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不死身の亜人は眠らない  作者: 虎鼓
1章 不死の自覚
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新たな旅立ち




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




木に叩き付けられ、意識を失ったダッチマンを縛り上げフラフラとラルフの元へと近付いて行くと、ラルフはこちらを気遣う事なくアリッサを救出していた。


アリッサは、村での出来事や目の前で起きていた出来事に不安を募らせ続けその反動からかラルフに泣き付きそれをラルフが優しく抱き締めていた。


正直、嫉妬さえも忘れるほど絵になる映画のラストシーンのようなその光景にハルトは見入ってしまっていた。


……ラルフぶっ飛ばす


ハルトはボソリと呟き、自分の活躍を無かったかのように二人の世界に入っている二人に体の負傷を忘れハルトは全力で走り出した。



もうひとつ、忘れていた事があった。ハルトは全力で走り出した体が重くなり足が止まった瞬間に思い出した。


ダッチマンを倒す為に用意した秘策。


体に巻いた"ヒッパリ草"の存在を


一度吹き飛ばされ、虚勢を張っていた時にヒッパリ草が目に入っていた。


小屋で嫌と言うほど見たその蔦と数時間だがひたすらに三つ編みをさせられた経験。

元々居た世界でも毎日同じ様な作業を淡々とこなすだけの仕事で、指の器用さも必要とする仕事をしていた為、ハルトは卒なくこなす事が出来ていた。



ハルトにとって、数時間も同じ事をこなせば人並以上には出来てしまう。


ただ、小屋での仕事はやる気もなくノルマ等も無かった為にサボっていただけだった。


しかし、今回の作戦では話が違う。

ダッチマンの気がラルフに行っている数十秒でヒッパリ草のトラップを仕掛ける必要があったからだ。


近くにあったヒッパリ草を数本手繰り寄せ、大きめな木に3周ほど巻き付けた後は、村の職人達も驚くような速さで編んで行った。


ただ、ダッチマンの発見が予想を遥かに上回る速さだったのが誤算であった。


本当は、服の下にでも隠しておきたかったのだがそれも出来ずに体に巻き付けるだけになってしまった。



逆に、運が良かったのはダッチマンがヒッパリ草のようなマイナーな植物を知らなかった事だった。


荷台の荷物を縛り上げるのには、基本この世界でもロープのようなものを使用しているし、ボスであるダッチマンが直接荷物を奪うような行為をしていなかったのも知らない原因となっていた。


その結果、行動が遅れダッチマンは敗北への道を自ら歩んでしまった。



走り出した後、ヒッパリ草に引っ張られ無様に転がされたハルトの視界にはまた、見慣れない旗を掲げた馬車がこちらへと近付いていた。







「ダリス・ダッチマン一味の討伐及び、捕獲への協力大変感謝する。奴に掛けられていた懸賞金の受け渡しはここから近い、メディックでの受け渡しになる。これを渡せば受け取れる。」


そう言って手渡されたのは、鉄で出来たカードの様な物に"国防"と文字が刻まれており、その上に女神と数字が刻まれていた。


「お前、えらく服がボロボロだが傷は無いようだな。まさかとは思うが、魔人や亜人なんて事はないよな?」


鎧に身を包んだ兵士が、怪訝そうに尋ねてきた。


「…─まさか!」


あまりの動揺からか不自然な返事をしてしまったハルトに冷やかな目でラルフは視線を送っている。


「ならば、良いのだが。いや、二人でダッチマン一味を捕らえた様に見えたものだからてっきりな。」


「他の人達は、傷の手当てもあるし先に帰ってもらっただけですよ」


と、ラルフが無難なフォローを入れてくれた。……のだが


「おい!そこの亜人ども!絶対許さねぇー!覚えとけよ!!」


と、ダッチマンが兵士に連行されながらの最後の口撃を仕掛けて来た。


「おい、ダッチマンはああ言っているが…」


「まさか」

「まさか」


二人は苦笑しながら、同時にぎこちない返事を返す事しか出来なかった。



国防軍へは、村の人が連絡を入れてくれたらしい。



速いのか遅いのかそれはわからないが、割とベストなタイミングだったと亜人の二人は胸を撫で下ろした。


連行されて行く列の中で、一際目立ったのがダイナモだった。


体の大きさがではなく、アリッサがダイナモに話し掛けていたからだ。


黙って俯くだけのダイナモにアリッサは優しく語りかけた。


「この世界であなたは忌み嫌われ皆に避けられ、それでも誰かに必要とされた結果奴隷へとなったのかもしれません。」


「亜人である事が罪なのではありません。それを受け入れられず、逃げて遠ざけ虐げたあなたのその心が罪なのです。」


「あなたの犯した罪は消える事はありません。それでも、罪を忘れずその罪を償う事をやめないのならば、世界があなたを許さなくても私と神があなたを許します。」



ありふれた言葉と確証の無い宗教と言う存在


正直、昔から近いようで遠くにあった宗教があまり好きじゃなかった。

たまに家に押し掛けて来るような奴等を宗教の全てだと思っていたからだ。


でも、今は兵士の言葉や亜人かも知れないというだけで向けられたあの目付きや態度。


亜人である自分を認めてくれる存在に感慨深い物を感じていた。


隣にいたラルフも俺と同じか、いや多分俺以上に自分を認めてくれる存在に心震わされるのだろう。



『やっぱ、亜人だったんだな。それも、人狼種ってやつか?』


『あぁ、信用出来ないお前にはまだ言えなかった。それに、兵隊の態度でわかったろ。亜人に対する態度なんてあんなもんさ』


近くの兵隊に気付かれないように、念話で会話しながらこの世界の風潮に少しだけ寂しくなった。


連行される列の中では、ダイナモがその大きな体に似合わない、小さな小さな涙を溢していた。




「あの、少ないですがこれであの方の証を消してあげては頂けないでしょうか?」


兵隊は、アリッサから手渡された小袋の中身を確認した後

「わかった」


と、だけ告げて乗ってきた馬車の方へと歩みを進めて行った。



「証ってなに?」


いつものように、わからない事をラルフに投げ掛けた。


「ん?あぁ、主従の証の事か。お前は見てなかったのか?ダイナモの背中にあった紋章の事だよ。」


ラルフは、戦闘の最中にダイナモの背中の模様に気が付いていた。

それが、どうゆうものなのかも


「主従の証ってのは、文字通り主従関係を結ぶ為の印だ。双方の同意のもとあの証を体のどこかへ刻むんだ。その大きさで二人の関係をより強いものに変えるもんだ。」


「その証を刻んだものは、主に対して絶対の忠誠を誓わされると共に、裏切ったりの行動は出来なくなる訳だ。ダイナモの背中に大きな証があった。多分、意見さえも言えないぐらい束縛されてると思う」


「主従の証なんだろ?なんか、言い方が悪いものみたいに感じるんだけど」


ラルフの説明は、少し悪意を込めた言い方だったのをハルトは不審に感じ、その意味を確かめる為の質問を投げ掛けた。


「主従の証なんてのは、表向きの呼び名だからな。皆は、あれを奴隷紋って読んでる。双方の同意なんてあってないようなもんだし、大きな紋章を付けて自分に絶対に歯向かわないようにする為の紋章だ。」



その話の信憑性は、さっき感じたこの世界の風潮からもはっきりとわかった。


「終わってるな、この世界」


「皆怖いんだろ。それを、力で縛り付けて利用はしたいって心が終わってる。」



近くから、兵隊がいなくなってからは亜人であることを隠す事ない会話がしばらく続き、この世界に初めて来たときの全てのものが綺麗に見えた世界は、ハルトの目には少しだけくすんで見えた。






「もう行ってしまわれるのですか?」


アリッサは、寂しそうに答えの決まっている質問をこちらにしてきた。


「はい。正直、アリッサさんと離れるのは相当辛いんですが、もっと世界を見て回りたいし。」


「俺もずっと世話にはなれないし。それに、メディックで懸賞金も受け取らないといけないし。」


ラルフの言葉にハルトは、違和感を覚えた。


「おい、なんで懸賞金受け取るつもりなんだよ。倒したの俺だからな!」


「は?じゃあ、一人でメディックまで無事に行けるのか?」


「─ぐっ……お、お願いします……」


ラルフに、良いように言いくるめられ渋々と了解させられた。



「じゃあ、そろそろ行くか。」


「じゃあ、アリッサさんまた絶対に来ますから。待っててください!」


「はい、心待ちにしております。」


そこに、バングのおっさんもやって来て

「じゃあな!また、いつでも仕事しに来いよ。」


「あんな仕事2度とするか」


と、悪態を付きその場の寂しい空気を少しだけ和ませた。

ただ、下品な笑い声で笑うおっさんの声は今日は少しだけ元気がなかったように感じた。



「それじゃあまたー!」


寂しさを吹き飛ばすように元気な声で別れを告げ、初めての町を背に、新たな場所へと進む足取りは軽やかなものだった。



「あぁ、腹減ったな。お前再生するだろ?絶対不味いだろうけど、ちょっと肉食わせろよ」


「は?町まで我慢しろよ。町に着いたら人狼化したテメーの汚い毛皮剥いで金作ってやっから」


「はァ?」

「あぁ?」



「もぉー、あの二人また……」

二人を見送るアリッサは、この二人の楽しい口喧嘩におもわず小さく微笑んでしまった。





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