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不死身の亜人は眠らない  作者: 虎鼓
1章 不死の自覚
8/16

VSダッチマン~2~




ダッチマンは、少しだけ焦ったがなんてことはない。いつも通りにやるだけだと自分を落ち着かせた。



移動する際や、どこかの貨物を襲う際は圧倒的に人目の少ない山や山道や峠などの場所が多い。


貨物や馬車を襲う時には、護衛に亜人や兵士を雇う所も多く、それらを相手する事も少なくなかった。

それにたとえ、山賊だとしても道中や最中に魔物に襲われる事も少なくなかった。


だが、ダッチマンは生きている。

それは、その全てに敗北しなかった事を意味する。


たかだか、亜人の一匹が本気で襲って来たところでダッチマンは慌てるような男ではなかった。


だが、今回のようなことは始めてだった。


ダイナモのフルスイングを食らいながらも、立ち上がりこちらに悠然と歩みを進める男に多少の恐怖を感じていた。


いつもの、必勝の定義が始めて崩された瞬間だった。


幻影や分身の類いか、それとも亜人や魔物故の身体の構造の違いか、答えは見つからないままに、戦闘は続いてしまっている。



やるしかない


殺るか殺られるかの世界で生きている男に、迷いや動揺が合ってはならない!


自分の持てる武器で闘う


《スキル:危険察知》


盗賊・山賊として、長く暮らす間に身に付けたスキルの1つである《危険察知》視界に入る自身に取って危険な物に対して青から赤までの色でその危険度を知らせてくれるスキル


赤に近付くにつれて、非常に危険な物となる。

ただ難点なのは、危険の度合いがわかるだけでなにがどう危険なのかがわからない事だが、今のような状況では相手の強さを知る方法として活用するだけで大いに活躍した。



「狼男は、オレンジでさっきのゾンビやろうは…

フハッ、やっぱり真っ青じゃねーか。恐れる必要もねーな」


オレンジは、ダッチマンに取って個人で勝てはしないがダイナモさえ居ればどうにかなるそのレベルの認識で、青に至っては小動物となんら変わりない程度にしか感じていない。


ダッチマンの口元が、少しだけ緩むとハルトに標的を絞った。


「二人の関係を見るに、人質にもなりゃしねぇーだろうが不気味なのには変わりない。早めに潰しとくか」



危機察知の示す方向には、森が広がるばかり、距離も10数メートルはあった。


森に潜み一撃を狙う


シンプルだが、格上の相手には常套手段だと言える。


だが、見つかってしまえば仲間を敵の真ん中に置き去りにしつつ自分はなにも出来ないただの案山子と変わらない。



こっちの狼男も、なんとか抑えられている。


勝った


ダッチマンは、静かに勝利を確信した。


《捕縛》を避ける事さえ出来ないあのゾンビやろうにトドメを差しそのまま、狼男を殺る!



頭の中では勝利の方程式は出来上がっている、後はそれを遂行するだけ


危機察知を解除しハルトに向けて《捕縛》を発動した。


それを察知したのか、しゃがんだ体制から近くの木にハルトは近付きしがみついている。


視線の先には、木に必死にしがみつく哀れな男の姿があった。

おもわず、その滑稽で無様な姿に笑いが込み上げて来そうだったがダッチマンの《捕縛》の手は、ガッチリとハルトの体を掴んだ。



木ごと掴まない様に、体のみを掴んだのはハルトの考えを読んでいたからだ。


所詮、木ごと掴ませ木もろともこちらにぶつかってくる特攻だろう


それを前に試した馬鹿が居たが、普通の人間と能力では圧倒的な差があり、それこそ同じ能力を使って張り付く等しなければ引き剥がされてしまう。


万が一の能力対策にダッチマンは、ハルトを全力で引っ張った。



例に漏れず引き剥がされたハルトもダッチマンに全力で引っ張られて物凄いスピードでダッチマンへと近付いて行く。


勝利を確信して男は小さくニヤリと笑った。


ダイナモは、ラルフと交戦中

ならば近付いて来る身動きの出来ない男に剣を突き刺して終わる。


ダッチマンは、ラルフを倒す算段を既に立て始めている。

その顔には、笑みの1つもなくむしろ険しい顔だと言えた。


ダッチマンは、ハルトの滑稽な姿を見た後から笑ってはいない。

ニヤリと笑った男は、これまでの事を考察し1つの結論を導きだしていた。



なんで、遠くにいた自分を最初に狙ったのか

山賊一人にも勝てない自分にわざわざ能力を晒け出すメリットなんて少ないはず


そして、またボロボロの自分に狙いを定めた。

運良く交わせた後、捕縛の手は後ろの木を殴った

その時には、ダッチマンの周りには仲間も居た。


そして、こっちに近付いて来ていたラルフに狙いを定めた事もだ。

普通なら強者に向けて一番最初に使うはずだ。

避けられた時に必死に仲間に自分を守らせた事も引っ掛かった。



あくまで全て仮定にしか過ぎないが、ダッチマンは近くの相手に能力を使いたがらない。


最初に近くにいたラルフに使わなかったのも、避けられた時のデメリットが多すぎたからだろう。


なら、今の状況で狙われるのは俺のはず



ダッチマンは、ハルトに能力を使いながらも気にも止めていない。

あくまで、ついでのようにハルトを殺すだけ


こっちに来たら、殺して即ラルフに対応するためだった。



ダッチマンの計画は全て近くに"来れば"の話だった。



直後ダッチマンを襲ったのは、違和感だった。

自分の数メートル手前でハルトが止まったのだ。


なにをしたのか、なぜ止まったのか思考が推測を始めた瞬間、ダッチマンの体は今起きている事を考える時間を与える事なく宙に浮いた。


理解の出来ないままに、ハルトを見ると体と腕から紐のような物が伸びているのに気付く。

それが、なんなのかを知る術がないままに宙に浮いたダッチマンとハルトの体は加速していく。


ほんの数秒思考停止していただけで、ダッチマンとハルトの速度は100キロ近くまで上がっていた。


高速で景色が流れていく中、ダッチマンはやっと正常な思考にたどり着き捕縛の手を離そうとしたがハルトは読んでいたかのようにその手をしっかりと捕まえている。


「がぁぁああああ!!!」


言葉にならない声で叫ぶダッチマンは、もはや自分が何故、宙に浮いているのかを考えていた事さえも忘れハルトの仕掛けた文字通り決死の作戦の前に為す術などなかった。




ハルトの作戦

正確には、作戦と呼べるほど立派なものではなく、単純により強い力で引っ張り返すだけというお粗末極まりないものだった。


ハルトは、ある仮定を建てていた。


1つ目に、能力の使い勝手

相手に向かって真っ直ぐにしか伸びて行かない手に対して自由度の低さを仮定していた。


力加減も難しく、ゴルフのアイアンのように距離と力加減がリンクしているのではないのかと

最大20メートルほどなら、一番合わせ易い最初の位置関係で狙うまでもない自分を真っ先に狙ったのも辻褄が合う。



2つ目に、発動と解除の条件

これも、近くで捕らえたいはずのラルフを無視してでも自分を狙って来た事から仮定した。


何故なら、避けられた後すぐに解除すればいいものを手元に戻って来るまでダッチマンは捕縛の手を解除しなかったからだ。

それに、ラルフを狙った際は必死に仲間に自分を守らせた事から一定の距離まで引き戻さなければ解除出来ない事を意味していた。



3つ目に、能力の限度

素早く強いラルフに対して一か八かの片腕での、攻撃は返って自身を危険にする他ならない。


もし、両腕で攻撃出来たのならば最初から両腕で攻撃するか時間差で攻撃すれば良いものをダッチマンはそれをしなかった。


この3つが、もし正しければダッチマンは

片腕づつしか攻撃出来ず

近い距離への発動も出来ない。

おまけに、外してしまえば一定の距離まで手を戻さなければ解除も出来ない。



ハルトが、この仮定を組み終えた時ひとつだけダッチマンを倒せるかも知れない方法が思い付いていた。

不死身でなければ、決して思い付かず絶対に実行出来ない作戦を



一方で、ダッチマンが宙に身を投げ出した頃

ラルフとダイナモの戦闘も終わりを迎えようとしていた。


それはただただ呆気なく、ダッチマンに意識の行っていたダイナモの背中にラルフが爪での一撃を加えた所でラルフはあるものに気付いた。


裂けた服の隙間から背中に見えた紋様の様なものにラルフは見覚えがあった。

(……この紋様って確か─…)



ダメージは、大したことはなかったがダイナモは反撃を見せる素振りなどは見せなかった。


それは、ダッチマンの末路へと意識が集中していたからだろう。



強力な力で引っ張り返されたダッチマンは、為す術もなくハルトと共に木々に叩き付けられた。

能力持ちであっても、発動系のダッチマンの能力では体はただの人間と変わらない。

不死身のハルトとでは、同じ様なダメージを受けた場合ハルトに軍配が上がった。

木々に叩き付けられ立ち上がる事さえ出来なくなったダッチマンを見下す様に見つめながら、フラフラとハルトは立ち上がりラルフの方に目をやると


ラルフは、倒れた数名の山賊の真ん中で倒れたダイナモに座る様に腰掛けながら余裕そうにこちらに手を振っている。


初めての戦いはハルトだけボロボロになりながらも辛勝し、ラルフは余裕の勝利を収める形で終結した。






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