6章 同行、って言われても
スマホの中で淡々と語られた話は、ユウゲンマガンの身を凍らせた。
話の内容は言わずもがな、何でも屋としての彼女への依頼だが、不穏な単語が並べられた事に何処となく緊張を感じたのである。ゼラディウス地下、秘密結社フィオム、ミサイル基地……たった数行の短い文の中、彼女を此処まで畏怖に包みこむのはなかなか出来ない。
右顧左眄、彼女の脳裏に戸惑いが生じたが、落ち着いて通話を臨んだ。
「……み、ミサイル基地の爆破?」
「そうです。…詳しい話はこちらからお話致します。
―――明日の午前9時、ゼラディウス国際シティセンタービルの29階、総合会議室へ来てください。其処で詳細をお話します。…勿論、応酬は相応のものだと期待してください。
……これは元プロメテイア・エレクトロニクス社の取締役であった、貴方だからこそ出来る仕事なのですから。では―――」
通話は此処で途切れ、スマホを耳から外したユウゲンマガンは虚無感に覆われた。
急に来た、何でも屋としての使命。其れは意外とあっさりしており、重厚感を持っていた。
スマホを懐に投げるように仕舞い、溜息を一つ吐いては電光が舞う夜空を見上げた。
其処には彼女の複雑な感情が示唆されてるかのように、多くの閃光が交わっていた。
「……私は明日、仕事が出来たようだ。
―――レイラには悪いが、もう宿屋を捜さないと野宿になりかねない。…じゃあな」
彼女は勝手に帰ろうとした。すかさずレイラはそんなユウゲンマガンの背中を掴み、引き留める。
引き留められた彼女はそんなレイラに気づき、再び溜息を吐いた。
レイラは勝手に自己解決しようとする元社長が気に食わなかったようで、彼女の失踪を許さないでいた。
「宿屋なんて、私がホテル代奢りますから!
だから、自己解決しようとしないで下さい!また失踪されては困るんですから!!」
◆◆◆
ユウゲンマガンは無理やりレイラに納得させられ、手を引っ張られる形で宿屋を捜した。
レイラが決めたのは、素泊まり可のビジネスホテルであり、無論今までユウゲンマガンが止まっていたような宿屋よりは何倍も豪華であった。
自信がホテル代を払えるお金を持っていない事は既往知っていた。だからこそ、若干怖くなっていたのであった。
「……なに心配してるんですか!いい加減、甘えるって事を覚えてくださいね!!」
「わ、分かりました」
レイラの威圧に押され、ユウゲンマガンもたじたじになってしまっていた。
そのまま手を引かれるように中へと入っていく。ビジネスホテルのフロントは端麗で、ソファが並べられている。大理石で出来た受付に、レイラはそのまま言っては「2名で」と簡潔に部屋を取る。
鍵を受け取っては、ユウゲンマガンの手を離さないままエレベーターホールへと向かう。
「ツインの部屋ですよ。社長を見張っておかないと」
「私は監視対象か」
「そうですよ。すぐ逃げ出してしまいますからね…。……其れに明日、私も同行させて貰いますよ」
レイラは当たり前のようにそう話したが、ユウゲンマガンは気が気じゃ無かった。
彼女は何でも屋として、機密事項は鉄則として他言無用の為、同伴がいると困るのであった。
ユウゲンマガンは非常に居心地悪そうな顔を浮かべては、エレベーターを待った。
「……其れは」
「私がいないと、どうせホテル代も払えないんですから。籠の中の鳥ですよ」
「……お前も術が上手いな」
ユウゲンマガンがレイラの策を褒めた時、エレベーターホールには鈴の音が綺麗に響き渡った。
そして2人の前に開く、エレベーターのドア。彼女たちは其れにそそくさと乗っていく。
他愛もなく、エレベーターは無常感の中で扉を閉めた。2人は肌身で上へ昇っていくことを感じていた。