第3話 変革を呼ぶ者
5月15日。春人は全国魔法師ランク昇格トーナメント戦、通称ランク昇格戦に出場する為、職員室へと足を運ぶ。
ちなみに青葉の方は同ランクのAトーナメントに出場する許可を、既に担任の神道先生から貰っている。
コンコンコン・・・と春人は戸をノックし、襟元のネクタイを軽く整える。
「入れ」
誰だか分からないが渋い声の男性教師から了承を得た為、戸に手をかける。
「失礼します」
ガララと音を立て戸を引き、入室する。
「学年、クラス、名前は?」
渋い声の主は強面で有名な教頭だった。名は何だったか春人は忘れていた。
「1年B組、木山春人です」
「用件は?」
「全国魔法師ランク昇格トーナメント戦のエントリー許可を頂きに来ました。神道先生はいらっしゃいますか?」
うむ、と強面教頭は頷き春人に背を向けた。
「神道先生!1年B組木山がランク昇格戦希望です」
「はい。すぐそちらに向かいます」
やや早歩きで春人の方へ向かう。
「場所を変えましょうか」
「はい」
春人は神道先生先生に連れられ別室へと移動する。
向かった先は生徒指導室。春人は何か悪い事をしてしまったのか、つい考えてしまった。
「で、木山君。どのランクに出場するのですか?」
(言いづらいな・・・)
春人はそう思いながらも心を決めた。
「SSランクにエントリーしたいと思うのですが・・・」
それを聞いた神道先生はそれといった表情は見せず、しばらく数10秒程沈黙が続いた。
「あ、あのー・・・」
「いいでしょう。と言いたいところですが、恐らく上の者が許さないでしょうね、これは本校の名誉にも関わる事ですので」
やはりそう簡単に許可は貰えなかった。
春人も諦めるしかないと思い始めた時、神道先生の口が開く。
「私が上の者に話を通してみましょう。もしかすると許可を頂けるかもしれません」
春人は正直ここまでしてくれるとは思わなかった。春人が学生を送ってきた中でここまで良くしていくれる教師はいなかったのだから。
どの教師も優秀な者を褒め、能力を伸ばそうとする。弱者には目も向けもしない。優秀な者の邪魔だけはするなと言われ続けた。
「どうして俺にここまで良くして下さるのですか?」
春人は思わず聞いてしまっていた。
「私は圧倒的格差があるこの世界が嫌いなのですよ」
(同感だ・・・)
春人も少なからずそう思ってはいた。思ってはいたが考えない様にしていた。
「魔法能力に差があるのは仕方がありません。しかし、何もかも魔法能力で決めてしまうのは許せないのです。進学、就職、成績、給与、そして・・・」
神道先生はメガネをくいっと上げ、強い眼差しを春人に向けこう言った。
「地位」
春人は神道先生から憎悪や怒りの類を感じ取った。余程この世界を憎んでいるのだろう。
「私はこの世界を変えたいと心から思っています。しかし、SS1ランクである私でもどうする事も出来ませんでした」
ドンッ。と神道先生は机に拳を殴りつける。
「私は私ができる事をしたいのです。だから木山君にも私ができる限りの事はしてあげるつもりです」
「ありがとうございます。俺もこの世界はおかしいと思います。俺も俺ができる限りの事はしていきます」
「瞬間最大魔力放出量SS∞級・・・。木山君ならSSランクにエントリーしても勝てるかもしれません」
「どうしてそれを!?」
神道先生は笑顔を見せながらメガネのレンズをコンコンと叩く。
「神道先生は本当にいい先生ですね。生徒1人1人をよく見てる証拠です」
春人は立ち上がり、すっと頭を下げる。
「俺の無茶な要望を聞いて下さりありがとうございました」
春人は生徒指導室から出ようとする。
「最後になってしまいましたが、勝つ算段はついているのですか?」
春人は背中を向けたまま、少し顔を神道先生の方に向ける。
「もちろんです」
そう言って春人は生徒指導室を去っていった。
「やはり、私の目に狂いはなかった様ですね」
神道先生は少し笑みを浮かべ、窓の外を眺めた。
お読み頂きありがとうございます。今回は少し、この世界の状況について触れてみました。
次回もお読み頂ければ幸いです。