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優しい看護師さんと恥ずかしがり屋な看護師さん

作者: 緋水晶

実話です。

これは私が手術のため入院していた時に実際に経験した話です。


先日、私は口内の手術を行いました。

リハビリ含め、入院期間は2週間。

「最初の内は眠れないほど痛いですが、3日くらいで落ち着きますので後はリハビリですね」とのこと。

長いような短いようなと思いながら、私は持ち込んだパソコンでのんびり小説でも書いて過ごそうと暢気に考えていました。

しかしいざ手術が終わってみると、傷よりも腰に限界が来ました。

元々骨に歪みがあるせいで仰向けが辛くはあったのですが、横を向いて寝れば問題なかったのです。

けれど口の左右から血抜き用のチューブが出ている以上、仰向け以外選べません。

次第に傷よりも痛くなる腰に、私はどうすればいいかと看護師さんに相談しました。

と言っても口腔外科の病棟ですから、腰痛用の補助器具などはなく、タオルやクッションで支えるしかありません。

点滴と痛み止めの液薬の管、血圧と脈を計る機械、血抜きのチューブ。

様々なものに邪魔されながら私と看護師さんの格闘は続きます。

それでもなんとか調整していただき、私は腰痛から逃れました。

ですがそれから僅か1時間で腰痛は帰ってきました。

時刻はすでに22時過ぎ。

消灯時間を過ぎている中でまたあの格闘をするのは看護師さんにも周りの患者さんにも迷惑だろうと、私はそのまま耐えることにしました。


看護師さんは1時間に1回程度の割合で病室を見回っています。

そしてその度に手術後間もない私の様子を見るためカーテンを開け、点滴や痛み止めの確認をして帰っていくのですが、あまりにも苦悶の表情をしていたせいか、皆さん「辛そうですね」「明日なら先生に言って湿布を貰えますから」などの声を掛けていってくださいました。

その優しさに白衣の天使って本当だなぁなんて思っていたら、いつの間にか少しうとうとしていたようです。

気がついた時にはベッドの足元側に今までとは違う見たことのない看護師さんが立っていました。

と言っても入院間もない私が知らない看護師さんがいても不思議ではありません。

彼女は緩くウェーブした長い髪で、暗くて顔は見えませんでしたがなんとなく美人だろうなという感じの人で、私が起きたのに気がつくと「眠れないの?」と心配そうに声を掛けてくれました。

「足を伸ばした方がゆっくり休めるんじゃない?」

彼女は膝を立てている私にそう提案してくれましたが、

「腰が痛くて、この方がまだ少し楽で…」

と、私は口のチューブに邪魔されながらも答えました。

「ああ、そっかぁ…」と彼女は顎に手を当てて何やら思案しているようでしたが、「目だけでも瞑ってた方が休めるから」と言っていなくなりました。

私は同じことを前に父にも言われたなと思いながら、言われた通り目を瞑りました。


どのくらい時間が経ったかはわかりません。

ふと気配のようなものを感じて私は目を開けました。

そして普段看護師さんたちが入ってくるカーテンの切れ目を見ていたら、シャッとそれが開けられました。

そして先ほどともまた違う眼鏡をかけた看護師さんが立っていました。

しかし彼女は私と目が合うと酷く驚いたようで、かなり慌てながらすぐにカーテンを閉めてしまったのです。

「え?なんで??」と思いましたが、まさか追って理由を聞くわけにもいかず、釈然としない思いを抱えながらまた目を閉じました。

それからまた何度か看護師さんの往来がありましたが全て見知った看護師さんで、あの2人が来ることはありませんでした。


朝の6時になると部屋に電気がつけられます。

そして夜勤の看護師さんが検温と血圧チェックのために駆け回るのですが、不思議なことに見覚えのある看護師さんしかいません。

髪の長い人も、眼鏡の人もいないのです。

そして退院するまで、私は彼女たちと出会うことはありませんでした。



手術の日の夜にだけいた2人の看護師さん。

彼女たちは一体誰だったのでしょうか。

確かに落ち着いて考えてみれば変なのです。

看護師さんたちは皆髪をまとめているのに、夜だからって1人だけ髪を解いていることがあるでしょうか。

そしていくら目が合って驚いたからといって『点滴や痛み止めの確認をする』という仕事を全うせず出て行くでしょうか。

なにより、その髪の長い女性が立っていた位置。

ベッドの足元にある柵とカーテンの間ですが、なにもないそこになぜ彼女は立っていたのでしょう。

点滴も痛み止めも、私のすぐ枕元にあるのに。


最近まで私はこの2人が別々の看護師の幽霊なのではないかと思っていました。

たまたま2人とも同じ日に私の元に現れただけなのだと。

私を心配してくれた優しい看護師さんの幽霊と、見られたことに驚いて逃げた恥ずかしがり屋な看護師さんの幽霊なんだと。

けれど、今はもしかしたら違うのではないかと思っています。

『目を瞑っていたら?』とすすめた最初の看護師さん、そして『目が合ったら驚いた』2番目の看護師さん。

2人とも『目』が関わっているのです。

これは偶然なのでしょうか。

最初の看護師さんの指示に従っていれば私は『目を閉じていた』はずでした。

2人目の看護師さんは『目を瞑っているはずなのに目を開けていたから』あんなに驚いたのではないか。

そう思えてならないのです。


あの時、気配に気づかず指示通り目を瞑っていたら、私はどうなっていたのでしょうか。

読了ありがとうございました。

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