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不死身の亜人は眠らない  作者: 虎鼓
1章 不死の自覚
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必死の鬼ごっこ

 




 じょ、状況確認!!



 工場でも異常が発生した時の基本!


 なにが起こったのか、どこで起こったのかどうなったのかを分析する。



 えっと、確かいつものように出勤してて…そこで、事故に遭って…それで、変な女の声が聞こえたと思ったら森で寝てたんだ。



  そうかそうか


 うん、全然わからん…

 いやいや、いや、他にもなにかあったろ


 えぇーッと…


 あっ!確か、【転生】とか言ってなかったか?


 待て待て、待てゲームとか漫画じゃないんだ。あり得ないだろ!

 あれか、夢のパターンのやつか…


 自分の頬を力一杯つねってみる。



 痛ッた!!!くはない……気もする……


 曖昧なその感覚も、頭によぎった魅力的な言葉達によって自分が望む夢では"ない"という決断に至った。


 と、同時に気付いた時にはサッカー選手ばりのガッツポーズを決めていた。



 来たッ!!

【転生】【異世界】【未知の生物】

 その、可能性に居ても立っても居られなかった。


 と、と、とりあえず落ち着け。

 まず、周りの確認と持ち物


 森……それ以外に当てはまる言葉がない。

 「なんだよせっかくすげー世界に来たと思ったのに、ここに興味なくなっちゃうよ」


《森:森》

 うん、森だよね森だ。森以外なにものでもないよな・・・え!?誰!?


 突然頭の中で聞こえた声に変なツッコミを入れつつ周りを見渡してみたがやはり誰もおらず、木々が所狭しと生い茂っているだけだった。


(え?さっきのはなんだったんだ?)


 次から次へと起こる事態に正直思考が追いついて行かなかった。


 とりあえず、さっきの謎の声について調べようにもなぜ聞こえたのか、どうやって聞こえたのか、どうして話しかけられたのか。そのすべてが謎のままではどうすることもできなかった。




 うん、持ち物の確認をしよう

 気持ちを切り替えて荷物の確認を始める。



 持ち物は、リュックと携帯と財布

 携帯は電源が切れており、起動もしない。

 使い道は投げてぶつけるぐらいしか無いな…



 財布の中身も同様。


 小銭とか、ポイントカードを投げるぐらいにしか使えない。

 お札に至っては、数枚の野口さんがなにかを悟った顔でこちらを見つめている。


 何度も見たその顔が少し違って見えるほどに舞い上がり、おかしなテンションのまま、リュックの中身も確認する。



 中には、メモを取る用の小さなノートと数本のボールペン。

【激美味最強緑茶】と書かれた別に美味くも無いお茶。


 一体、なにが最強なのか─…


 てか、良くここまで自分達でハードル上げたな

 まあ、それに惹かれて買った俺も俺だけど…



 それと、7年前の若かりし頃の希望に満ち溢れた俺の顔写真の横に【天城 晴斗ーAmagi Harutoー】と名前の書かれた自分の社員書が入っているのみだ。



 使えそうな物はなさそうだな…



 てか、今更だがすげー苦しい。その事に気づかないときはなんともなかったが、いざそれに気付くと今までどうやって息をしていたのかさえもわからないほどに苦しい。


 舞い上がってて気付かなかったけど、色々と体にも異変を感じる。



 まず、この息苦しさ。

 昔、学校の行事で富士山に登ったけど、その頂上付近と似た息苦しさがある。似たものはあるがそれとはまったくの息苦しさだ。一体なんなんだこの感覚は…



 それと、身体にも異変がある。

 風邪を引いた時に似た怠さと身体の中が熱い気がする。


 (そりゃ、森で寝てたら風邪も引くか…)

 曖昧な理由をそれとなく決定付けたが、そんなことは大きな問題ではなかった。


 適当に拾った木の枝を振り回しながら森の中を進む、まるで探検隊になったような気分で進んで行くと遠くの方で木々を揺らす様な音が聞こえた。



 近くに何かいる!

 ドキドキとワクワクで、胸が一杯になる。


 もし、ここが異世界ならスライムやゴブリン、妖精やエルフだった日には……




 いたぁ!第一生物発け──…


 目の前にいたのは、多分この森のボスであろう二本の立派な角が生えた巨大な恐竜の様な生物。



 大きなギョロッとした目でこちらを、一目するとその大きな体をこちらに向けようといている。



(ま、まじか…なんなんだよ…なんなんだよコイツは!!)

《ドラゴン:ドラゴン》


 またあの声だ、だが今そんなことを考えている余裕なんて少しもなかった。目の前にいるドラゴンドラゴンが体を反転させこちらへと一歩を踏み出したからだ。


 「てゆーかドラゴンドラゴンってなんだよ!!ッざけんなーーー!」


 叫びながら振り向き全力でその場から離れる。



 高校時代以来の全力疾走で走り出し、頭の中では警報が鳴り響き命の危険を告げ続けている。



 あれから、しばらくの間人生で一番過酷であろう本気の一方的な鬼ごっこが続いた。


 足元は苔や枯れ葉、目の前には生い茂る草木や枝が行く手を拒む。

 水溜まりで地面はぬかるみ、何度も滑って転けたりしながらも必死で走った。今の状況は鬼ごっこには最悪のシチュエーションだった。



 だが、必死の鬼ごっこの最中にも関わらず、周りが気になって仕方がなかった。


 視覚に入る分だけの森の観察をしていると色々なことがわかった。




 まず、ここは多分日本じゃないこと


 いや、日本のどこかの森に新種の生物や未確認生物が大量に発生しているだけかも知れないが多分それはないだろう。



 なんせ、ギザギザな角が4本ある鹿に腕の6本生えたゴリラ。


 他にも、人間サイズの昆虫に神々しい馬のような生物。


 最後の馬に関しては後ろの恐竜がこの森のボスどころかヤツにとって餌か暇潰しの相手にしかならない存在だと確信出来るようなオーラを纏っている気がした。



 だが、こんな絶望的な状況でさえハルトの顔には笑みが溢れていた。



 まだ見ぬ世界


 胸をときめかせるような異形の生物


 おどろおどろしい木々でさえ世界を彩る装飾のように感じる。




 心が踊るような展開に、ここで目覚めた頃の息をするのも苦労するような感覚と違い、不思議と息も上がらない。


 だが、一進一退の鬼ごっこも終演を迎える時が来た。



 木々に囲まれた薄暗い森に光が入り込んでいたからだ。


 やっと抜けられると思う気持ちとこの森をもっと調べたい気持ちは、目の前の光景に徐々に絶望へと変わっていく。




 目の前には、元々平地だったものが何かによって、大きく抉り取られたかのような崖とそこに拡がる多大な樹海。


 水平線まで続く樹海の事よりも逃げ場が無くなった重大性に思考を割かれた。



「大丈夫、大丈夫、大丈夫!!」



 根拠の無い自信ではなく、自分自身に無理矢理言い聞かせる為の言葉もその崖の高さの前には虚しく木霊するだけだった。




 ここで、漫画の主人公なら右手に見覚えの無い紋章が浮かび上がったり、【…力が欲しいか?】とか謎の声が聞こえたりするのだろうけど、もちろんそんな事は起こるはずもないし。


 何よりもう数メートル先には死の淵が大きな口を開けて待ち構えている。



(行くしかねェー!)



 先程の笑みは完全に消え去り覚悟を決めた男の顔は今まで見せたことのない表情だった。



 歩幅を徐々に大きくしリズミカルなステップと共に晴斗は、どこかで聞いた決め台詞と共に大空に身を投げ出した。




「アーイ キャァーン フラー……」



 地面から両足が離れた瞬間、思い出した。


 まだ、見たことの無い世界に文字通り浮き足だっていたことを。


 心のどこかで、自分は大丈夫だと少しだけ信じていたことを。


 今までの人生で自ら死に向かい歩んだことがないことを。




 死の恐怖を目前にして、少しだけ冷静になった晴斗には今の自分がなにをしているのか理解するのに数秒も掛からなかった。



 せっかくの決め台詞も最期には悲鳴に変わり、多分人生で一番格好良かった顔も恐怖で引き釣る。


 落ちてゆく風圧によって今では人生で一番不細工な顔へと変形していた。







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