101話 艱難汝を玉にす
今起きていること
・万葉木夕奈&ロニイ・ファーベントvsキラ・濱田
・紅木葉vsクイナ・イースター
・鍛丸匡一郎&バルトス・シリカ&カナリアル・ボンダvsナイリー・ハニュ
・アリア・ホーガンvsルリア・ホーガン
・アーサー=アーツ・ホーガンvsサーガ・ラントゥトーン
・冒険者たちvsその他大勢の魔族、魔獣&メモリープラット
・ラリゴ先生vs名も無き魔族
ヒョウリー・クワンドの体に意識を入れたキョウヤは、空中に浮いている魔王軍幹部スウィートランボーと敵対していた。
「御託はいい。早くその子から手を引け」
「ひょひょ。お団子に何故ここまで執着する?」
「昨日の敵は今日の友理論だ」
「意味が分からない」
「関わっちまったんだよ。だから、もう見過ごせない」
沈黙がこの場を支配する。それを壊したのは、キョウヤだった。
「応じないというのなら、オレも全力を出す」
「わかってるのか、キョウヤ? わしとお前さんの戦い方は似ている。だから気にかけていたんじゃ」
「何が言いたい?」
「わしのほうが上と言いたいのじゃ」
「はいはい。言いたいことはそれだけか?」
またも、沈黙がこの場を支配する。それを壊したのは、キョウヤだった。彼は手を出そうとしない。
「オレはあんたより下だとは思わない」
「客観視ができていない。だから弱いんだお前は」
「どの口が言ってやがる。戦場にも来れない小心者が」
「キョウヤ、わざわざ戦場に足を運ぶお前さんが異常なのじゃ」
「悪いが、オレはそれが普通だと思っている」
またも沈黙がこの場を支配する。もちろん、これもキョウヤの作戦だ。
こうしている間にも、スウィートランボーの逃亡を阻止するために、彼の進行方向になるであろう場所に人員を派遣している。その先頭にいるのがハゲの冒険者であり、前線に出ていない冒険者は皆キョウヤに協力していた。
見ず知らずの者を手伝う。その裏には、ハゲの冒険者の人望と、相手が魔王軍だという理由があった。当然だが、キョウヤは自信の身分を隠している。
スウィートランボーは魔王軍幹部であり、拠点は魔王城の近くにある、と考えるのが一般的だ。キョウヤの言った方向の先には魔王城があるように、よく考えればキョウヤが魔王の関係者だと分かるのだが……この非常事態にそこまで考えられるものはいない。
ただ一人を除いて。だがその者は、すでにキョウヤの正体にたどり着いている。今更知る必要はないのだ。
「長々と話しちまったな。もう一度言うぞ、スイーツ野郎。その子を……」
「いで!」
イレギュラー。あり得ないわけではなかったはずだ。
部外者の到来。それがスウィートランボーの仲間ではないことは、すぐにわかった。
「なんで……」
「え、えーと」
そこにいたのは、数時間前に記憶を消したばかりの人物だった。
「おばあちゃんが連れ去られて……。きゃー、殺されるー!」
一度見ただけでは覚えきれないような平凡な顔。茶色の髪を邪魔にならないように後ろで結んだ彼女の特徴と言えば、そばかすくらいだろう。少し汚れた服に身を包んだ彼女を見たキョウヤは唖然とした。
(なんであの女がここに……?)
そう思いながら、連れ去られたという言葉に引っかかるキョウヤ。彼はスウィートランボーに訊こうとしたが、もう遅かった。
「ひょひょ。長話しすぎたのお」
この場を去ろうとするスウィートランボー。キョウヤは最後の手札を切った。
「おいスイーツ! 今ここで憑依する!」
ぐたっと、ヒョウリー・クワンドは倒れる。
「……上手くいっただん?」
スウィートランボーは空中で停止し、しばらく考えた。
「ひょひょ……。キョウヤ、やる気かえ?」
ゾっと、クワンドと村人の女の鳥肌が立つ。それと共に現れる不快感。まるで、知らない人に身体中を撫でられているかのような錯覚さえ起こす。
そんな最中、キョウヤのサブプランが始動した。
「ダリアフォース……!」
傷ついた体に纏われる危険な力。彼は、数十分前にキョウヤに応急処置をされた。クワンドとは違い、あくまで動けるくらいにだが、体は治っていた。
その者の名は、エリオス・バンダ。万葉木夕奈に吹き飛ばされた男である。
「たく……。あんま稼げねえぞ!」
クワンドも作戦失敗を悟り、鋭利な氷を宙に浮かばせた。
「……」
だが、戦おうとは思えない。
ここは王都から少し離れた場所。王都内から見張っていたエリオスとは違い、クワンドと村人の女は動けずにいた。
幸い、ここは開けた何もない場所。
エリオスは、ダリアフォースで強化した体から遠距離の攻撃を繰り出した。
「アッパーロック」
力の塊が、スウィートランボーを狙う。それに業を煮やしたお爺さんは、召喚魔法を使用した。
「こい、眷属ども」
空中に巨大な魔法陣が現れる。
「そうだな、ブクブクとパタパタにしよう」
現れる二匹の魔獣。一匹は大きく、城と同じくらいの大きさがあった。もう一匹は、大きな翼をはばたかせながら、空を飛ぶ。
メモリープラットという魔獣を覚えているだろうか。アーサ=アーツ・ホーガンが倒していたあの魔獣。もし、あれが五百年以上遺伝を続けていたとしたら?
メモリープラットは寿命の関係で多くは残らない。だが稀に、異常なほど性欲が大きい個体が生まれる。その性欲が遺伝し、多くの子を残す。
それが続き、五百年もの年月を生きているのと同義な生き物が存在した。
それが、ブクブクと名付けられたメモリープラットである。
一方もう一匹は、雷雲を操る雷鳥であり、現在絶滅危惧種に指定されている大変珍しい魔獣である。
雷雲が広がる。
エリオスのアッパーロックは外れ、彼は膝を落とした。
「……いてえ。ユーナのやつ、もう少し手加減しろよ」
そんな彼の横に現れる戦闘服を着た女。
彼女は、言った。
「なるほど、これは確かに杏さんには無理ですね。私を指名したクマ先生は確かでした」
「……お前は?」
彼女は、異能力を使用しながらこう返した。
「三のDを展開。……駒衣千菜。助太刀に参りました」
彼女の横にミサイルが現れる。
「手始めに」
駒衣は人差し指を上に向けた。それに呼応して、ミサイルが発射される。
それはメモリープラットに直撃した。
「……すげえな」
エリオスは感心するが、駒衣は焦る。
「これ程とは」
メモリープラットはぴんぴんしていた。
エリオスは「もう一発行こう」と言うが、駒衣はそれをきっぱり断った。
「もうありません」
歩きながら、彼女は言う。
「前に行きましょうか」
数分前、Xである九頭龍晴翔のもとに、褐色の肌を持った女ポイロが訪れていた。
「……という事です。お願いできますか?」
九頭龍晴翔はしばらく考えた後、こう返事する。
「わかった。駒衣千菜に頼もう。キョウヤ君にもよろしく言っといてな」
「はい」
ポイロはすぐにこの場を去り、キョウヤのもとへ向かう。
残った九頭龍はカネ・マネーに言った。
「お前も一枚噛むか?」
「遠慮しておくよ。こっちで手一杯だ。……頼んだよ」
「おう。お前に迷惑はかけねえよ」
解散する二人。別々の方向に動く彼らだが、同じ場所を目指している。
「……バカ、動けるか?」
爆風の影響か、不快感という呪縛から解き放たれた村人の女は、逃げた先でキョウヤと出会っていた。
今回は本当の姿である。
「……怖かったです」
「だろうな。とりあえず適当な場所にでも逃げて……」
ぎゅっと、キョウヤの手を掴む村人の女。彼女は言った。
「お婆ちゃんが、あいつに連れ去られた。だから、怖くても戦いたい! 私にできることを教えてほしい」
そう言う女を見て、キョウヤは真剣な顔になる。
「わかってるのか、死ぬかもしれないんだぞ」
「死なないもん。私はまだ、夢をかなえていないから」
その顔は、覚悟の決まった者の顔だった。キョウヤは微笑む。
「まったく、今回もことごとくオレが隠れている場所を当てやがって。……オレは今、大きな力を使う準備をしている」
村人の女はハテナを浮かべながら、小声で「だから物置に隠れてたんだ」と言う。
キョウヤはお構いなしにこう続けた。
「そこでだ、君に伝言を頼みたい。大変だが、できるな」
村人の女は、頷いた。
万葉木夕奈たちが勇者軍と戦っていた裏で、魔王軍同士で内乱が起きている。ごちゃごちゃした状況だが確実に、終着点へと向かっていた。
のちにこの世界を揺るがす者となるキョウヤと夕奈は、同時に戦いの意を見せる。
夕奈は不機嫌になりながら。
「いま、何て言った……?」
キョウヤは凛々しい顔で。
「じゃあ、頼むぞ」
そう言うキョウヤを見つめながら、傍観者を逸脱した村人の女はこう返した。
「お婆ちゃんを、託した」
早くこの戦いを終わらせて日常回も書きたいな~!
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!!!




