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31章 死への衒い

2人はそのまま車両基地の奥へと足を進めていく。

先程ロリスが使った錆びたドアを開け、真っ暗闇の通路を全く恐れなしに歩んでいったのだ。

何も飾らない、無秩序の世界。其処は極めて畏怖と焦燥を涸らさせ、2人の感情を高ぶらせるのに十分であった。

やがて通路の先、僅かな灯りが垣間見えた。2人は咄嗟に壁の陰に隠れては、更なる先の様相を確認する為、息を殺した。


眼界には、お世辞にも綺麗とは言えない、埃まみれの空間がだだっ広く存在していた。

地下に設置された空間は熱気に満ち、多くの宗教徒と思わしき人々が空間の中で整列して立っている。

全員が白装束を纏い、その容姿さは何処か異常に感じる。天井に取り付けられた幾多もの蛍光灯の光は満遍なく空間を照らすが、その熱気は光に反射されるほど凄まじい。

ざっと数えて、宗教徒の人数は三百人程度か。2人は今、空間を見下ろすように設置された、二階の通路部分に出てきたため、全体の様相を見渡せた。

宗教徒が整列した先、其処には豪勢な黄金や白銀、白金の宝飾がなされ、その宝飾が囲むようにしてとある1人の遺体と思わしきものが壇上の棺桶の中に入れられている。

全く白骨化していない、今にも目を覚ましそうな遺体を入れた棺桶に蓋は無く、外気に晒されている状態だ。宗教徒は、其れを必死に崇めているようにも捉えられる。


すると、棺桶の遺体の前に姿を現したのは、他の宗教徒とは違って多少の宝飾を着飾った存在であった。

白装束でありながら白金のペンダントやサファイアの指環など、他の人たちとは明らかに区別出来る成り立ちであった。

2人はその存在がマイクを構えた為、耳を傾けた。空間に誇張して響き渡る、華奢な声。宗教徒たちも、その声を有難味を持って聞いていた。

咳を一つ吐き、話は竟に始まった。


「……ゴホン、偉大なるサリエル様は我が教団フィオムの象徴となるお方である。

今から大凡、約4000年前に偽の神の降誕を退け、今のゼラディウスの基礎となる元を作り出した、真たる神からの最期の予言者なのだ。

サリエル様は我が教団の唯一神、フィオムからお告げを受けた、神聖な身殻にしてあり、我々は更なるゼラディウスの発展をサリエル様の後継ぎとして心底願わん。

だが、今のゼラディウスは誠に非情たるもの、政治は乱れ、サリエル様が築いた基礎も食い尽くされ、残されたのは決して裕たる途では無い。

―――我々、教団フィオムは遂に動く時が来た!!……そう、時は満ちたのだ!!

我らがルイズとパチュリー、そして多くの仲間はゼラディウスを駆ける暴君に牙を剥かれ、その命を落とした。……この状況を黙っているのは死んだ我らが同士への愚弄では無いのか!?

我々、教団フィオムはフィオム様の教えを以てして、全力で暴君に歯向かうべきなのでは無いのか!?……サリエル様もそれを望んでいるだろう!

殺戮をてらい、血生臭さを豪語する輩に、我々の真たる強さを教えようではないか!!我らが教団フィオムの、本当の力を!!」


その時、三百人規模の宗教徒は大歓声を上げ、賛同の意思を見せた。

どうやら"殺戮を衒い、血生臭さを豪語する輩"とはユウゲンマガンとレイラの事のようである。当事者の2人は演説を聞いて、寧ろ面白く感じた。

空間の中で大歓声を上げる者共がか弱く見えたのだ。そして、調子に乗っている奴らへの見せしめとして、全員を剣の錆にしたくなったのだ。

陰で隠れ、状況を見届けていたユウゲンマガンは馬鹿馬鹿しく思え、嘲笑して見せた。

見下ろすように設置された通路から、声高々に嘲り、嗤い、全員の視線を買った。


「雑魚が幾ら居たところで話は変わらないのさ。……此処が教団フィオムの本拠地と聞いて、私たちからやって来たが。

今日はお前たちに最高の御持て成しをすべく、な。……私たちを殺戮を衒う愚か者と称せる自信があるんだから、楽しませてくれよ…?」


そう言った時、ユウゲンマガンは通路から一気に飛び降り、宗教徒のいる場所に降り立った。

一般人に等しい、白装束の宗教徒はそんな彼女を恐れ、徐々に距離を取っていく。

一気に静まり返った空間の中、異変を察した宗教祖と思われる、先程まで演説をした人物がユウゲンマガンの元までやって来た。

血に濡れた剣は床に滴り、その場の恐怖を更に醸し出す。そんなユウゲンマガンを恐れず、宗教祖はユウゲンマガンの顔をしっかり見ては口を開いた。

銀髪の長い髪の毛が特徴的な、好青年に見える宗教祖は何処か彼女を悍ましく思っていた。


「―――何故、此処に!?……この場所は完全に秘密のはずでは…!?」


「……元々此処に所属していた人物からの密告。…哀れだな、恨むなら密告者を恨め」


そう言った時、ユウゲンマガンは剣を構えた。

剣を構えた瞬間、宗教徒たちは怯え、悲鳴を上げながら彼女から離れていく。

宗教祖は早速野蛮な行為を取るユウゲンマガンに苦い顔を浮かべては、持っていた杖を武器代わりに構えた。

杖には水晶などが装飾されたが、この場に装飾の有無は全く関係ない。……全ては強さ、強弱が勝負を決するのだ。


「―――随分と腰抜けな仲間たちだな。口では何でも言えるしな」


「……黙れ、愚か者!…貴様はこの私が教団フィオムを以てして倒す!

―――我が名はルドルフォン・シリウス・フィオムアンデライト3世……教団フィオムの教祖にして、世界に希望を与える者だ!!」


◆◆◆


「随分と長ったらしい名前…覚えにくいね」


ユウゲンマガンは剣を以てして、一気に斬りかかるも彼は攻撃を杖で受け止めてしまう。

だが、彼の持つ力は圧倒的に弱く、ユウゲンマガンが力を込めただけで杖は遠くへ飛ばされてしまう。

予想外の展開なのだろうか、目を丸くしていた彼は怖気るも、飛ばされた杖をすぐさま拾っては構え、怯えない姿勢を見せた。

だが、彼女は既に分かっていた。……彼の力がどの程度であるのか、を。


「―――そんな程度で私たちを殺そうとしてたのか」


「まだだ!!」


彼は余裕そうな顔面を浮かべるユウゲンマガンに対し、遂に拳銃を取り出した。

拳銃の銃口は何回も火を噴き、目の前にいた彼女を穿とうとするが、対象は何時の間にか忽然と姿を消してしまっていた。

拳銃を構える彼が戸惑う間隙、彼女は彼のすぐ後ろに立っては剣の一撃を与えようとした。

気配で察した彼はすぐさま其の場を離れ、彼女の剣戟を避ける。攻撃を躱されたユウゲンマガンは非常に不機嫌そうな顔をしていた。

その不機嫌さを欝憤としてカタルシスする為に彼女はすぐさま彼を斬りかかった。


余りの猛攻に彼はたじろいでしまっていたが、杖を駆使して何とか攻撃をやり切る。

ユウゲンマガンは彼のしぶとさに舌打ちして、更に攻撃を仕掛けていく。その間、僅か数秒と言う瞬間の事象だ。

深紅且つ鮮烈な赤に飲み込まれた剣は彼を消し去る為に動きが見えない速さの斬撃で襲い掛かるも、彼は攻撃を避ける。

その俊敏さはユウゲンマガンも体験したほどが無いと言えるほどであり、守りに徹底している彼を崩すのは難航していた。


「そろそろ此方の出番とさせて貰おう!!」


彼は拳銃を構えては一気に銃弾を放出した。

適当に放たれる銃弾の雨あられにユウゲンマガンは苦そうな顔をしていながらも、一発たりとも被弾しない。

その動きは正しくして疾風迅雷の勢い、銃弾を完全に見極めていた彼女は徐々に彼に至近していき、遂には彼の後ろへと回った。

彼が気配を感じ取った時には既に、彼女の剣は彼の腹部を貫通していたのだ。

血が滴り、剣の刀身を雨雫のようにゆっくりと伝っていく。狼狽の声をあげていた彼に、彼女はただ嘲笑していた。

人の死を貪る、そう、まるで悪魔のように。


「お前の出番は此れで終わりだ。自分の非力さを嘆きながら、お前の仲間の死をゆっくり観劇しているんだな」


「貴様、何を……!?」


彼は剣を刺されたままであったが、驚愕の声を咄嗟に上げては彼女に問い質した。

すぐさま剣を抜き、もう一度狼狽える彼はユウゲンマガンに恨みを募らせた眼で睨んでいた。

彼が纏っていた白装束は深紅に染まり、周囲は騒めいていた。宗教祖が易とも簡単に、かの殺戮を衒う者に負けたのだから。

彼女が同じ人間であるとは思えない、別の何かだと彼らは認識し、竦みあがっては怯えていた。


「―――私たちの敵を生かす訳には行かない。…後々面倒になると困るからな」


返り血を浴び、一層な悍ましさを見せたユウゲンマガンは静かにそう語った。

剣を納刀し、腹部を貫かれては蹲る宗教祖を嗤うも、その眼は嗤っていなかった。

殺戮への厭いは既往消失し、彼女は怯える宗教徒たちへ殺害の意思を抱いていた事を、今この場で明らかにしたのだ。


「まさか、貴様……」


「―――貞操概念なんて、とっくの昔に捨てちゃったのさ。……許せ」


そう言った時、彼女の目が密かに笑っていたのを―――彼は目撃した。

逃げ惑う宗教達だが、虚しい事に出口はたったの一か所しか無かったのである。其れも、2人が潜入したあの場所だ。

拳銃を構えるレイラが其処には存在し、急いで出口へやって来た彼らを震撼させた。戦慄に震え、逃げ場を失った彼らは―――もう、どうしようも無かった。


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