5月の終わりに
朝のニュースで予想最高気温が29度と言っていた5月後半の週末は、夏と言っていいほど暑くなり、実際はもっと気温は上がっているはずだと感じさせた。
カーポートのない駐車場に置かれた車の室内温度は一体何度になっていたのか、亘がドアを開けた瞬間熱気が一気に逃げ出していく。それでもまだ残る熱を吹き飛ばすため、ドアを開けたままエンジンをかけ、エアコンを21度に設定し最大の風力で車内を冷やす。室外温度を確認してみると34度と表示された。送風口からはゴーと唸りを上げながら、温かい空気から冷たい空気へと変わった風が吐き出されている。
熱気が多少逃げ出した所で車に乗り込み、妻である由美子が来るのを待っていた。無意識に触ったハンドルはまだ熱く、一瞬で手を離す。真夏になれば必須のフロントシェードも、まだ5月だということで油断していた事を亘は後悔した。
5分程して車内の温度も下がってきた所で、由美子が車に乗り込んできた。夫婦2人で車に乗る事など殆んど無くなっていたため、久々のドライブのようであったが、それは酷く心地の悪いものだった。
その最大の原因が亘にあるのは、亘自身承知していたものの、この場をどうやり過ごせばいいのか全く良案が思い浮かばないまま車を発進させた。取り敢えずかけた音楽は、長女が入れていた曲で、よりによって失恋ソングであったため、慌ててFMに切り替えた。
由美子の方はというと、特に気にする様子もなく携帯をいじっているだけだった。
高校2年になった長女の愛莉は、友達と遊びに行くと言って出掛けて行った。いつも以上にメイクに時間をかけ、昨日買ったばかりのスカートを履いてくるくる回り、ヒラヒラとさせながら上機嫌で出掛けて行く後ろ姿には、デートと書いてあるようにしか見えなかった。
年頃であるのだから、別にデートだとハッキリ言えばいいものを、母親があまり良い顔をしない事を知っている愛莉は、きちんと告げる事はしなかった。
ご機嫌な愛莉と共に、中学2年になった長男の大翔は部活と言って出ていった。
子供達の行動は、1人で勝手に出掛けられるようになってからは、完全には把握しきれなくなっていた。各々に携帯を持たせ、誰と何処にいるのかを確認するくらいで、それを信用するしかなかったが、父親である亘が最大の裏切り者だったなどとは、由美子には思いもよらない事だった。
なぜーーー。
それを明らかにするために、車は走り出していた。