プロローグ
新作です。
どうぞ。
北の果てに慈悲深い竜がいました。
世界で唯一とされる万能の魔法をもつこともあって、望まれれば何であろうと願望も叶えられる。竜は心優しいので、どんな願いでも受け止めた。
強くなりたい。
美しくなりたい。
王になりたい。
些細な物から、壮大な物まで。
何事も等しく扱い、いかなる願いも聞きました。
見返りは求めず、無限に叶えました。
ただ一度だけ、たった一つだけ。
それならば、何だってできます。
たとえ、願いが世界を滅ぼすことでも。
戦争中でした。
ある国が願えば、敵対国を滅ぼしました。
また別の国から願えば、ある国は一夜で消え去ったのです。
野蛮でも悪意でも、願いに貴賤は無い。
竜はすべてを叶えました。
いつしか、竜を巡る世界の戦争が起きます。
大陸は荒れ果て、海の上は戦艦が藻屑となって漂う。万能の力を持つ慈悲深い竜の為だけに、世界自体が滅びようとしていました。
そんなとき。
戦火の中にあった小さな女の子が願います。
『竜なんて消えてしまえ』
誰にも届かないほどか細く弱い声。
けれど。
小さな胸の中には収まらないほど大きい想い。
竜はそれに応えました。
同時に、悲しみに嘆いて自らに願います。
『私を必要としない世界なんて滅んでしまえ』
万能の魔法は、その願いを叶えました。
こうして竜によって呪われた世界は、緩やかに滅んでいく未来を辿ることになりました。
『祖竜と世界の成り立ち』より。