102話 眠っていては魚は捕れない
今起きていること
・万葉木夕奈&ロニイ・ファーベントvsキラ・濱田
・紅木葉vsクイナ・イースター
・鍛丸匡一郎&バルトス・シリカ&カナリアル・ボンダvsナイリー・ハニュ
・アリア・ホーガンvsルリア・ホーガン
・アーサー=アーツ・ホーガンvsサーガ・ラントゥトーン
・冒険者たちvsその他大勢の魔族、魔獣&メモリープラット
・ヒョウリー・クワンド&エリオス・バンダ&駒衣千菜&村人の女&キョウヤ&ポイロ&冒険者たちvsスウィートランボー&ブクブク(メモリープラット)&パタパタ(雷鳥)【目的はアンニ・トートンルーの奪還】
・ラリゴ先生vs名も無き魔族
「そこを、通してくれないか?」
「ふぁー!」
村人の女は、キョウヤの伝言をハゲの冒険者へ届けていた。その道中、まだ生まれたばかりの魔物が彼女の前に現れる。
「るんるんぱー!」
雷鳥に引っ付いていたのか、召喚と同時に現れた幼子。その容姿はぶくぶく太った赤子の鬼のようだった。彼は踊りを披露する。
「ふんふんふー」
そんな鬼に村人の女は言う。
「もう一度言う。そこを、通してもらえないか?」
「んー、ふぁー!」
「話が通じないよう!」
涙を浮かべる女。彼女は赤子を無視することもできず、途方に暮れていた。それから五分ほど滞在した後、ついに鬼が意思を伝えた。
「だんちゅ、おもちろかった。疲れちゃったからだっこ」
「んー、もう」
村人の女は鬼を抱きながら、戦場を走る。
「重いよーう!」
彼女のほかにも、ここを走るものがいる。
「……」
その者の名は駒衣千菜。彼女は、ヒョウリー・クワンドのもとへ向かう。
ヒョウリー・クワンド、エリオス・バンダ、駒衣千菜、村人の女、キョウヤ、ポイロ、冒険者たちは、アンニ・トートンルーの救助のため動く。
今、最も敵の近くにいる男は辟易していた。
「……怖いだん」
もう、あの忌々しい笑い声は聞こえない。この場に残された二匹の魔獣が、無情にもクワンドを襲う。
「……でも、諦めないだん」
氷が、宙に浮く。彼は言った。
「二度目の敗北は、おいどんが許さない」
勢いよく押されたように、氷の塊がメモリープラットを襲う。
一瞬ひるんだようだが、その隙に雷鳥のくちばしが、クワンドを刺し殺した。
……はずだった。
だがそこに、一人の魔人が現れる。
「スイーツ野郎がいねえ。逃げられたか……!」
ミイラのような体が徐々に若返る。赤を基調とした和尚のような服を着た爺さんは、空中に魔法陣を浮かべた。
「上位魔法、イルイーラの蔓」
刺々とした蔓が、メモリープラットを捕縛する。
彼は、魔族を超えた存在である魔人。魔法に秀でた一握りの魔族にだけ許された、生物を逸する存在だ。
だが、彼はもう死んでいる。アルマス・ブリー、享年七十二。数百年前に活躍していた魔人だ。
ならば、今動いている存在は?
「……頼んだぜ、ポイロ」
魔王軍幹部キョウヤ。彼の異能の真骨頂は、その治癒力にある。鍛錬の末に、彼は死人をも操ることを可能にした。
ただ、それ相応のデメリットがあり、準備が必要になる。
「んじゃあオレ達は、こいつらの相手か」
それを差し引いても強力な力であるのは間違いない。
「クワンド君、動ける?」
「動けるだん。助けてくれてありがとだん」
キョウヤは、こんなことに付き合わせて申し訳ないと思うが、クワンドの表情がその気持ちをさっと飲み込んだ。
クワンドは恩を感じている。もとより死ぬはずだった、だがキョウヤのおかげて衰弱から立ち直れた。
双方、恩を感じ、お互いを尊重する。
「じゃあ、行くぞ」
キョウヤの奥の手の一つ。魔人の力が、炸裂した。
「上位魔法、イビルの渇き。混合魔法、ブレッドロック。上位魔法、イヌプスの導き」
体が張り裂けるほどの緊張感が広がる。それに続き血のような炎を纏った石が隕石のように降り注ぐ。それはまるで勝利に向かっているかのように、石一つ一つが意思を持った。
勝負は決まる。……残念ながら、そう簡単ではない。
「たくっ……」
隕石のほとんどが雷に撃ち抜かれる。もとより、メモリープラットに着弾した石も粉々に砕けた。そこに立つのは無傷の魔獣。
キョウヤは、スウィートランボーの本気を感じた。
一方その頃、ポイロは村人の女と遇っていた。
「褐色の女の人。あなたに間違いないです」
「すみません、今急いでいるので」
方向音痴が極まっているのか、村人の女は冒険者たちのいる方向とは真逆の、町方面へ向かっていた。
そこに、キョウヤのもとへ向かうポイロと合流する。
キョウヤは、ポイロが冒険者のいる場所、自分のいる場所、どちらに現れてもいいように手を打っていた。そのために、村人の女にもう一つの伝言を頼んでいる。
「ポイロさん、黒髪の彼から伝言を預かっています」
「……キョウヤ様のこと?」
「……あ! 名前訊くの忘れてた」
頭に手を置く村人の女。そんな彼女の横で、赤子ながら二本足で立っている鬼は頷いた。
「ばかおんにゃ」
「ごめんようー!」
ポイロは無表情でこの場を去ろうとする。それを見た村人の女は急いでこう言った。
「あ、伝言はスウィートランボーを止めろです。方向は確かあっち。……あれ? あっちなのか」
「いったい何が言いたいんですか?」
「つまり、お婆ちゃんを助けたいんです」
彼女の目は、輝いていた。それと同時に、自分が記憶を消した人間だということを思い出すポイロ。
刹那、緊迫感が広がる。ポイロは空中に浮かぶ魔人を見た。
「なるほど」
別れる前に聞いた言葉。「もし、説得が失敗したらオレは魔人になって戦う。だからそのために先生……いや、Xに協力を求めてくれ」という言葉に動かされ、ポイロは村人の女の話を信じる。
「わかりました」
「……ありがとうございます」
「お礼はいいです。場所を教えてください」
ポイロは村人の女と鬼の赤子を抱きかかえて走り始めた。それと同時に、城下町でも戦況は動く。
「フェザーインパクト」
「ヒーローパンチ」
「炎熱Σ柱波!」
「あははっ」
この時、二つの時系列が重なった。
ここまで読んでいただきありがとうございます! ここから風呂敷を畳んでいこうと思います!




