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色は本当のの恋に必要かな

「ねえ、最近目の下やばくない?」


隣のデスクで色見本をペラペラめくりながら夕子は言った。


「は?うるさいんだけど」

そう一蹴してまた資料に目線を戻す。

自分の顔など、最近はまじまじ見ることも無くなった。

自分の顔を見て何が楽しいんだ。

何年も同じ顔を毎朝化粧してきて、大体の工程はそう確認しないでもいける。

アイシャドウの色はこれと決めてからはずっと同じものを使っていた。

色を扱う仕事を始めて15年。

化学実験の様に、料理の調味の様に、

その色を見ただけで調合がわかるのは小さい頃からのわたしの特技だった。


暖かさ、寒さ、気持ち悪さ、眠くなる感じ。


色にも色々なパワーや表現があり、本を作る時の文字選びのように、

配色を決めることは重要な仕事であると思っている。


今も丁寧に、心を沈めて色を感じるようにはしているが、

それでも仕事としての量は多く最近はその仕事量に好きという感情が負けてしまっている。

はーーーーーーー疲れた。


色を見るだけが仕事ではない。

朝からクライアントに渡す資料を丁寧に作り上げ、誤字脱字のチェックをし、

昼すぎ、、、もう2時だがやっと一息ついた。


デスク横に置いたコーヒーカップを手に取り、啜ると、

すっかり冷めたコーヒーが余計にわたしを疲れさせた。

「マッズ、、、。」


そうひとりごちてカップを置く。



その一連の行動を見て、夕子がくすくすと笑っていた。

「ね、この後時間ある?」








その喫茶店は、ビルとビルに挟まれて立っていた。

毎日通る道なのに今まで気づかなかったのはきっとこの何もない色のせいだろう。

色がない。


色がない、というのは正確ではないが、

てんでバラバラで、各々の色が視線もバラバラに置かれており、

ただただそこにあるだけだと感じた。

「何、ここ」

そう夕子の袖を引っ張ると夕子はふわっと笑って言った。

「あんたの言いたいことはわかるよ、天才絶対色感さん。でも今日言いたいのはそこじゃないの」


カランカランと年代物の音を立ててドアを開ける。

中は至極シンプルな作りの、装飾が全くない箱だった。

コンクリートの打ちっぱなしの床と壁、天井に貼られた木目はとても印象が良いが、

テーブルや椅子は揃っておらず、ただ明度だけを合わせただけのものだった。


異様だな。

色はバラバラなのに、明度が同じ?


不思議な感覚に包まれて、わたしは席についた。


「コーヒー二つ」

いつに間にか注文を取りに来たバイトくんに夕子はそう言う。

バイトくんは静かな声ではい、と言って奥へ入って行った。

「バイト、一人なの?」

わたしが聞くと夕子は「あの子店長よ」と言った。


ほう、随分若い店長だ。

歳は大学を出てすぐだろうか。

こんなビルの隙間に需要のあるかないかわからない喫茶店を持って経営は大丈夫なのかと、

余計な心配をした。

テーブルや椅子はその色合いの適当さとは違い、手入れされていて、好感を持った。

 


そしてわたしを感動させたのは、そのコーヒーの味だ。


夕子と仕事の話をしている間にまた静かに現れた店長は、ごゆっくり、と言ってまた奥へ入って行った。

香りがたつ。

これがわたしの欲しかったものだと、自然に笑みが漏れた。

夕子は目で飲んでみな、と言い、わたしはそれに従った。


一口飲んだだけで酸味と苦味のバランスに感動した。

わたし好みの味だ。香りも良い。


何も言ってないのに「ね?良いでしょ」と夕子は得意顔で言った。





その喫茶店は、実はとても人気のあるお店らしい。

店長をしている橋田くんは、夕子の言葉を借りると絶対コーヒー感の持ち主だということだった。

客を観察することで欲しているコーヒーの味がわかるらしい。

疲れている、元気を出したい。癒されたい。甘いのが好き。

たくさんごくごく飲みたいかどうかまで、なんとなくかんじてしまうらしい。

この喫茶店の以前の店長が彼を惚れ込み店を譲ったらしかった。



ふうん、面白いな。


メガネの下で優しくコーヒーだけを見つめる店長を思い出した。




それが、彼とわたしの出会いだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の気怠そうな雰囲気が文章だけで伝わってくるので読みやすいです。「絶対コーヒー感」という言葉にセンスを感じました。友人の会話がメインになっているのも良い部分だと思います。 [一言] 私…
2020/11/14 15:54 退会済み
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