100話 一日の長
「う、うざい?……っ、それは! わっ、私のセリフだ……」
途中で尻込むクイナ。彼女は、自分の手に爪をめり込ませた。
それを見た木葉はクルルを支えながら冷静にこう返す。
「もっとハキハキ言いなさいよ。誰も文句は言わないし、私もやりやすくなるからさ」
「……」
黙るクイナ。彼女の怒りがふつふつと沸いて行く。
「なるほど……」
木葉はぞろぞろと出てくる冒険者を見て、納得した。
「だからクルルちゃんは攻めれなかったのか」
木葉はクイナを見た後、こう言う。
「やっぱあなた最悪」
「……!」
冒険者が、木葉を襲う。
一方その頃、鍛丸匡一郎は魔族達と共にナイリー・ハニュと戦っていた。
「エフェクト追加。エンチャント……!」
「お! その技か、いいな!」
ナイリー・ハニュは構えを取り、突進してくるカナリアル・ボンダをあしらった。
「ふぬー。足止めもできぬとは」
彼は顔面から落ちる。その間、バルトス・シリカは溜めていた力を開放する準備をしていた。
「パワーアップか? すげえな」
にやりと笑うナイリー・ハニュ。それに呼応し、鍛丸も口角を上げた。
「見たら驚くぞ!」
『エフェクト』。それは物に効果を付与する異能。流動する黒と金の大きな拳が、鍛丸の肘辺りまで纏わりついている。それは鍛丸の師匠、ドードン・カルナスが作った武器。それに短期間だが、軽量化と相手に当たった瞬間に大きな衝撃を相手に与えるという効果を付与した。後者の付与が大きく影響を与えているせいか、武器の範疇を出そうになる。
もし出てしまったら、この武器は見るも無残に爆散してしまう。
鍛丸はこの武器を何度も爆散させ、自身の能力の精度を上げてきたのである。
「こい!」
「ああ!」
鍛丸は拳を握り、ナイリー・ハニュ向けて走り出す。
そして拳を振った。
「もうちょっと、付き合ってくれよな!」
鍛丸の言葉を聞いたナイリー・ハニュは歯を見せた。
「おう!」
勢いのついた鍛丸の拳を左腕で受け止めるハニュ。
彼らは、二人だけの空気を創り出していた。
「……!」
ぶつかり合う拳。それに終止符を打ったのは、鍛丸の武器の耐久性だった。
「もうか……」
流動する武器が爆散する。かろうじて耐えていた武器が内部から破壊された。
「……」
……だが問題はない。散り散りになったヘドロのようなものは再集合し、元の形に戻った。
鍛丸はそれを再度取り付ける。
ナイリー・ハニュは口角を上げるが、同時に総毛立つような驚きも感じた。
「なっ、驚いた。ししし」
笑いながらそう言う鍛丸。ナイリー・ハニュは、返答はせず行動で示した。
腰を落とす。それは、バルトス・シリカの攻撃を正面から受けきるため。
「行きます。……セーブモード」
バルトスの体が、エンジンを吹かすように震えた。彼の運動の回転数が速くなる。
身体能力が跳ね上がった。これは、火魔法に似た魔法を得意とするシリカ一族の得意魔法を応用したもの。本来放出して使用する技だが、バルトスはそれを内部へ向ける。
「……!」
上がった身体能力でバルトスはハニュへ近づく。速さだけなら、この場の誰よりもある。それに合わせるように、カナリアル・ボンダは槍を投げた。
「爆ぜろ! ボン、ボン、ボーン!」
槍に纏っていたエネルギーが膨張し、爆発した。
それを間近で受けたハニュは咳をする。感覚か、爆風で見えない中でもバルトスの攻撃を受け止めた。
ナイリー・ハニュは、そう簡単に崩れない。
鍛丸もそれに続いて攻撃するが、防がれた。
一旦止めるかのように、バルトスは後ろへ跳び、膝をつく。
「はー……、はー……」
疲れているバルトスを守るようにボンダは彼の前に出た。
そんなボンダの前に出るは鍛丸匡一郎。
ナイリー・ハニュは挑発するように、手で来いと伝えた。
「あははっははっ」
そんな城下町とは違い、ホルルレクス城では二人の王女がじゃれあっていた。
「アリア、お友達は増えた?」
「あははっ!」
ルリア・ホーガン。彼女は、マルゴニカ王国第一王女にして勇者軍二番隊隊長である。その妹であるアリア・ホーガンは、マルゴニカ王国第三王女であり、チャリティーに力を入れる献身的で穏やかな女性。そんな彼女は、隠している遊びたいという欲求を、万葉木夕奈によって満たされたことにより心の成長を遂げた。
はずだった……が、今回の戦争がトリガーとなり彼女の中に眠っていた記憶と血が目を覚ます。
「あははっ、はは!」
アリアはアーサ=アーツ・ホーガンのように笑いながら戦う。残念ながら、技術は到底及ばない。
「……アリア、元気でしたか? お姉ちゃんが一緒にいてあげられなくてごめんね」
「ふふふっ」
武器を持たないアリアを案じてか、ルリアは地魔法を使い、床の一部を操作して剣のようなものを作りだした。
「……?」
首を傾げるアリア。だがすぐに意図を察して、その剣を受け取った。
「あははっ。ありがとう、お姉さま」
「お礼はいいわ。アリアがどれだけ強くなったか見てみたいだけなの」
「はははっ」
アリアは笑いながら構えを取る。その構えは、万葉木夕奈とは違い、綺麗なものだった。
そんな噂の万葉木夕奈は、現在キラ・濱田とバチバチに睨み合っていた。
「……あ?」
キラは困惑したようにそう呟く。刹那、夕奈は前へ向けて飛び出した。
ロニイもそれに合わせて呪文を詠唱する。
「オクヌマス」
キラは驚いたように目を見開いた。
「……!」
それと同時に、彼の体が雷の速さで動く。
「……」
万葉木夕奈の背後で止まるキラだが、その事実に二人が気づいたのはもっと後だった。
「……!」
キラは夕奈の背中を殴る。その威力で、夕奈は地面に打たれそうになった。だが、彼女は寸前のところでそれまでの状況を理解する。
「統治力場……!」
倒れる彼女の体は、物理法則を無視したように回転する。剣が、キラの首を打った。
「……!」
夕奈は驚きで息が荒くなりつつも、家にぶつかったキラにこう伝える。
「あんた、その形態が一番弱いんじゃない?」
「なにを……!」
万葉木夕奈。彼女はそっと微笑んだ。
「私たちが勝つって言ってんのよ」
一歩、前へ。
それは他の面々にも言えること。
「エフェクト……エンチャント。バルトス君、カナリアルさん、必ず勝ちましょう。いや、勝とう!」
頷く二人の魔族。そしてにやりと笑うナイリー・ハニュ。
「絶対勝つわよ。私は、クルルちゃんの友達だからね」
紅木葉は、コジカを抱えたギマリにそう伝える。
どうやら操られていても炎は怖いようで、冒険者を囲み、ほぼ無力化に成功していた。
コジカを気絶させ、急いで戻ってきてみれば、知らない女がクルルを支えている。そんな現場を目撃したギマリだが、その女がクルルの友達だと知り彼の態度は激変した。
「そうか、クルルの友達か。ぎひゃひゃ、わかった。クルルは預かる。で、安全なところに逃がしてすぐに加勢に来てやるよ」
「別にいらないけど」
「うるせえ、俺様のわがままだよ」
「そう、じゃあお言葉に甘える」
「おうよ」
そう言ってギマリはクルルとコジカを抱えてどこかへ行く。それを見ていたクイナ・イースターは激怒し吠えた。
「みんな、もっと頑張ってよ……!」
「無理、無理。だってリーダーの貴方が一番頑張ってないじゃん」
木葉は炎を操り、クイナとの一本道を作る。そして嫌味を言うように口を開いた。
「そんなんじゃ勝てるもんも勝てないよ」
「あははっ」
一方その頃、アリア・ホーガンは笑っていた。
「お姉ちゃんに勝てるかな?」
「あははっ、勝ちます!」
万葉木夕奈、紅木葉、鍛丸匡一郎、アリア・ホーガンは奇しくも同時にこう発する。それは同じく勝利のため。彼ら彼女らは、敵に向かって技を放つ。
「ユーナ・イグドラシルー!」
夕奈は神経を集中させ、自分に近づくキラ相手に呪文を詠唱した。
「……統治力場」
動きが呼応する。夕奈は、剣に念じた。
「必殺! はっ!」
鍛丸匡一郎は武器に効果を付与する。
「エンチャント」
紅木葉はクイナ・イースター向けて跳び、アリア・ホーガンは姉に剣を振るった。
長い溜め時間の後に、技名が、ここに並ぶ。
「フェザーインパクト」
「ヒーローパンチ」
「炎熱Σ柱波!」
「あははっ」
同時期に、勇者軍の面々は攻撃を受けた。
万葉木夕奈は剣を肩に乗せて、彼にこう伝える。
「一応、訊いておくわ。大樹とはどんな関係なの?」
「心の底から信用する……」
キラは、立ち上がった。
「親友だよ」
それを聞いた夕奈は微笑み、こう返す。
「そう」
ロニイは夕奈に訊く。
「心残りは?」
まさに即答だった。夕奈はこう返す。
「ないわ」
キラは、不機嫌な顔をしていた。天候はまだ雷雲。
これの原因は、ある場所で現れたあやつによるもの。
時は大きく遡り、魔王軍幹部キョウヤは策略を添えて、同じく魔王軍幹部スウィートランボーの逃亡を妨害していた。
「ひょひょ。突然何が降って来たかと思えば……。キョウヤ。やる気かえ?」
「その子を、解放しに来た」
スウィートランボーの目の前に現れたキョウヤは、たった一人だった。
彼は死にかけの魔族の体を使い此処へ来る。その者の名はヒョウリ―・クワンド。レテシー・アルノミカに吹き飛ばされた男である。
まん丸太った体を動かし、キョウヤは言った。
「トーク、オア、バトル?」
「ひょひょ。下手な他言語はダサく見えるぞ、使うべきではない」
スウィートランボーはそう言いながら、脳裏に奥さんに逃げられたことを思い出す。
「コレはじじいからのアドバイスだ」
「はいはい。ありがとうございます」
ついに100話行きましたーっ! めでたいですね!
ここまで読んで頂きありがとうございます! これからもよろしくお願いします!




