21章 煩悩の解放
車はそのまま居酒屋である虻川に到着し、裏方に再び案内される。
其処にはリリカが座っており、テレビで報道される濃い内容の数々を成し遂げた2人を見ては何処となく偉大さを尊敬していた。ソファに腰かけ、天井に淋しく灯る蛍光灯の下、咲夜はリリカの横に座って話し始める。
ユウゲンマガンは連日マスコミが報道する内容にげんなりしており、倦怠感が何処か抜けない。
「―――テレビで観ましたよ。国際フォーラム爆破って……」
「リリカさん、今回は其れよりももっと重要な話なんです。此処では枢要的な事を言っておきたいんで」
彼女の言葉を制止させた咲夜は真剣そうな顔面を浮かべては、重々しく口を開いた。
レイラはそんな彼女に呼応すべく終始真剣だったが、ユウゲンマガンに関して言えばやる気無さそうであり、脱力していた。後ろめたさが感じられ、儚い幻滅を捉えていた。熟々《つらつら》と途方もない何かを悄然として思い廻らせていたのである。
そしてリリカはこれから起きるであろう事の重大さに何か不安を感じていた。杞憂のように、事の重大さを過大的に捉えて。
「……今までの大統領は偽物でした。本物の大統領は今、別の場所にいます。
―――教団フィオムの考えは、私たちに囮のミッションをさせ、自己満足に浸らせることで、別の場所で充分に作戦を施行出来るからです。……実際、私は大統領のスマホをハッキングしたんです。
しかし、人の命を残忍に扱う大統領なら殺されるかもしれない、と内心怯えきっていた非力な自分がいたんですよ…」
咲夜は淡々と語りだした。
其処には今まで政府広報として感じた事、思った事の何もかもを吐きだすかのようであった。
3人を、彼女は信頼できるのだろうか。貞操概念を捨てた、寧ろ融通無碍且つ艱難すら知らないような極悪人を、信用できるのだろうか。ユウゲンマガンはずっと自己に囚われることを意識し、そう思っていた。
咲夜はスマホ画面を3人に見せる。絢爛と輝く画面には、乗っ取った先の偽大統領ことエリスがやり取りしていた内容が全て露見出来る。
「パチュリー・ノーレッジ。…ルイズ。
この2人が金字塔って呼ばれてるらしいね。…通称『フィオムの魔術師』。…莫迦みたいだけどね。
―――で、情報だと偽大統領曰く、『本物は極秘監獄にいる』って言ってるようで。
場所を突き止めた結果、内容と照合して、奴らはゼラディウス監獄の地下にいるようです。…そう、サニーミルクさんが投獄された場所です」
「でも、ルイズと言っていた人物は既に私たちが殺したような……?
―――国際フォーラム爆破事件の時、地下実験場にいたルイズと言う奴を倒しました、確か」
「……其れは偽物です。影武者でしょう」
咲夜は断言して見せた。何か裏付けでもあるのだろうか、彼女はレイラの言葉を頑なに否定しては、影武者と言う言葉を用いて見た現実を説明して見せる。
其処には無理やりな箇所も見受けられたが、咲夜の勢いを止める事は出来なかった。熱弁し、教団フィオムが本物の大統領がゼラディウス刑務所にいる事を証明している。ユウゲンマガンは聾者のように立ち振る舞い、レイラとリリカは誣罔無く話す咲夜の言葉を一音便たりとも聞き逃さないような構えをしていた。
「ともかく、今はゼラディウス刑務所に向かいましょう。
……車で向かいましょう。…リリカさん、車の運転を任せられますか?…今回は私もついて行きたいので」
「あっ、分かりました。運転なら任せてください」
「なら良かったです。―――私は2人と共に戦います。…話が早くて助かりました」
彼女は立ち上がるや、何かを決心していた。
レイラは関係無さそうに欠伸をしては、只傍観しているユウゲンマガンの右手を引っ張り、無理やり起こす。急に立たされた彼女はさぞ不機嫌そうであったが、対照的にレイラの眼は煌いている。
これから起こるであろう事象を前に、自らを正義と見立てているかのように。…彼女から見れば滑稽なものだが、今まで共に居た以上、追攀せしめし釜庾の感情、付き添うしか無い。
「―――早めに終わらせる。……どうも嫌な予感しかしないのでな」
そう言うや、一行は外に停めてある車へと向かった。
点けっぱなしのテレビでは、ユウゲンマガンたちが行ってきた行動が一連で再現されており、ゼラディウス国民の反感を買うのに容易いのは現実であった。




