Opening
―――それは、とても明るい満月の夜だった。
だが、いつもとは違う―――緋い緋い満月だった。
ガタンッ。
そんな中、誰もいない不気味な墓地で音がした。
ガタガタガタガタ…。
その音はだんだんと大きくなり、最後には
“ガッタン”
と音をたて、静かな墓地に響かせた。
そこにあったのは―――棺桶。その棺桶から出てきたのは、人―――いや、
人の生き血を吸う者、吸血鬼だった。
そして、その吸血鬼の周りにも同じような棺桶があった。
それらも同じように開き、同じような姿―――黒い服、紅い眼、顔や服の露出している所のあちこちの傷、そして、尖った耳に牙をして棺桶から出てきた。
緋い満月―――。それは、吸血鬼の晩餐会の合図。
墓地は、気がつけばさっきの静けさは消え、木々たちがざわついていた。さらには、吸血鬼たちの周りにいる羽をばたつかせている大量のコウモリの群れの音が入り、
静けさは完全に消えた。
「おはよう。今日も私たちの食事を邪魔しにきたのかな?“裏切り者さん”」
最初に起きあがった吸血鬼が目の前のコウモリに言った。だが、彼はコウモリに言ったのではなかった。
「おや、とうとう僕は“裏切り者さん”になってしまったんですね〜。」 それは、コウモリの後ろの木々の間にいたのは、人―――いや、
彼らと同じ吸血鬼だった。
だが、彼らとはだいぶ違う。
耳と牙は彼らより尖ってなく、眼は、透き通ったような蒼、服は彼らと正反対の白を着ていた。
そして、彼にも黒い彼らと同じように仲間が木々の間から出てきた。
「ほぅ〜仲間を連れてきたのか?…って言っても、お前の仲間は全員“人”だろ?」
そう言うと、黒服の主は自分の牙をむき出しにした。そんな、光景を目の当たりにしたとしても、白服の主は『ニコニコ』と笑っていた。
それもそのはず―――。
彼はもともと黒服の彼らと仲間だったのだから彼らのことは知ってるも当然だ。
「失礼ですねぇ〜。彼らも貴方の仲間ですよ。…ただ、貴方に愛想が尽きてしまったようで―――もちろん、僕もですけど……」
その時、話の途中だというのに、黒い主が凄い速さで白い主に牙をむき出しにし、向かっていった。
だが、白い主は軽々とその攻撃を横っ飛び避けて、言いかけていた言葉を発した。
「ねっ」
そして、白い主はまるで猫のように、“スタッ”と着地した。
「!?」
“つぅー”
それと同時に、白い主は何かが顔をたれ流れているのがわかった。
血だ。
白い主はそれを拭うと同時に、前にいた黒い主は“にっ”と笑い、口に付いていた血を舐めた。
「…どうしたよ。俺達が寝てる間、体が鈍っちまったのか?この前より、動きが鈍いぜ。クロノ・クロス」
「…そうですかね?僕は、そんな風には感じませんがね。まあ、僕は街の人たちに『貴殿方を殺れ。』と言われているんで。…それより、さっきの攻撃は何なんですか?貴方も、寝ていたから、体が鈍くなってるんじゃないですか?ガイラル・スカー。」
そう言うと、白い主の眼のいろが気がつけば蒼から緋に変わっていた。
「へっ、お前よりかはましさ。人と同化したお前よりかはなっ!…まぁ、その眼を見る限りだと、まだ吸血鬼の血は流れているんだな。」
「あたりまえじゃないですか。もともと、貴方の元にいたのですから。けど、吸血鬼は傲慢欲深いですねぇ?本当はこんな血は僕には要らないのですよ。…まぁ、今日は仕方ないのですが。」
「そうか…残念だな。これが、お前の最後なんてな。」
「貴方の最後かもしれませんよ?」
「へっ…」
そして、これが彼らの最後の言葉の掛け合いだった。
「さて……。」
「さぁ……。」
“ジリジリッ”
「「最後の晩餐と行きますか!!!」」
二人は、お互い構えると同時に叫び、二人が連れる互いの部隊が戦いを始めた。
―――真上にある大きな大きな緋い月の光を受け、吸血鬼たちの戦いが始まった。