5章 偽善者の存在意義
裏路地を歩んでいくユウゲンマガンは考えていた。
世は非情連なりし、厭世に満ち溢れたものであると。事実、何もかもを消し去った事件が起こり、無常感の大波は自身の会社をも飲みこんでしまった。其れはゼラディウスそのものを襲った。
多くの人々が死に、多額の経済損失が出た。何兆円に儘ならない、その被害総額は重くゼラディウスに圧し掛かった。
「……不可思議だ。時は常に冷酷無慙、隔たれた偽りの有象無象ですら飲みこんでしまうのに、人はすぐに気を取り戻す。
このゼラディウスの街のように、すぐに復興する。そして多くの人の顔に笑顔が舞い戻った。
徹頭徹尾、笑わせてくれる話だ。何せ、全く先が見えないのに、さぞ予知したかのように復誕を成し遂げてくれるのだから」
ユウゲンマガンはレイラにそう語りかけた。
非情に過ぎないと仮定したとして、彼女は矛盾点と為る復興の速さを気に掛けていた。
厭世に覆われた世界なら、何時までも記憶としてかの被害を頭から忘れられないであろうが、人々はさぞ元気に過ごしている。無常憚らぬ、現実逃避とも言えるのか。忘却の彼方にかき消えた、存亡の歴史は敢無く消え去ってしまうのだ。
重たい顔をしては、ひんやりとした路地の中で静寂を突き破って話し続けるユウゲンマガン。
その様子は、何処となく自己に自信を喪失させ、現実から解脱しようとしていた、一種の生霊のようであった。
「……私は頑迷固陋、厭世に固執していた一人の未熟者であった。
―――何でも屋として生きていくうちに、存在としてのレーゾンデートルの價を考えてみたが、自己意識の欠片すらも創痍したアクロトモフィリアのようだった。
……自らの固定化された意識に溺れた、否、溺死したインビジブルな死体に為り得たのさ」
彼女は悲愴に暮れた、残酷な運命を口にした。
自身の意識が固定化された概念そのものに変貌し、変化の可能性も完全に否定してしまう自分の恐ろしさを自己を通じて語ったのである。
レイラはそんな元社長の辛さを分かっていた。信頼していた社員もとい仲間を唐突の事象で失い、自らの歩むべき道から逸れてしまった憐れみを全て理解したつもりでいた。
だからこそ、レイラは彼女を呼んだのかもしれない。
自ら何かを打ちひしがれ、自ら助けを求めずに自己を痛めつけ、過去への贖罪をしてきた彼女に、救いの手を差し伸べる為にも。
彼女は誰かの救済を待っていた。神であろう、死神であろう、自らを導いてくれる何かを必死に求め、縋りたかったのだ。
「……なら、自己の在り方を見つければいいじゃないですか。
―――手伝いますよ?社長、私だって何か手伝えるはずです。て言うか手伝わせてください」
「……頼りになるな」
ユウゲンマガンがレイラの必死の思いを受け止めたた時、彼女のスマホが懐で揺れ始めたのだ。
其れを手取った時、相手を確認した。其れは見た事も無い人であったため、すぐに何でも屋の顧客であることを理解し、耳に充てた。
スマホの中では重たい声が響き渡る。
「―――はい、何でも屋のユウゲンマガンです。ご用件は何でしょうか」
「……何でも屋のユウゲンマガンさん、でしたよね?」
「はい、そうですが」
「……単刀直入、用件を言わせて頂きます。
―――ゼラディウス地下、秘密結社フィオムのミサイル基地の爆破を要請します」




