30章 刹那の閃光
今まで信じていた政府の連中は、ユウゲンマガンと言う失敗作の隠蔽を図ろうと試みた、ずぼらな奴らであった。
彼女は深紅の剣を構え、薄暗い車両基地の中で抗う2人に対して牙を剥いたのである。その牙は鋭く、至極冷酷なものであった。
剣の一振りを容易く躱すリリカと咲夜は対抗するかのように武器を以てして攻撃を図った。
咲夜の投げナイフはユウゲンマガンとリリカに対して投げ放たれるも、見事に攻撃を予見して身を反らす。
そのままナイフは列車の鋼鉄に刺さる事も無く地に落ち行き、同時にリリカの拳銃が火を噴いた。
銃弾はそのまま2人の顔を穿とうとするも、華麗に動くユウゲンマガンは銃弾をあたかも無いように振る舞う。
すぐさまリリカに至近しては剣戟を放とうとするも、その一撃は咲夜のナイフを盾として受け止められてしまう。
「―――我々は隠れて貴方たちの死を見守る立場でしたが…もう時効を迎えたようですね」
「こういう運命を共にするとは思わなかった、事実は小説よりも奇なりとは言ったものだな」
此処で放たれたのはレイラの銃弾であった。その銃弾は攻撃を塞ぐ咲夜を狙っていた。
すぐさま咲夜はその場から離れ、一旦ユウゲンマガンから距離を置いた。逃げを図った咲夜に近づこうとするも、此処でリリカの銃弾が放たれ、上手く近づけない。
剣の刀身は細長く、決して銃弾を防げるほど安全なものでは無い為、ユウゲンマガンも列車の陰に隠れてその場を過ごした。
リリカは此処で追い打ちをかける為、陰に消えたユウゲンマガンの元へ駆けた。咲夜はリリカの走る方向とは反対方向に駆け、ユウゲンマガンの挟み撃ちを考えた。
しかし、咲夜の考えは自身が蒙っていた傷が許さないでいた。…腹部に生じる痛みが咄嗟な狼狽を作り出し、上手く動けない。その間隙を狙うレイラはすぐさま咲夜に対して発砲を行った。
銃弾は見事に咲夜の右肩のやや下寄りと背中の左腋の2箇所を穿たれた。
だが、咲夜はそれでも駆け抜けた。流血し、黒いスーツ服に滲みが出来上がるも、歯牙にもかけないで挟み撃ちをしたのだ。
列車と列車に囲まれ、前後は咲夜とリリカに挟まれたユウゲンマガンは剣を構えるも、冷や汗を掻いていた。
「……此の場でどう対処することが最準たる解なんですか?」
「さぁな、其れは……こうすることか?」
咲夜に問われ、徐々に追い詰められていたユウゲンマガンは答えを既往導き出していた。
深紅の剣は暗闇の中、ただ冷酷無慙さを帯びては悍ましさを引き立たせる。そんな剣を扱う彼女は2人が脅す武器など、全く"どうでもよかった"。
その時、彼女は停泊していた列車の窓を剣の一撃で突き破り、挟み撃ち状態から逃げ出したのだ。
窓が鮮烈な音を響かせて割れ、咲夜とリリカは全く頭に浮かんでいなかった答えに驚愕し、急いで彼女を追い詰めようと図る。
「……そういう答えですか!」
その時、投げナイフを用いては同じく列車内に乗り込んだ咲夜はユウゲンマガンと対峙して見せた。
彼女は睨んだ顔を浮かべ、傷を蒙った2箇所から血を流しながらも、そんな事を気にしないでナイフを投げてきたのだ。
ナイフは鋭さを帯びており、ユウゲンマガンを刺さんと襲い掛かるも、彼女は列車内の手すりや吊り革を用いて身の熟しを軽くし、咲夜に近づいたのだ。
トリッキーな戦法に戸惑いながらも、咄嗟に拳銃を構えてはユウゲンマガンを狙おうとするも、銃弾は的外れな方向へ飛んで行ってしまう。
「―――終わりだ」
その時、一つの剣戟は咲夜の腹部を一閃し、閃光が刹那に迸った。
咲夜はそのまま意識を失い、狼狽え声を上げた後に仰向けに倒れてしまった。
残ったリリカを倒すべく、ユウゲンマガンは血濡れた剣を持って、自身が突き破った窓から列車を飛び降りた。
リリカはレイラと銃撃戦を繰り広げており、銃声が淡々と響き渡る。此処で彼女は裏へ回り、銃撃戦に無我夢中であったリリカを背中から一気に斬り抜けた。
血飛沫が噴きだし、其れは停泊していた列車に掛かった。
脊髄をもやられた彼女は一瞬にして倒れ、銃撃戦はその場で終わった。
レイラはリリカと咲夜を倒したユウゲンマガンの、何処と無い残酷さと冷徹さに尊敬の意思を抱いていた。其れも、貞操概念を捨てた者同士の通じ合いなのかもしれない。
◆◆◆
「……私は偽のユウゲンマガン…。…増々面白くなって来たな」
クローンのインジケーターである彼女は真実を知って、さぞ興奮気味であったようだ。
本人そのものの記憶を刷り込まれ、閃光の意思を入れられて生まれた、殺戮人形―――ユウゲンマガン。
知能も、その体術も頗る高く、周囲から一見置かれている存在。…彼女は更なる"管理された戦争"の行く先を見たがっていたのだ。
「―――この先に教団フィオムの本拠地があると言ってましたね。…どうせ私たちが囮なら、囮らしく殺戮に更けましょうか……」
レイラは不敵な笑みを浮かべ、そう発言した。
其れにユウゲンマガンは同情の意思を垣間見せるかのように唇に弧を浮かばせた。
暗闇の中で血塗れて倒れた2人を知らないかのように立ち振舞い、管理された抗争を嗤い、血を好んだ2人は―――或る意味、世俗の恐れる殺戮狂であったのかもしれない。
正義を知らず、また別の正義を知らずして、自己の正義を生きる。此れこそが彼女なりの信念であったのだ、と。
◆◆◆
「―――分かった。報告感謝するよ」
スマホの通話を切り、与えられた情報に溜息を吐いた彼女。
その相手は無能な警察が兵器を用いてまでも取り逃がした、2人の情報であった。
警視庁は全力を挙げて2人の捜査を行っているらしいが、其れはどうも信じられないでいた。こんなに身近にいる存在に手古摺っているからだ。
痴呆で魯鈍な真似ばかりする警察に失望し、回転椅子に座っては夜のゼラディウスを眺めていた彼女は、足を組みながら先を案じた。
「待ってて、ユウゲンマガンにレイラ。……2人は忘却しているよ。国民が2人への虞に震え、ゼラディウス中が震撼していることを……。
―――私は大統領、正義の味方なんだから……国民を守って見せる。ドレミーとは違って」




