ある会社
新人研修が終わって仕事と職場に少しずつ慣れてきたある日、何人かが上司に怒られていた。
「こらっ、佐藤! お前有給休暇を使ってなかっただろ!」
え、この会社、有給を使わないと怒られるのか。
「何のために30日支給していると思っているんだ? 全部使わせるためだろう! ちゃんと使わないか!」
「すみません、忘れていました」
有給は全部使わないと怒られるんだな、俺も気をつけなきゃ。
「謝罪はいらん、有給申請を持ってこい!」
謝罪する先輩に対してさらに怒鳴りつける。
謝罪じゃなくて有給申請を出すようにしないとまた怒られると。
これもメモをしておこう。
「それから田代! お前残業を20時間もしているじゃないかっ! どういうことだ!」
あ、残業代を払わなきゃいけなくなるって怒られる流れじゃないか、これ。
有給使えるかわりにサービス残業しなきゃいけないんだな。
「残業はするな、しそうになったらちゃんと周囲を頼れ! 残業しそうな奴がいたら皆手伝え! サービス残業は絶対するな!」
「は、はい。残業してごめんなさい。ちゃんと周囲に相談しなくてすみませんでした」
田代さんという人が気弱そうに謝っている。
残業は禁止、サービス残業はもってのほかと。
「あと、山田! お前は何で休日出勤しているんだっ? 土日祝日はちゃんと休めよっ!」
土日祝日に仕事をしたら怒られるの?
でも事情があったんじゃないかなぁ。
「あ、それは先方が土日じゃないとダメだと言ってきたので、対応したんですよ。いけませんでしたか?」
「当たり前だっ!」
上司は事情を説明した山田さんを怒鳴る。
「うちは土日祝日は休みなんだよ! お前は休むべきなんだよ! それは譲るな!」
「え、でも柔軟な対応を見せないと契約をとれないと思いますが」
「そんな取引先、断っていいんだよ! 顧客ならどんな注文を出してもいいと思わせる必要はないんだよ!
まずは自分の健康を考えろ!」
「すみませんでした」
自分の健康を考えないと契約をとっても怒られる……メモメモ。
散々怒鳴った上司は水を飲み一息つくと、じろりと周囲を見回す。
「他の連中にも行っておくが、土日祝は休め、残業はするな、有給は使え、サービス残業しようなんて考える奴は爆発しろ。残業するヒマがあったら熟睡しろ。休日出勤するくらいなら家族サービスしろ。命は一つしかないし、人生は一度きりなんだから大切にしろ。仕事しなかっただけじゃ死なないが、休まなかったら死ぬんだぞ。分かったのかっ?」
「は、はいっ!」
皆慌てて返事をする。
必死にメモをとりまくった俺は、それがすむとある結論を出した。
なんだ、ここはホワイト企業なんじゃないか。




