音信不通
研究室を出た後、ライン内で中村以外で集まろうという話になった。
井野からの電話が鳴り響いた。
「井野か、お疲れ、どうしたんだ一体」
「ああ、葉山、中村のことどう思う?」
電話越しだが、声が震えてることに気づいた。
何かあったのだろうか。
「どう思うって、井野はどうなんだよ」
「俺は正直やばいと思うよ、行方不明や人が死んでるのに中村は正気とは思えない」
電話越しでもヒシヒシと緊迫感が伝わってきた。
「俺もやばいと思うよ、俺らが関わっていいことじゃない」
「そうだね、ラインでみんなに伝えとくわ」
「ああ、わかった」
聡一はそう言うと電話を切る。
井野はとても危険を感じていた。
それもその通りで、以前似たようなことに首を突っ込んだことがあり、井野は見知らぬ男に暴行を受けたことがあったのだ。
幸い警察が駆け付けたこともあり事が収まったが、今回は行方不明や人が死ぬ事例も出てきている。
こちらもその件を知っているからこそ絶対に近づいてはいけないことはよく知っていた。
中村はそういう話が好きで、事故現場があれば見に行こうとするやつだ。
聡一達は幾度も面倒な事に首を突っ込もうとする中村を静止させてきた。
今回もそのような形になるのだろう。
グループラインに、山は絶対に危険だから入るな、というメッセージが送られた。
大学の近くのファミレスに行くと、田中達が手を振って「こっち~」という風に合図を送っていた。
中村を除く4人で、今回の件について情報を共有したりして、危険だから入らないという結論になった。
中村も誘った方がよかったのではないかという意見もあったが、頑なに山に行こうとすることから、誘わなかったという。
その後は殆ど話すことがなく、飲み物だけを注文して全員帰路についた。
その時はまだ、自分たちがもう事件に巻き込まれ始めているのを誰も知らない。
翌日、いつも通り大学へ登校し、1限目の講義室へ向かったが、
そこには中村の姿がなかった。
みんな遅刻なんだろう、という軽い気持ちで話していたが、
聡一は胸騒ぎを覚えていた。
「なあ、本当に遅刻なのかな?」
「そうだよきっと」
「あいつのことだからそろそろくるだろ」
「そうだよな・・・」
どうしても胸騒ぎが収まらない。
もし中村が巻き込まれてたらと思うと気が気でならない。
時間が経ち、講義が始まったが、一向に来る様子がなかった。
「あいつ、山に踏み入ったかもしれんな」
井野が言った。
「気味悪いこというなよ」
河合は否定したが、彼もソワソワしてるのが行動から見てわかる。
「中村、ラインつながらねぇんだよ、さっきからずっとメッセ送ってんのに」
「そうなのか?」
「ああ、ちょっとやばいな」
1限目が終了し、次の講義へ向かう。
もし中村が巻き込まれてたらどうしよう、そんな思いが脳内を駆け巡った。
今日分の講義が終了し、一度グループの全員で集まった
「中村との連絡が朝からずっと取れないんだ。俺らで探しにいかないか」
井野が言った。探しにいくと。
「危険だろ、昨日もあれだけやめた方がいいといったじゃねぇか」
「友達が巻き込まれてるんだよ、無視できるわけねぇだろ」
「俺もだ、俺も探しに行くよ」
井野に続き、河合までも賛同した。
聡一はいつもよりも強めの口調でこう言った。
「探しにいかずにここは警察に相談するのが普通だろ、俺らで行って何かあったらどうするんだよ!」
「それだと遅いんだよ、もしかしたらもう誘拐されて殺されてるかもしれない」
と、河合は言う。
「物騒なこというなよ!誘拐されたと決まったわけじゃない!」
反論に負けず、さらに言い返す。
そうだ、まだ決まったわけじゃない。
「だったらなんだ?このまま放っておけってのか?俺には無理だ。」
井野は決めたように言った。
「俺は一人でもいいから助けにいくよ、ならお前らは警察に相談でもしておいてくれ」
その場から井野が去り、3人だけとなった。
河合が言った。
「俺も友達を捨てられないけど、警察に相談するのが先なのはわかってる、でもそれじゃ、遅いかもしれないんだよ・・・」
「そうだな、だがこの時間はダメだ、明日は休日だ。明日の朝になったら山に行こう」
聡一は提案した。
田中はしばらく行くのを嫌そうにしてたが、流れから彼も行くと判断したようだった。
明日の朝に行く旨を電話で井野に説明して、全員で明日の朝に山へ向かうことにした。
「各自、できるだけ装備を整えてくるように」
「おけ」
「はいよ」
挨拶を交わしてその日は解散した。