれを隠す。
「ホーリーベール」
数分は経っただろうか。すっかり意気消沈したアリアがそこにはいた。彼女は今も涙を流しそうな表情でこう呟く。
「……ゆうな」
「アリア、ありがとう」
ルリアはアリアの頭に触れる。圧倒的な力の前に屈したアリアは、そっと心の中で泣いた。
(……助けて、ください)
真っ黒な景色が広がる。残念ながら、救いはない。
「……」
万葉木夕奈。彼女はキラ・濱田の攻撃を受け流した後に、城を一瞥した。
(胸騒ぎがする)
そんなことを思いながら、戦いに本腰を入れる。
一方その頃、ヒーローを自称する男、鍛丸匡一郎は腕力にものを言わせていた。
「おら!」
「おうおうおう!」
ナイリー・ハニュはその攻撃を楽しそうに受ける。彼女はそんな男なのだ。
もう、鍛丸は彼女の性別を気にしない。大きな胸も目に入らない。
すでに、拳を交える関係になっていた。
「ふん!」
靴につけた俊足の効果を利用し、ハニュの横に移動する。そして拳をハニュの腕にぶつけた。
ハニュは防御を取る。
この戦いは、拮抗しているように見えた。だがすぐにハニュは適応し、鍛丸にカウンターをくらわせる。
拳を受け流し、体勢が崩れたところに攻撃を入れる。ハニュの膝が、鍛丸の腹に入った。
「……お!」
それと同時に槍が飛んでくる。ハニュはそれを避けた。
「大丈夫かい? 匡一郎」
「助かった!」
鍛丸は急いで隙をなくす。そして感謝した。ナイリー・ハニュはにっこり笑う。
「楽しい。もう、いいよな」
もともとの予定であった万葉木大樹の指名手配を撤廃させるというものは、ハニュのなかで消える。
(大丈夫、お姫様が何とかするって言ってたんだ。……だからオレは、こいつらを足止めする。してもいいはずだ!)
そんなことを考えながら微笑むハニュ。
「鍛丸匡一郎、バルトス、ここまでの戦いで名前は覚えた。オレはお前たちを友だと思う」
「そうか」
微笑む鍛丸。困惑しつつも嬉しそうなバルトス。
ただ一人、カナリアル・ボンダだけは青ざめていた。
「吾は?」
「……すまん、名前分からなかった」
カナリアルはにやりと笑いこう発する。
「吾の名前はカナリアル・ボンダ! よろしくな!」
「よろしく!……アルカナリ!」
「逆ー!」
和気藹々としつつも、お互い隙を狙っていた。
そんなヒーローは知らない。アリア・ホーガンが敗北したことを。夕奈は野生の勘で気づいたが、理性がそれをもみ消した。なぜこんなことが起きているのか。
それはひとえに強者の不在。
ジーダ・オニュセントは医務室にいる。レテシー・アルノミカも同様に。アーサ=アーツ・ホーガンは外に出ており、他の強者もそれは同じである。
気づかぬ間に進んでいた破滅の方向。上の人間は危惧すべきだったのだ。敵が魔族だけではないことに。
否。ミリア・ホーガンはその可能性を考え、指令を出していた。だがどこかでその指令が消えたのだ。
そのせいで、アリアを守るはずであった嘉村舞奈は外へ出ている。
一体誰がこの状況を造り出しているのか。
「……普通、妹にそこまでやるかよ」
出遅れたにもかかわらず、その男はこの場を支配する。
彼の目的はただ一つ。日本に帰ること。
「……殺してはないのか」
すまない。そう思いながら、九頭龍晴翔はミリア・ホーガンのもとへ向かう。
嘉村舞奈は今どこにいるのか。彼女は、突如現れた魔獣のもとへ向かう道中であった。
「エリオスさん、この際魔族かどうかは気にしません。現状の報告を」
エリオス・バンダ、彼は頷く。
「ぐー。すぴぴ」
鼻提灯を浮かべる男がここに一人。別の場所で、一人でいる彼は、木の幹にもたれかかって夢の中にいた。
「……」
草で作られたズボンを履いている小柄な褐色少年は、冒険者の頭に乗りながら突然現れた二匹の魔獣を見つめる。
「墨火愛會」
この世界には、メキシコサラマンダー、ウーパールーパーとも呼ばれる生物に似た生物が存在している。カニマニ・アルルはその生物に変化し、特性を利用した。
治癒の力により回復していく体。無意識のうちにアーサ=アーツ・ホーガンの顔を思い浮かべ、震えてしまう体を起こし、メモリープラットと雷鳥を視野に入れる。
皮肉なことに、守るではなく、攻める方向へ物事は動き、集合を始める。
「……硬いだんね」
「ああ、そうだな」
決定打が与えられずにいるキョウヤは、静かに焦っていた。こうしている間にもスウィートランボーに逃げられてしまう。そう危惧しながら。
だがそれは杞憂に終わる。
「ひょっひょっひょ」
冒険者たちの決死の足止めにより、状況は望ましい方向へと動く。
「来たか」
ハゲの冒険者はそう呟き、褐色の女を見る。
ポイロと村人の女が、到着した。




