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28章 終わりなき閃光

2人を乗せたバイクは、人通りの少ない凾渠コントロールセンター前駅のロータリーに停車された。

この駅の利用者は他駅と比肩して極めて少なく、ゼラディウス高速臨海鉄道の何時もの姿を見せない駅である。

全く混雑していない事に、今さっきまでセントラルパーク駅などに居た2人は戸惑いを多少感じたものの、寧ろ好都合であった。

2人は早速駅に乗り込み、警察に狙われている指名手配犯とは全くの赤の他人を演じながら入場券を購入し、ホームへと降り立った。

方向的に考えて、車両基地はセグメント駅の方角であった。2人は誰もいない地下のホームを歩き、遂に一番端までやって来た。

線路が敷かれた地下トンネルは点々と設置された蛍光灯の明かりだけで淋しく、何処か不気味さを漂わせていた。


2人はまだ列車が来ない事を確認すると、誰にも気づかれないようにホームを下っては線路に降り立った。

改めて線路の幅が大きい事を身に染みて感じた2人は、一気に奥へと向かって駆けた。その線路は下り線、2人が進む方向とは反対方向に列車が進む。

つまり、2人と列車は正面衝突する可能性が充分に高く、此れは非常に危ないと言えるものだったのだ。

だがどうした、今まで危険と常に隣り合わせで、今も警察官たちに狙われてる身であり、逆にこのような状況のほうが彼女たちに向いているのかもしれない。


ただ蛍光灯が幾多も等間隔に敷かれた空間は、非常に飽きを催す。何せ景色に変遷なぞ無いのだから。

すると、急に線路に振動を感じた。2人は直感で何が起こったのか理解すると、急いで壁の陰に隠れた。

その瞬間、閃光のように迸った衝撃が真横で通過していったのが分かった。―――列車である。とてつもない威圧感を放った存在は、高速で駆け抜けていったのだ。

体感では感じきれない"何か"を全面に受けた2人は恐怖に襲われ、身体が震えていた。


「こうしてはいられない、先を急ごう」


「は、はい」


ユウゲンマガンはレイラにそう呼びかけ、再び歩みは始まった。

寒い風が何処からか吹き抜け、水の雫が滴る音が誇張して聞こえ渡る。地下特有の寒気が、更に2人を居心地悪いものにさせた。

風圧が凄まじかった、列車の通過。あれが此処で何度も行われていると自身の中で反芻させてみると、不思議な事に震えが生じる。

何気普段通りに使用していた、人間の発明機を敵に回すと恐ろしいのだ、と。下手な兵器よりも何倍も恐ろしく、何倍も高火力のような気がしてきたのだ。

それでも彼女たちは屈せず、前へ進んでいく。線路の、ずっと奥まで突き進んでいく姿に、何処か畏怖を抱いて。


深淵に進むにつれても蛍光灯の明かりは一切の変化を見せないが、線路は遂に姿の変遷を映した。

2人の奥では、線路が二手に分岐しているのである。一つは直線に進み、もう一つはゆっくり紆曲しては蛍光灯も無い暗闇の中へと消ゆ。

ネットワーク設備が敷かれた地下鉄の構内でGPSを起動してみれば、今自分たちがあの凾渠近くの平原の近くにいることが分かったのであった。

……彼女たちは確信した。この、線路が曲がった先に何があるのか、を。


「―――案の定、あったようだな」


GPSで位置情報を確認する為にスマホを取り出していた彼女は、其の先の何かを確信した。

咄嗟に懐にスマホを仕舞い、冷える風が吹き抜ける中で彼女たちは紆曲した先の暗闇へと足を進めた。蛍光灯すらも一切無い、真たる暗闇へと。

剣を何時でも抜刀出来るように右手で剣の柄を持っていながら、恐る恐る歩みを止めなかった。

本線から離れ、遂に2人は曲がった先の離線へとやって来た。線路が紆曲した先は只管直線で、奥へと2人は駆け抜けた。

地下空間に足音が誇張して響き渡るも、静寂さで何も邪魔が無い。走り行く2人の前に、あったのは暗闇だけだ。


すると、線路が幾多も枝分かれして、其の先にあったのは何個も停められた電車であった。

そう、ゼラディウス高速臨海鉄道の車両基地である。今も運転していない何本かが此処に停車されたままで、辺りは真っ暗だ。

整備員も無しで、静かさが余計な不気味さを生んでいる。


「……おかしいぞ、誰もいない…?」


「誰もいないのは逆に好機じゃありませんか?だって、誰にも私たちを邪魔されないんですから!」


「それもそうだ、此処に何かあるはずだ。探るぞ、教団フィオムの意向を示す鍵を」


2人は車両基地で教団フィオムと因果がある物を捜し始めた。其れはまさしく闇の中で手を探る無鉄砲な行為である。

しかし、彼女たちは確信していた。凾渠の域拡大を妨害するならば、決して何か邪魔されたくない何かがある、と。

他に霊怪な場所をGPS機能を用いて捜してみたものの、全くと言っていい程無かったからだ。其れに、貞操概念を捨てた者達に厭わぬ事は何もない。

2人は手分けして車両基地の設備の何もかもを手に取って捜索した。あの、教団フィオムの紋章があるかもしれないからだ。

だが、無暗な捜索は厳しさの一途を辿った。……何も見つからない。2人は一旦合流し、列車に靠掛かって状況を報告しあう。

流れる汗は、捜索の辛さを物語っている。今頃、必死になって2人を捜査している警察官たちも同じ心境なのだろうか。


「…レイラ、何かあったか」


「私は何も見つかりませんでした~。…やっぱり、何も無いんでしょうか」


「……私の見当はずれな憶測に過ぎなかったのか」


ユウゲンマガンは左手で髪の毛を掻き毟り、真実を探る為に脳裏の何から何までをも思考した。

思考、つまり考えること。彼女は可能性があるであろう全てを、隅から隅まで解析した。その時、彼女は答えに辿り着いた。

其れは彼女の中に電撃が迸ったかのように目の前が明るくなり、何かを見いだせたのだ。

そして、自身の身体が急激に熱くなった。まるでスーパーコンピュータが稼働している時のような、常体温度を遥かに超越した温度である。

服からもその熱さが視えるように、仄かに輝いている。両眼が灼眼となり、真っ赤に染まって。


「……しゃ、社長、その身体、一体どうしたんですか!?」


「―――レイラ、私は遂に理解した、理解したぞ!!」


ユウゲンマガンは何かの呪縛から解放されたかのように明るい顔を浮かべ、口を開いた。

さっきまでの輝きは既に無く、熱さも失っているが、彼女が決して只の人間では無い事をレイラは確信した。

かの一流企業であった、プロメテイア・エレクトロニクス社の経営者たる存在の、真たる姿を見せた時であった。


「此処はゼラディウス高速臨海鉄道の凾渠車両基地、昔に凾渠の水が地下鉄軌道構内に流れ込んだ事件を知ってるか?

あの時は確か凾渠からの水を外へ流し込むポンプの故障だったんだが、その時車両は此処へ避難された……。

その時、此処の奥にある部屋から非常用ポンプが操作され、その事件は難を逃れたんだ。

―――そうだ、此処は最深部では無い。…更なる奥があるはずだ!!」


「しゃ、社長!!」


レイラは驚愕も引っ込み、全く不思議そうな顔を浮かべては興奮気味のユウゲンマガンを止めた。

制止されたユウゲンマガンは一旦熱くなりすぎた事を反省したのか、正気に戻り、目の色も黒に帰った。

だが、レイラは全く以て理解出来なかった。…何故、非常用ポンプが操作された場所を知っているのか、を。


「……どうして此処の奥の存在を知っているんですか?」


「……私は…何を言ってたんだ…?」


正気に戻ったレイラは先ほどと比肩しては、自分が異常に熱くなっていた事を知らないでいたのだ。

記憶が無く、彼女はレイラと同じように全く不思議そうな顔を浮かべていた。しかし、レイラは見ていたのだ。

ユウゲンマガンが、唐突に知らないことまでもを解析、検索したかのように、具現化されたオーバーテクノロジーの集合体である一面を。

スーパーコンピュータとも劣るまい、恐るべき第二の姿を。


「……社長は今さっき、この車両基地の奥の部屋に何かあると仰ってましたが」


「……私はそんな事を言った覚えはない。諧謔のつもりか」


彼女は真剣そうな顔を浮かべ、真正面から発言を否定した。

レイラは戸惑いに満ち、この状況を理解出来なかった。社長が、二重人格であった事に気づいたからだ。

しかも、只の二重人格では無く、もう一つの姿はコンピュータになったかのようであった。

この時、レイラはユウゲンマガンの背中の左の首元近くに何やら変なものが見えていたのが分かった。

そっぽを向き、悩んでいた彼女に気づかれないように至近に迫り、首元を見据えた。そして、彼女は真実を知ったのであった。


―――其処には、普通の人間にあるはずがない、元プロメテイア・エレクトロニクス社のロゴが刻まれていたのだ。


―――其れは通常過程では生まれない、特別な存在……そう、"インジケーター"である、と。


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