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貪欲な僕

彼女を見つけやすくなったのは、僕の勘違いではない。

彼女は僕が僕の目の障害を話してから、黄色のものを身につけることが多くなった。


普通の彼氏なら、服装の色合いや、細かな装飾の違いにそう気付きはしないだろう。

ところが僕の視覚で感じられるのは色のないグレースケールか、黄色のみだ。街にどれだけ人がいても、彼女の身につける黄色の魅力はすぐに嗅ぎわけられる。


それだけでも胸が熱くなった。

彼女は何も言いはしないが、そっと僕のことを考えてその黄色の服を、靴を買うのだろう。

その行動自体が僕への気持ちを表しているようで、彼女を見つけるとすぐに抱きしめたくなる。

愛しくて愛しくてたまらない。



毎日3時頃に僕のカフェへきて、コーヒーを啜る。

時には窓の外をぼーっと眺めて、時には大量の資料を持ち込み眉間にシワを寄せている。

疲れている時はほんの10分、机に突っ伏して目を閉じている。

どの姿も可愛くて、どの表情も愛しくて、かっこよくて、今すぐ押し倒してその瞳にうつるものを独り占めしたくなる。


思えばこんな情熱は今まで無かった。

何人か付き合った人はいたし、同棲もした。

好きだったし、この胸の中で誰かが眠るということを、自分の最大の幸せだとも思えた。


でも柚衣は全く違う。

彼女の全てが欲しいし、彼女が欲するものが僕一人であればいいと願う。

何をしても埋まらない歳の差は、イコール経験値であるから、それをどうにかして埋めたくて焦っている。

そんな僕に優しく微笑んで、時にイタズラにからかって、柚衣は頭を撫でてくれる。

「直央はかわいいね」そう言って。


僕は拗ねる。

その柔らかな手も、余裕のある笑みも、何もかも彼女が持っていて僕の持っていないものだ。

それでもその手が僕に触れていることが嬉しくて、体が熱くなる。

だからせめて、彼女が僕だけを見ている間は真剣に、持ちうる五感の全てを持って彼女を愛でている。

柔らかな髪の中に指を差し入れる瞬間も、潤む目から零れる涙を拭う時も、背中を撫でて可愛い声を聴く時も、体をはねさせて快感に耐えている彼女を支える瞬間も、僕は彼女だけを見て、彼女の些細な変化も見逃さず優しく優しく愛を注いでいる。


ふとある夜柚衣は

「ねぇ」と泣きそうな声で囁いた。

「なあに」聞き返しながら彼女の腰骨を撫でていると「直央の目、とっても綺麗」と続けた。

欠陥のあるこの目を褒めてくれた人はいなかったからそれがどういう意味か理解出来ずにいた。

「きれい?」


「うん、綺麗。まっすぐで、ブレなくて、わたしをみているときどんな目をしているのか教えてあげたい。わたしの体内が全て黄色になってるみたいに、奥の奥の方まで真剣に見てるの。恥ずかしいし、胸がきゅう、ってなる。その目が真剣であればあるほど、わたし感じておかしくなる。」

そういってから、あー恥ずかしい、とコーヒーを飲んだ。


空になったカップを持ってキッチンへ行こうとする柚衣の手を引っ張って、思い切り抱きしめた。


僕の気持ちを伝えるのには、まだまだそれでも足りてない。

普通に生活をしているだけの君が、自分のことをただの人だというように、僕はただのカフェの店長だ。コーヒーをいれることだけしかできない。

だから君のことをもっともっと知って、足りない部分を埋めたい。僕がいないと困るようになればいいのにと思っている。

たったひとつの恋が、僕の全てを狂わせている。こんな僕でも好きになって欲しい、欲して欲しい、こんなことを思うのは驚きだがはじめてのこと。

今までは自分が好きでいれればそれだけで満足だった。愛とはなんと貪欲なことか。


そんなことを口に出せはしない。


ただ、その気持ちを思い切りこめて柚衣を見つめるだけだ。







彼女が仕事におわれ、深夜帰宅になったのはもう2ヶ月も前からだ。

静かにドアを開けてヒールを転がす。

そのままシャワーを浴びに行き、僕の横に静かに入ってきて朝まで泥のように眠る。

わずかな物音で彼女の疲労を知る。

たまにこうやって泊まりにくるようになったが、忙しくなってからは眠る彼女の髪を撫でるくらいしかできない。


寒い夜はその足先を僕の足に絡めてあたため、

顔にかかった長い髪をかきあげる。

深い眠りにつく柚衣の頬を指の腹でそっと撫でると、んん……と動いた。

そう言えば柚衣の話す声もきちんと聞いてはいない。心配だ。


その時机に乗っている彼女のケータイが光った。

いつもなら気にもとめないが、ずっと光ったままだったので急ぎの仕事の電話かもしれない、とケータイをとった。何かあるなら柚衣を起こさねばならない。


ケータイの表示にはLINEの履歴がいくつも表示されていた。電話ではなかったらしい。

ところがその表示バナーは同じ人からのもので、決定的な言葉こそないものの、なんだか嫌な感じ…僕の知らない柚衣を知っている男からのものだった。

《お前はいつも無理するから》

《喉が痛い時はコレなw(画像)》

《彼氏に言えなくても俺に言え〜》


「なんだこれ……」

胸の中が熱くなった。

なんだこいつ。

柚衣は困っているのだろうか。

柚衣は優しいから、こんなLINEにも優しく返信しているのだろうか。

だいたい誰だ。


柚衣が喉をいためていることを僕が知らなかったことに衝撃を受けた。声のトーン、咳、朝出かけるルーティン、全ていつもと変わらなかったはずだ。

柚衣、柚衣、

僕の知らない柚衣がいて、胸が苦しい。

ケータイをまた机の上に置いて、柚衣を後ろから抱きしめた。起きてくれてもいい。

不安でどうにかなりそうだった。

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