第3話 なし崩し的にこうなっちゃたけど、まあいいか
旅から二日後、私の幼馴染が村長の家に嫁いでいる村までやってきた。
前の日に寄った村はリュザールさんが育った場所だったからすんなりと話が進み、銅貨もすぐに扱ってもらうことが決まった。
今日の村も元々ユーリルさんが話をしたことがあるみたいで、話をした途端納得してくれた。
だから私がやることはほとんどなくて、懐かしの悪友とたくさん話をしてきた。
「しかし、あんたがお母さんになるなんて驚きだよ」
「可愛いでしょう、ルーミン。去年生まれたばかりなんだ。まだ歩けないけど、旦那もいい人だし私は幸せだよ」
「あんだけやんちゃしてたのに、人って変われるもんだね」
「しっ、ルーミンそれは内緒で……ふふふ」
「あははははは」
「ふ、ふえぇーん」
「あ、ごめん。起こしちゃった」
「いいのよ、そろそろお乳の時間だったから。それよりもルーミンあなたも早く結婚しなさいね。私も変わらないつもりだったけど、赤ちゃんできたらそんなことどうでも良くなったからね。なってみないとわからないわよ」
あれだけ一緒に迷惑かけまくってたあの子がこうなるんだ……
私が生まれた村のビントには明くる日の夕方頃到着した。まずは村長さんの家に行くというので、みんなを案内していたんだけど、思いも寄らない話を聞いた。
「お、ルーミンじゃねえか。話を聞いて戻ってきたのか……ん、それにしては早すぎるか」
近所のおじさんだ。話って何だろう……
「おじさんこんにちは。元気そうで何よりです。それで、話って何のことですか?」
「さっき親父さんから聞いたばかりだから知っているわけはないか。家に帰ったらわかることだが、お前の結婚相手が見つかったって喜んでいたぞ。早く行ってやれ」
結婚相手! さすがに聞いてない。きっとお父さんがやらかしたんだろう。
「すみませんリュザールさん、案内することができなくなりました。村長さんの家はこの先をまっすぐ行って左手にあります。皆さんで向かってください」
「ルーミンはどうするの?」
「お父さんに会って、事情を聞いてきます」
「あれ、ルーミン姉ちゃん。なんでいるの?」
久しぶりの実家は変わりなく、玄関の前では弟のローランが遊んでいた。
「ローラン、元気そうでよかったよ。お父さんは中?」
「うん、ニコニコしてさっき戻ってきたよ」
ニコニコって、こっちは機嫌が悪いのに。結婚相手とか一体誰!
勝手知ったる家に入り、居間へと向かう。お父さんはいつもの場所に座っていた。
「お父さん! 結婚相手ってどういうこと!」
「げっ! ルーミン。なぜここに……」
「村長さんに用事があって来たの! そしたらおじさんが私の結婚相手が決まったって言うじゃない。何勝手に決めてんの。というかいったい誰!」
「そりゃ……お、お前もいい年だから相手を見つけにゃならんと思ってよ」
「それで誰!」
「……山の麓に住んでいる木こりの男だ」
「え、ちょっと待って! その人ってお父さんより年上じゃない」
「まあ、年上だと言っても一つか二つだ、そいつの嫁がこの冬に病気で死んでしまってな。今、次の嫁を探しているんだ。お前にちょうどいいと思ってよ」
「何言ってんの! そいつって昔から評判悪くて嫌われていたでしょう」
「今は心を入れ替えてやってるからよ。頼むわ」
「絶対いや!」
「そう言うな。頼むよ」
「私にはもう決めた人がいるの! その人以外とは一緒にならない!」
「なんだと! 俺の知らない相手に娘はやれるか!」
「その人を紹介したら認めてくれる」
「ああ、ちゃんとした奴なら会ってやらんこともねえ」
「わかった。すぐに連れて来る!」
絶対にあいつのものになるのだけは嫌! それならいっそのこと……
「姉ちゃんもう行っちゃうの……」
「ローランすぐ帰って来るから、お父さんがどこにもいかないように見張っていてね」
「わかった。任しておいて!」
ソルさんたちは村長さんの家だから、すぐ近くだな。よし!
村長さんの家も勝手知ったるで、どこに何があるかわかっている。挨拶なんていらないだろう。
「ソルさん! ジャバト借りていきますね!」
「ルーミン! お前も来ていたのか」
「村長さんお久しぶりです。さあ、ジャバト急いで!」
「ちょっと待て! さっきまでお前の結婚相手について親父さんと話していたところだ」
「その件については、村長さんにも言いたいことがありますが、まずはお父さんです。では、失礼します!」
まずはあいつとの結婚だけは阻止しないと。
「お姉ちゃんお帰り。お父さんいるよ。それでそのお兄ちゃんは?」
「私の結婚相手!」
「え!」
あ、そういえばジャバトには言ってなかったけど……まあいいか。
「お父さん。この人が私の結婚したい人。さあ、ジャバト、挨拶して!」
「え、は、はい。お父さん初めまして、僕はジャバトと言います。カインでルーミンさんたちと一緒に働かせてもらっています。初めてルーミンさんに会った時から、僕はこの人がいいと思っていました。いきなりのお願いで申し訳ありませんが、ルーミンさんを僕にください。絶対に幸せにします!」
「お、おう。礼儀正しい兄ちゃんじゃねえか。かといって、おいそれと可愛い娘をやるわけにはいけねえ」
「可愛い娘をあの親父に渡そうとしたのはいったい誰!」
「うるせぇ! ちと黙っとけ。それでジャバトと言ったな。幸せにするって言ってたがいったいどう幸せにするつもりだい」
「僕と妹は北の方で生まれましたが、水が枯れてしまいこの近くの村まで逃げてきました。そしてそこで両親も亡くしてしまい、妹と二人でカインまで仕事を探して移り住みました。僕には財産も何もありませんが、一生懸命に働いてルーミンさんが生活に困らないように頑張るつもりです。お嬢さんをください!」
「お前も苦労してんだな……え、えっと、本当にこいつでいいのか? こいつは確かに顔がちぃーとばかしいいかもしれんが、小さい頃は手に負えないくらいのことしでかしていたんだぞ」
「お父さん!」
「僕はこの人じゃないといけません!」
「好いたもの同士が一緒になるのがいいとは思うんだが、財産がないのか……」
「どうしたの?」
「実は……」
参った、うちのお父さんは私をお金で売るつもりだったんだ。でも、お金だったら、ソルさんに相談してみよう。私とジャバトのお給金を前借りさせてもらったら何とかならないかな。
よし、ここは勢いでいくしかない!
「ソルさん! ジャバトに、いや私にお金を貸してください!」
「あ、ルーミン。貸すのはいいけど、どうしてお金が欲しいの?」
「うちの家って兄弟が多いんですよ。今度結婚する兄のために結納の品が必要で、その工面ができないみたいなんです。それで、私を差し出すことでその費用を賄おうとしたみたいなんですよ」
「私は構わないけど、二人はそれでいいの? ルーミンのお父さんはただお金渡すだけでは受け取らないでしょう。やっぱりジャバトとルーミンの結納って形になると思うけど……」
「わ、私は構いません。ジャバトと幸せになってあげます」
「俺はルーミンさんを幸せにします! 結納の品も働いて返しますのでよろしくお願いします!」
うぅ、なし崩し的にこうなっちゃったけど、まあ、ジャバトとならいいか……